半神の願い scene-18
教皇の間の人口密度は平時より高かった。
教皇と童虎の他に当代黄金聖闘士(以降当代)10名、先の黄金聖闘士(以降先代)10名、総勢22名が集まっている。
最も平時よりも高いというだけで広さ的には何の問題も無い。
そう、広さ的な問題は無い筈なのだが・・・空気は悪かった。
童虎も何故としか思えない。
口論があった訳ではない。
口論以前にまだ何の打ち合わせも行っていない。
だと言うのに、先代と当代の間に漂う空気が悪かった。
(同族嫌悪というやつかのぉ・・・)
元々温厚な牡牛座と年齢に差のある獅子座は問題ない様に見える。
乙女座は外で早々に衝突しているので論外な上に、今もまだ戻ってきてはいない。
牡羊座は師弟であり、聖戦から半年も共に過ごしていたのだから大丈夫かと思いきや聖衣の件で未だに衝突気味。
蟹座は面倒くさそうなデスマスクをマニゴルドが呆れた顔で見ている。
双子座は双方(とは言え、当代は1人欠けているが)共に睨み合い。
射手座はこの状況に頭を悩ませている様子ではあるが、お互いに警戒は解いていない。
蠍座はミロは興味なさ気だが、カルディアは手合わせがしたくて仕方が無いといった表情だ。
困った事に山羊座は双方ともカルディアと同じ様な表情をしている。
魚座はアフロディーテが対抗心剥き出しだが、アルバフィカは気にした様子が無い。
残った水瓶座はと言うと弟子達お心配して心此処に在らずなカミュを、理由を知らないデジェルが怪訝な表情で見ていた。
天秤座は自分1人で良かった、と童虎が思ってしまったのは仕方の無い事だろう。
「さて、今後の事だが・・・誰が宮の守護に付くかを話し合いたい」
リハビリ兼用の訓練で時間を稼いでいるとはいえ、星矢は必ず十二宮を通る。
その時、当代と先代のどちらが表に出るか。
一部揉めるであろう事はシオンも童虎も承知しているが、避けては通れないであろう話はさっさと済ませてしまうに限る。
「あのさ、オレはもう決定だろ?こいつがテ・・・天馬星座に会って大丈夫だったんなら」
「お主はすんなりと星矢と呼べるようになったら此処を出ても構わんぞ」
いつもの笑顔満開で童虎が言う。
先の聖戦時、大抵の聖闘士はお互いを守護星座で呼んでいた。
個人の名前で呼ぶものは少なく、先に星矢と接触したエルシド・マニゴルド・アスミタも同様に。
しかしレグルスは違った。
歳も近く、共通の友人である耶人を通して知り合った為か、守護星座ではなく個人の名前で呼んでいたのだ。
今もテンマと言いそうになった所を慌てて守護星座で呼んだのだが、星矢からすればそれは違和感の原因にしかなりえない。
『意地の悪い事を・・・』
『何を言うか。星矢の負担を減らす為じゃろうが。ほれ、レグルス本人も分かっておる』
童虎に促されシオンがレグルスの様子を見れば下を向いてブツブツと何かを呟いている。
口の動きを見てみれば、名前を呼ぶ練習をしているだけだったのでシオンも放っておくことにした。
「シオン、レグルスが名前だけでOKならオレとエルシドも確定だよな?」
「そうだな。今からそいつ等が出て行っても天馬星座を混乱させるだけだろう。構わないな?シオン」
「う・・・むぅ・・・」
今でこそ教皇と呼ばれているシオンであるが、先代にとっては童虎共々後輩にあたる。
力関係からすれば先代>シオン・童虎>当代となるのは当然の事で、冥闘士として蘇ったとは言え強く出る事が出来ないのだが。
「抜け駆けしといてよく言うぜ」
「この半年間の我々の気持ちなど貴様等には分からないだろうがな・・・」
デスマスクとシュラ、そして他の当代達の気持ちも共に過ごしたシオンには痛いほどに分かる。
『これが世に言う中間管理職というものかのぉ』
『童虎・・・それは違うと思うが・・・』
こんな事になるならば自分が大滝の前に座っていたかった、と肝心な時に意識を失ってしまった自分を恨まずにはいられないシオンであった。