半神の願い Secondscene-01
十二宮の入り口である白羊宮。
それを見上げる一人の女性が居た。
決意を眼差しに込め、その足を白羊宮へと踏み入れる。
何としても、この先にいる人物に会わなければならない。
彼女が此処に入る事は許されていない。
いや、彼女だけでなくこの地の主神であるアテナに認められた者以外は踏み入れてはならぬ場所へと進める歩は、微かに震えを見せながらもしっかりとしていた。
見つかり、咎められる事を覚悟して十二宮へと踏み入ったが、ここ人馬宮まで咎める者は誰一人として居なかった。
目的の人物は確かにこの上に居ると確信はある故に、例えこの状況が罠であったとしても彼女には足を止め引き返すという選択肢は無い。
「目的を話して貰おうか」
人馬宮もこのまま抜けられるか、と思っていた所へ声を掛けられ、彼女は背後を振り返った。
「・・・聖域に、アテナに害意は有りません」
「それは承知している。何せ、双児宮を抜けて此処まで来れたのだからな」
「しかし、目的も語らぬ者をこれ以上先に進ませる訳にはいかない」
彼女が答えを返すと、声の主が2人に増える。
誰もいないと思っていた人馬宮内に同じ意匠の鎧を纏った、双子かと見間違える程に相貌の似通った2人の男が彼女の前に姿を露わにした。
一方は明るい陽の光を集めたような輝きを放ち、一方は暗い闇の輝きを集めた光を放つ。
「アテナは無用な暴力を厭う。が、目的を語らぬならば容赦は出来ん」
「ここ人馬宮の守護者として再度問おう。貴女の目的を教えて貰いたい」
彼女は悩んだ。
何処まで彼らに話して良いものか、と。
自分の願いは到底、聞き入れて貰えるものではないと自覚している。
それでも、一縷の希望に縋る気持ちでこの地へと足を運んだ。
目的の人物に断られるならまだ諦めがつく。
だが此処で断られ、目的の人物に会えないとなれば・・・残るのは後悔だけだろう。
「私は・・・この先にいる者に会いに頼みたい事があるのです」
「この先に?」
「では、アテナに会う事が目的では無い、と言う事か?」
今、アテナは神殿どころか此処聖域内には居ない。
人である城戸沙織としての務めを果たす為に、今生のアテナは聖域よりも外界にいる時間の方が長かった。
今も数名の黄金聖闘士と共に日本にある城戸邸を拠点として責務に勤しんでいる。
故に、アテナの不在を知らぬが為にこの十二宮を上って来たのかと予想していたのだが。
「時間が・・・もう、無いのです」
思いつめた眼差し。
それを前にした2人
アイオロスとシジフォスは視線を合わせた。
彼女からは悪意の類は一切感じられない、
その言葉からもアテナが目的では無いと解ったが、ならば誰が目的なのか。
此処から上にあるのは磨羯宮、宝瓶宮、双魚宮、そして教皇宮と女神殿。
更に今現在人がいる場所となれば、限られてくる。
アイオロスは上に居る者達の戦力を考えても連れて上がっても大丈夫かと動こうとしたが、それをシジフォスが止めた。
彼女が普通の女性だったならば、そもそも此処まで警戒する事は無かった。
だが、常人以上の小宇宙を発し、そしてその身に纏う鎧が警戒を一段上へと引き上げる。
聖衣とは似て非なる物であり、シジフォスも一度も見たことの無い意匠。
いずれかの神の闘士なのだろうが、その神が解らない。
アテナと争っている神なのか。
それとも、アテナと友好関係にある神なのか。
例え彼女自身に敵意は無くとも、彼女の背後にいる存在にそれが無いとは言い切れない。
「拘束して頂いても構いません。此処を通して頂けませんか?」
動きも無ければ答えも出さない様子に、しびれを切らしたのだろう。
微かながらに、言葉に焦りと共に怒りが見え隠れしていた。
「すまないが、この上には今療養中の者達がいる。素性の解らぬ者を不用意に通す事は出来ない」
「事情を話して貰えれば、貴女が必要としている者を此処へと呼ぶことも
」
言葉を切ったアイオロスの視線が上の宮へと続く出口へと向けられた。
小宇宙はかなり抑えられているが、耳をすませば軽快な足音が此方へと近付いてきている。
「アイオロス!シジフォス!サガから十二宮に誰か入ってきたって聞いて様子見に来たんだ、け・・・ど・・・」
聞き馴染んだ少年の声が宮内に響き渡り、アイオロスらと向き合っていた女性が振り向くと少年は明らかな戸惑いを見せた。
女性もまた、少年を目にし喜びと悲しみ、相反する感情が入り混じった表情を向ける。
そしてアイオロス達が止める間もなく、駆け出していた。
「あ、え、嘘・・・だ。まさか・・・」
「
っ!」
女性は人馬宮へ入ってきた少年
星矢を強く抱きしめた。