海渡の聖闘士 第01話
「・・・此処は何処だ・・・」
「んなこと解るかよ」
「聖域にこのような場所は無かった筈だが」
「誰の小宇宙も感じないって言うのはおかしいな」
目の前に広がっているのは大海原。
つい先程まで、オレは確かに教皇の間に居た。
後ろに居る3人と共に。
確かデスマスクが昼にしようと言った為に、教皇の間から出たら・・・今の場所に居たんだったな。
「落ちた、か」
オレの言葉に3人が視線を向けてくる。
「アンタの言ってた穴ってヤツか?」
「そうとしか考えられない。どれだけ範囲を広げても見知ったコスモが感じられないからな」
周囲の気配を探ってみれば大陸と言える程の面積は無く、島と呼んだ方が良い広さだった。
人の気配は感じられる為、無人島の類では無い。
「この先に人の気配が集まっている。取り敢えずは其処で情報を集めようと思うんだが・・・お前達、クロスは脱げよ」
ゴールドクロスは良くも悪くも目立つ。
こんなのを3人も連れて歩いていれば注目を集めてしまうだろう。
ただでさえ、教皇の衣裳を身に着けているオレだけでも目立つと言うのに。
「しかし、聖衣箱も無い状態で何処へ置いておけば」
人気のない場所とは言え、此処に置いて行くのは不安か。
方法は無くも無いが・・・この場合は仕方ないな。
「オレが何とかしてやる」
封じの力を使って封印具を作りそれとクロスの波動を繋げ、封印具の中にクロスを封じて見せれば、大抵の事には驚かなくなっていた3人も素直に驚いていた。
「バングルならお前達が付けていても違和感は無いだろ?失くすなよ」
「・・・呼び出す時は如何すれば?」
「左に回せば解放される。封じる時は右に回せ」
3人が試すとクロスが現れ、そして再び封じられる。
「こんな楽なモンがあんなら聖域に居る時から遣れってんだよ。態々あのデッカイ箱を運ぶ必要なんてなかったじゃねぇか」
「緊急処置だ。本来ならばクロスはオレの領分じゃないからな。余計な手を加えたくなかったんだよ。向こうに戻ったら、それは回収させて貰う」
「ケチくせーな。で、アンタは・・・まぁ、着替えようにも着替えがねぇか」
「いつもの事だ。予定外の穴に落ちた時の対処で最初にする事は衣食住の確保。通貨も落ちた先によっては通用しない。オレ1人なら着の身着のままで野宿と現地調達でも過ごせるんだがな、お前達はそうもいかないだろ」
ゴールドセイントとして衣食住は保障された状況でしか暮らしてないからな。
仕事で各国へ派遣されたとしても、野宿するような事は無い。
現に、アフロディーテは着の身着のままでの野宿と言った時点で表情が有り得ないと伝えてきている。
「そう嫌そうな顔をするな。だから人の居る場所へ行こうと言っているだろう。通貨が違った場合はその場で稼げばいいだけの事だ」
砂金や金塊は大抵の次元で換金可能な為、多少は封印具に封じて持ち歩いているが4人分な上にサンクチュアリへ帰る為の道を開くのにどれだけ掛かるか解らない現状、此処での資金稼ぎも必要となって来るだろう。
正直な話、宝石類は作り出す事も可能だが・・・セイントとしての依頼以外で稼ぐと言うのもコイツ等にとっていい経験になるだろうしな。
「言葉が通じない場合は無いのか?」
・・・そうか、コイツ等の場合はそう言った心配も必要だったな。
オレ自身、言葉が障害になった事が無いからウッカリしていた。
「その点は心配するな。オレの力でフォローしておく」
コイツ等の言語野をオレの言語野に繋げば問題無いだろう。
多少の違和感を覚えるかも知れないが、それには慣れて貰うしかない。
言葉が通じないよりはマシだろうからな。
話しながらゆっくりではあるが歩を進めていれば、小さな村が見えてくる。
念の為探ってみるが、悪意を持った人間の気配は感じられない。
「こちらから喧嘩を売らなければ、問題無さそうな村だ。揉め事は起こすなよ」
よそ者に対する警戒心までは会ってみない事には解らないが、善良なる村人が揃っていると言っても良いだろうこの村で此方側が警戒心を露わにする必要は無いだろう。
「あ、そうだ。アンタさ、こっちに居る間は【教皇】で居てくんね?」
「何故だ?」
「不幸に見舞われた元お偉いさんとそれを放っておけなくて付いてきた3人の従者ってした方が人受け良いんじゃねーかなって思っただけなんだけどな。その服装もあるし?」
「確かにな。教皇としての振る舞いの方が、その姿の時はしっくりくるものがある」
「それに万が一、何か問題が起こったとしても貴方だけでも顔が割れなければ情報収集は出来るだろうしね」
コイツ等もコイツ等なりに考えていると言う事か。
オレとしても反対するような要素は無かったので【私】として振る舞う事にした。
村に入ると嫌悪や警戒心は無かったが、オレの格好が余程珍しいのか好奇の目が向けられる。
情報収集に適した場所を探していれば、丁度良く酒場があった。
が、この時間で集まる情報は精々店主から此処が何処かを教えてもらう程度か。
「いらっしゃい」
オレ達を店内で出迎えたのは女性だった。
他に店員が見当たらない所を見ると、此処を1人で切り盛りしている様だな。
「申し訳ないが、此処は砂金などでも大丈夫かな?」
「えぇ、構いませんよ」
「ならば、軽食を4人分頼みたい。それと・・・少々、私どもの話に付き合って欲しいのだが」
「他のお客さんが来るまででも良いかしら」
「構わぬよ。迷惑は掛けられんからな」
少し経って出された料理にオレとシュラ、アフロディーテは何ら違和感を覚えることなく口にしていたのだが、デスマスクだけは興味深げに観察しながら食べていた。
料理をたしなむモノとして、素材や味付けが気になると言った所か。
「それでどんなお話に付き合えばいいのかしら」
「単刀直入に言えば、此処が何処だかを教えて貰えるかな?気付いたら少し離れた浜辺にいてね。此処が何処だかも解らないんだ」
アフロディーテの説明に女店主は何度も瞬きをしてから、此処について教えてくれた。
この村の名前はフーシャ村。
イーストブルーと呼ばれる海域に存在するドーン島ゴア王国に属する村だと言う事だった。
3人は勿論、オレもこう言った地名には聞き覚えが無い。
サンクチュアリが存在する次元と同一の地名を持つ次元は多数存在していたが、逆に此処の様な次元は数少ないからなんだが・・・こういった次元では都度場所を確認する必要があるので面倒だったりもする。
他にも面倒な点としてこの次元のこの世界は、海賊が跋扈しているという事だった。
向こうじゃ跋扈、と言う程の海賊は存在していない。
現にこの村も拠点にしている海賊が居ると言う。
・・・神よりはマシ、か。
「なぁ、姉ちゃん。オレ達を雇わねぇか?料理人、用心棒、給仕って感じでさ」
「それは・・・」
「オレら全員、力仕事は得意だしよ。何も金くれってんじゃねぇんだ。寝る場所と食事だけ貰えりゃ充分だからよ。帰る為の情報集める間だけでも、な?」
「これ、無理を言うでない。此処にも宿はあるであろう。すまぬが宿の場所を教えて貰えると助かるのだが」
オレの言葉に女店主は悩んでいる様子だった。
まさかこの村には宿が無いと言うのだろうか。
「滞在が長くなるかも知れないのよね。なら村長さんに聞いてあげるわ。多分この時間なら家にいると思うけど・・・」
この規模の村ならば村人は皆、顔見知りなのだろう。
女店主は店から出ると外を歩いていた1人を呼び止め何か言付けを頼んでいたので、村長に相談すると言うならば此方から出向くのが礼儀ではないか、と女店主に言えばそんなに気にする事では無いと言われてしまった。
この村ではあまり堅苦しい考え方はしない方が良いのかも知れないな。
「マキノ!メシ!宝払いで!」
村長が来るまでに済ませておこうと食事を続けていれば、酒場には不釣り合いな子供の元気な声が飛び込んでくる。
女店主が笑顔で答えるが、少年の視線はオレ達の卓上に釘づけになっていた。
かなりの涎を垂らしているが、そんなに腹が減っているのか?
手招きすれば素直に近付いてきた子供を抱き上げ、食べても良いと勧めれば遠慮する事も無く食べ始めた。
困り顔で女店主が子供の食事を運んできたのでオレの前に置いて貰えば、子供はそのまま食べ続ける。
その豪快な食べっぷりはアイオリアやミロなど比べ物にならず、この小さな体の何処に入っていくのかと考えさせられる。
食べ終わった少年の顔を拭ってやれば、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「・・・誰だ?」
食べ物しか目に入っていなかったのか。
オレ達が村人で無い事にやっと気付いた様だ。
「あ〜、誰って言われるとなぁ」
「ふむ・・・迷子といった所だな」
「大人なのに迷子なのか?」
「大人とて迷子にはなる。家に帰る道が解らなければ、迷子であろう?」
「ふ〜ん、そっか」
その後村長を交えた話し合いが行われ、オレ達は暫くの間この村に置いて貰う事になった。
デスマスクの提案が通り、デスマスク本人は料理人、シュラが用心棒、そしてアフロディーテが給仕係となった訳だが・・・オレとて働こうと思えば働けるのだがな・・・