〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-20



「邪魔をする」
 話が大方纏まり、あとは各宮において各々が情報交換をという運びになった頃、教皇の間へと続く扉を開く者が居た。
 冥界三巨頭が一、ラダマンティス。
 その姿に驚きを露わにする者が数名居たがラダマンティスは今、それ等を気にしている余裕はなかった。
 向けられる視線を無視し、教皇であるシオンの前へと歩み出る。
 形式的な礼をすると、挨拶も抜きに本題を話し始めた。
「ハーデス様が一瞬だがおかしな小宇宙を感知された」
「おかしな小宇宙だと?いつの話だ」
「そこに居る先の黄金聖闘士等を向かわせた後だ。何か思い当たる事象は無いか?」
 先代達が来てからは特別おかしな事は無かった筈だとシオンは考えるが、他の者達にも視線を向け、異常を感じた者が居たかどうかを確認する。
 しかし、当代達も先代達も、童虎すら異常を感じてはいない様子だった。
「そうか・・・青銅達が倒れていたので何かあったのかと思ったのだが・・・」
「何だと!?」
「青銅達とはまさか星矢ではあるまいな!」
「龍星座と白鳥星座、アンドロメダ星座に鳳凰星座の4人だ。それ以外にも乙女座の2人が倒れていたが、鳳凰星座に遣られたのだろうとカノンは言っていた。こちらで何か感知できた者が居たのではないかとカノン達に手を貸してやったまでだが、何の情報も無いとはな。天馬星座には特に変化はなかったらしいが・・・」
 とはいえ、聖闘士であるとは言え人の感知能力と神の感知能力には大きな差がある。
 この聖域にアテナが居れば何がしか掴めたのかも知れないが、生憎、人としての財団の仕事で聖域を離れてしまっていた。
 星矢の身に異変は無かったとラダマンティスの言葉を聞き、教皇の間を飛び出そうとしていた面々も一先ず落ち着きを取り戻し、ラダマンティスが知っている限りの情報を聞くことに専念し始める。
 ラダマンティスがカノン等から聞いた話では紫龍、氷河、瞬が倒れた時、その場にはカノンとクリシュナしか居なかった。
 その倒れた場こそがハーデスがおかしな小宇宙を感知した場所だったが為に、ラダマンティスはカノン達に手を貸す羽目になり、途中で一輝達も見つけてしまい、更には   教皇の元への報告まで任される事になってしまったのだった。
「カノンが此処まで運ぶのは問題があると言うので、今は双児宮で休ませている。外傷もなくただ眠っているだけにも見えるが・・・4人が4人とも魘されている」
「眠っているだけ、か。ならばヒュプノス、いやオネイロス辺りに彼らの状態を探らせる事は出来ないか?眠りや夢はヤツ等の管轄だろう?」
 時を同じくして倒れたと思われる4人が揃って意識を戻さずに魘されるなど偶然ではありえない。
 シジフォスの案はラダマンティスとて考えたか、彼の神達は結構気まぐれなのだ。
 ハーデスの命があれば確実に動くが、星矢に危害が無かったこの件で動くかどうかは微妙な所である。
「いや・・・それには及ばん・・・」
 再び、扉の方から声が聞こえた。
 見れば嫌々ながらもシャカに肩を借りる形の一輝の姿が其処にはあった。
「誰がこんな事をしたのかまでは解らんが、何が起こったのかはオレ達は理解している」
「甚だ信じられない話だが一輝達もまた、先の聖戦の記憶が蘇った様だ。もっとも、私と一輝が双児宮を出た時点で目を覚ましていたのは龍星座の紫龍だけだがね」
「馬鹿な!」
 シャカの言葉を真っ先に否定したのは当代でも先代でもなく冥闘士であるラダマンティスだった。
 冥界のコキュートスに眠る魂達。
 聖戦で命を失った聖闘士の魂は天馬星座の魂という例外を除いてすべて其処に落ちる事になっている。
 聖戦を生き残り、人として寿命を迎えて死なない限りはその罰から逃れる術はない。
「ワイバーンよ、そう驚く事ではあるまい。一輝の前世は冥闘士じゃ。そうじゃろう?」
「老師・・・やはり貴方は気付いていたのか」
「気付いたのは星矢じゃよ。申し訳なんだ・・・星矢に言われるまでワシはお主の前世があやつだとは気付けんかった。して・・・紫龍もと言う話じゃが、まさかあやつも」
「冥闘士だったと言う事だ。最も、オレも紫龍もまだ前世の記憶の全てを思い出している訳ではなくてな。今こうして話している間にも結構な量の記憶が流れている」
 星矢の様に記憶が混乱する事は無く、それが自分であって自分で無い者の記憶だと、一輝にははっきりと解っていた。
 まるで映画でも見るかのように映像は流れる。
 しかし、当時の、前世の自分の感情は痛いほどに伝わってきた。
 その想いこそが自分の原点であるのでは無いかと思える程に。
「しかし、冥闘士の魂はその宿星と共にアスミタの数珠に封じられた筈だが・・・」
 シジフォスの言葉に一輝は首を左右に振った。
「オレの前世だったヤツは・・・冥闘士としてではなく最後は人として死んだ。その為、数珠には宿星のみが封じられた様だ」
 あくまでも推測でしか無いが、最後の最後に彼の者の炎の色が変わったのは冥闘士としての宿星から解き放たれたからでは無いかと一輝は考えていた。
 そして自分がハーデスの憑代に選ばれた瞬の兄であった事も、前世からの因縁なのではないかと。
「一つ言える事がある。オレ達のこの記憶は作為的に呼びさまされた」
「そう言えば先ほども誰がこんな事をしたのかと言っていたな。何か確証があると言う事か」
 サガの言葉に一輝は力強く頷いた。
「意識を失う前に声を聞いた。『お前達なら任せられる』と。紫龍も同じ声を聞いたそうだ」
「承知した。その件に関してはワイバーン殿の齎した情報と共に早急に調査を行おう。ワイバーン殿はこの事を冥王にお伝え願えるか」
「・・・確かに小宇宙を感知したタイミングを考えればその声の主が小宇宙の持ち主である可能性は高い。ハーデス様に報告はするが・・・あの方が興味を持たれるかまでは保障出来ん」
 神が気まぐれなのはいつもの事だとシオンが告げるとラダマンティスは報告の為に教皇の間を出、双児宮にいるカノンに経緯を伝えた後に冥界への帰路へと付いたのだった。




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