半神の願い scene-07
「エルシド!」
「シ」
シュラ、と声を出しそうになった紫龍は全ての言葉を発する前に瞬と氷河に押さえ込まれていた。
『星矢の記憶に合わせるって事になったでしょ!』
『す、すまん・・・』
紫龍は謝りつつも、馴染み無い名で呼ぶ事が出来るのだろうかと一抹の不安を覚える。
「あの後も立派に戦い抜いた様だな。本来ならば俺達の役目だったのだが」
「エルシドが居なかったら、俺はあそこで終わってた。エルシドが助けてくれたから俺は最後まで・・・』
最後。
ハーデスとの戦いの終わり。
酷い頭痛と共に星矢の脳裏に蘇る二つの結末。
ハーデスをエリシオンへと封印する様と、エリシオンでハーデスの本体と戦いその剣に刺される自分の姿。
「どうした?大丈夫か?」
心配する声に答える事が出来ない。
頭痛に顔を顰めていると、予想外の衝撃が頭に伝わってきた。
「バーカ!ガキが慣れねぇ考え事なんかすっから頭痛なんてもんが起きんだよ!」
まだ痛む頭が、遠慮の無い手で乱暴に掻き乱される。
「ちょ、やめろよ!マニゴルド!」
「あ?なんだ、オレ様に会えて泣くほど嬉しいって?」
「違うって!誰が人を監禁したヤツに会えて嬉しいなんて思うんだよ!」
本当は嬉しかった。
嬉しかったが其れを言ったらさらにからかわれそうなのでつい文句が口をついてしまう。
「・・・マニゴルド・・・お前というヤツは・・・」
「待て。あれはジジィの命令で仕方なくやっただけだ!教皇命令に逆らえる訳がねぇだろ!おい!お前の手刀はマジでヤバイからやめろ!コラ!天馬星座!!余計なこと言うんじゃねぇ!!」
そんなやり取りをしている2人に童虎は関心していた。
(ふむ、シオンもやりおるの)
昨日の今日でここまで教え込むとはたいしたものだ。
目の前の2人は童虎の目から見ても、当時の2人がそこに居るかの様に思えてしまう。
「・・・俺達置いてオカマと消えた癖に・・・」
「気色悪い言い方すんじゃねぇ!・・・まぁ・・・戻らなかったのは悪いと思ってるけどよ」
「ホントだよ。帰るまで腐るな、なんて言っておいて帰ってこないってありえないだろ・・・」
「約束を守れんとは最低だな」
「だから!悪かったって!泣くな!」
泣いてない、泣いている、と繰り返さる押し問答。
童虎は微笑ましく眺めていたが、青銅4人組にとっては違和感を覚えさせられるやり取りだった。
『・・・蟹か?あれは本当にあの蟹なのか??」
氷河が首を傾げると、
『蟹だな』
一輝が同意する。
『間違いなく蟹だが・・・』
聖衣を纏っていなくともあの容姿を自分達が見間違えるわけが無いのだが、直接戦った事のある紫龍も困惑を隠せずにいる。
『蟹なのにまともな感じがするね・・・』
酷い一言の様に思えるが、まさに瞬の言葉が当てはまる。
外見には然程、違和感は感じない。
が、語気や態度に違和感を覚えてしまう。
『人間、誰しも1つは取り得があるということか』
そう納得しようとする青銅4人組の横では・・・
(はて・・・オカマとは何の話じゃ?)
漏れ聞こえる会話の中に、童虎も知らない内容がポロポロと聞こえてくる。
別行動を取っている間にシオンが知った可能性もあるが、あの聖戦の最中でその様な余裕があったかどうか、童虎には思い当たらなかった。