半神の願い scene-08
「童虎」
童虎が思案に暮れていると、不意に名を呼ばれた。
「何じゃ?エルシド」
「シジフォスがお前に話があると言っていた」
「む?シオンではなく、シジフォスが?」
自分に話があるとしたらシオンの筈だが、と童虎は首を捻る。
「何故、シオンが出てくる」
「ワシに話があると言うたら大抵シオンじゃからの」
「平時ならばそうだろうが・・・兎に角、ここから少し先の場所で待っている。天馬星座の傍には我々が付くので心配はいらん」
嫌な予感が童虎を襲う。
指差された方角を探れば確かに幾つかの小宇宙を感じ取れるのだが・・・十二宮から90度ずれている。
一方、その十二宮からも小宇宙が感じられた。
双方の小宇宙を探った童虎はおかしな事に気付く。
これから向かおうとしていた十二宮。
そこにある小宇宙の数を慎重に数えなおす。
白羊宮に5つ。
(シオンにムウ、アルデバラン、カミュとミロまでおるのか)
剣呑な雰囲気を発しながら双児宮から続く階段を下りるものが2つとその後に続く小宇宙が2つ。
(サガとカノンは相変わらずじゃの・・・後ろにおるのはアイオロスとアイオリアじゃな)
処女宮に1つ。
(こやつは動かんのぉ)
そして問題の磨羯宮。
何度数えても、その数は3つ。
(うむむむむ・・・)
自分を除けば、十二宮にある小宇宙の数としては確かに正しい。
正しいのだが、今、目の前には十二宮に居るはずの人物が2人も居るのである。
『一つ、聞いてよいかの?』
童虎は星矢達に聞かれないよう、目の前の人物に思念を飛ばした。
『お主はシュラではないのか?』
其れを受け取った目の前の人物からは呆れた様子が伺える。
『童虎・・・二百数十年の時で呆けたか』
『呆けとらんわ!』
反論しつつも嫌な予感が的中してしまった事に軽い眩暈を覚える。
『ならば、あそこに居るのもマニゴルド本人と言う事かの・・・』
『・・・年月とは悲しいものだな』
『呆けとらんと言うとるじゃろ!』
突っ込んでおいてから、あぁそうか、と思う。
彼ら
エルシドとマニゴルドは知らないのだろう。
今の黄金聖闘士達の姿を。
『お主ら、十二宮にはワシが良いと言うまで近付いてはならんぞ』
『何かあるのか?』
『大有りじゃ』
シジフォスの所へは確実に行かなければならないが、その前にやる事が出来てしまった。
童虎は目の前のエルシドではなく、今度は白羊宮にいるシオンへ向けて思念を飛ばす。
『シオン!シオン!』
幾度か名を呼ぶと、やっと相手からの返答が来た。
『どうした、童虎』
『そやつ等を十二宮の奥に引っ込めるんじゃ』
『簡単に言ってくれるな。ここに留める事すら大変だと言うのが』
『それくらい解っておるわ!お主、2時の方角を探ってみよ!』
『一体何があると・・・』
シオンの思念が途切れたが、童虎はそのままシオンの反応を待っていた。
『如何いう事だ!』
『ワシが知るわけなかろう!これからワシはシジフォスにあってくる。そちらはお主に任せたぞ!』
『待て!童』
一方的に思念を断ち切ると、暫くして十二宮の方角から爆発したシオンの小宇宙が感じられた。
半年も意識の無かった星矢にやっと会えると思っていた黄金聖闘士達が中々動かず、説得を諦めて力業に出たのであろう事が童虎には手に取るように解った。
やや八つ当たり感のある小宇宙ではあったが、現状を考えると八つ当たりをするなとは童虎には言えなかった。
童虎とて、八つ当たりの出来る相手が居ようものなら、八つ当たりをしたい気持ちで一杯だったのだ。