半神の願い scene-00U
カチ コチ カチ コチ
カチ コチ カチ コチ
時の紡がれる音だけが流れる空間。
周囲を闇が包み、この場には男の姿しかない。
それでも男は寂しいと思ったことは無かった。
生きて、死んで、また生きてを繰り返すよりは遥かにましだと思っていた。
「やってくれるねぇ」
過去の黄金聖闘士の復活。
それは男にとって嬉しい誤算だった。
「ハーデスが何考えてんのか知らねぇけど、戦力が増強されたのは喜ぶべきだよな」
男の行動にハーデスが気付いたのかとも考えたが、その様子は今のところ無い。
何せ男の存在はこの世界から消されている。
世界中、それこそ海界、冥界、地上界、天界を捜しても男の存在を知る者はごく僅か。
例え知る者が気付いたとしても、男が存在するこの場所へ辿り着ける者は皆無に等しい。
「どう思う?もう何人か、あの聖戦を知ってるヤツが居ても良いと思うんだけどさ」
悪戯っ子の様な笑みを浮かべる男に少し呆れた様な気配が返ってきた。
男とて何も苦痛を与えたくて失敗してしまった訳ではない。
その苦痛を和らげる為に力を使いたいとすら思っている。
出来る事ならば再び天馬星座の魂に力を注ぎ、失敗する前の状態に戻したいのだがそれは断念するしか無かった。
今の男には
それだけの力が残っていない。
「大丈夫。あいつの時は魂の破損が酷すぎて失敗したけど、今回は問題無し!それに今と昔を知ってるのが牡羊座と天秤座だけってのは心許ないだろ?それも牡羊座に関しちゃ途中で殺されて今の流れは完全には知らないときてる。天秤座にしても前も今回も最後まで一緒にいた訳じゃないからなぁ」
男の傍らを漂う気配は、困惑している様だが男の言葉に反対している様子は無い。
同意を得たと判断した男は徐に立ち上がった。
男に魂自体をどうこうする能力は無い。
男にあるのは人の時間を操る能力。
人の時間
即ち人の身体に刻まれた時間と人の魂に刻まれた時間。
「これも久しぶりだな。時よ留まれ、ってね」
闇の中をまるで映画の様に流れていた映像の人物達が一瞬にして動かなくなる。
この時、男と男のいる空間に属する者以外の全ての人の時間が止まった。
「お前達になら任せられる・・・よな?」
目的の人物数名に手をかざすと、その魂の時間を操り始める。
魂の奥底に眠る、遥か過去の時間を呼び起こし、今の記憶の始まりの時間へと繋げる。
「ん?どうしてコイツ等なのかって?」
問いかけるような気配に男は笑顔で答える。
因果の糸で繋がった者達。
だが、その因果故に天馬星座の力になるであろう者達。
「コイツ等なら、どんな過去でも受け入れられそうだなって思ったんだよ。勘だけどな♪」
疲れを浮かべながらも嬉しそうな男の耳に、聞こえるはずの無い溜め息が聞こえた気がした。