半神の願い scene-12
「おい!瞬!」
車椅子が動き出した事で思考回路が復活した星矢が止めようと声を掛けるが、瞬は全く耳を傾けなかった。
その隣を行く紫龍も氷河も同様である。
爆音が遥か広報から微かに聞こえるだけの距離を移動して、ようやく瞬達はその足を止めた。
「ふぅ。星矢、大丈夫だった?」
「あ、あぁ。オレは大丈夫だけど・・・アスミタが2人居たよな?」
「そう?星矢の勘違いじゃないかな。あの人なら何があっても可笑しくないとは思うけどね」
否を言わせぬ笑顔できっぱりと言い切られる。
そうかな、と首を傾げつつもその笑顔に星矢は反論が出来なくなってしまった。
『頭痛がなさそうって事は誤魔化せたのかな?』
『結構・・・いや、かなり無理やりだが・・・』
『瞬にしか出来ない荒業だな』
星矢が苦しまないなら問題がないと3人は判断した。
痛みを代わる事は出来ない。
ならば極力痛みの原因を作らないようにしたい。
それが嘘であろうが、問題のあるやり方であろうが。
根底にある思いは瞬も紫龍も氷河も同じだった。
それに星矢に何かを聞かれた所で、シャカが2人になった理由を答えられる者は居ないのだ。
シャカが2人になった現状に気付かれぬ様、背後から感じられる、ぶつかり合う3つの小宇宙から星矢の気をどうそらそうかと考えていると、前方から小走りに向かってくる人影が見えた。
簡素な格好をしていてた為、遠目には誰だか解らなかったが近付くにつれて見覚えのある青年である事が解る。
「アイオリア!」
星矢の呼び掛けが聞こえたのか、人影は速度を上げてあっという間に目の前に来ていた。
「星矢!オレが解るのか!?」
「何だよ。オレがアイオリアを忘れる訳がないだろ?」
記憶に混乱をきたしても忘れられていない事実が余程嬉しかったのだろう。
アイオリアは人目も憚らずに滝の様な涙を流している。
星矢はそんなアイオリアに慣れているのか、気にする様子も無く背後の兄弟達へと顔を向けた。
「紫龍達は会った事なかったよな」
(((???)))
会った事がない訳が無い。
アイオリアを覚えているというのに何故、と3人が首を傾げていると星矢がアイオリアを紹介し始めた。
「アイオリアは聖域で修行していた時に、よくオレの面倒を見てくれてたんだ」
星矢の言葉に涙を流していたアイオリアも目を見開く。
『もしかして・・・』
『黄金聖闘士だとは認識していない、と言う事か?』
『哀れな・・・』
全く忘れられてしまっているよりかはマシかも知れないが。
そんな様子を一歩下がった場所で見ていたマニゴルドが口を開く。
「お前、もしかして十二宮から来たのか?」
マニゴルドの言葉にアイオリアの表情が引き締まった。
「貴方がたを迎えに行け、と教皇より命を受けましたので」
「教皇の、ねぇ・・・」
アイオリアとマニゴルドの間に緊張が走る。
その気配を瞬達は見逃さなかった。
仲間である黄金聖闘士同士の間で起こるような緊張感ではない。
『アイオリア、一つ聞きたいのだが』
声に出すのを戸惑い、遠慮がち紫龍が小宇宙を介してアイオリアに語りかける。
『何だ?』
『彼らは・・・シュラとデスマスクではないのか?』
先程のシャカが2人になった状況から、いや、その前の蟹座の黄金聖闘士が些か乱暴だが自然な手付きで星矢の頭を撫でた辺りから、目の前にいる存在達に紫龍達は違和感を抱いていた。
『お前達・・・何も知らずに一緒にいたのか!?』
驚きを含むその言葉が、目の前の黄金聖闘士が自分達の知る黄金聖闘士ではないのだと、言外に語っていた。