半神の願い scene-27
「お前があの時のガルーダなのかよ」
「・・・あぁ」
白羊宮を後にしようとする一団が、歩みを進めながらも互いの記憶の確認を行っていた。
前世では3人は冥闘士、残りの4人はアテナの聖闘士。
現在は半分とは言え血のつながった兄弟という奇妙な縁で結ばれた7人が。
「なぁに暗い顔してるザンスか。真面目すぎるのは紫龍の悪いところザンスねぇ」
「オレ達だけでなく、紫龍や瞬、それに一輝と氷河も前世から縁があったとはな」
「だが・・・そうなると余計に疑問だな・・・」
蛮の言葉に足を止め、背後にそびえる白羊宮へと視線を一斉に向ける。
一角獣星座の邪武。
話を聞いてから那智達は邪武こそが耶人だろうと思ったのだが・・・当の本人はそんなものは知らないときている。
知らぬふりをしているだけかと思いきや、紫龍達同様に那智達が倒れた時も邪武は何とも無かったと言う。
「ただね・・・僕の中にあるアローンの記憶だと、前の一角獣星座の聖闘士はサーシャの
アテナの力とテンマの力に護られて地上に戻されている筈なんだ。アローン達がハーデスを封じに向かう直前に、老師達と一緒に、ね」
あの時、間違いなくテンマとアローンそしてアテナであるサーシャ以外の聖闘士達は1人の子供の力によって地上へと返されていた。
故に、聖戦後も生きていた可能性はあるが・・・シオンに確認しても聖戦後に耶人は聖域に戻っては無い。
「ま、考えても答えが出ねぇ邪武の事は置いておくとしてだ。双児宮に星矢が居るんだったな」
「あぁ。今は海将軍のクリシュナが付いてくれているが、そろそろ痺れを切らす頃だろう」
那智の言葉に一輝が答えれば、紫龍と瞬も頷く。
基本、星矢はじっとしている事が苦手だった。
動くなと言われれば余計に動きたくなる。
そんな彼が大人しいのは偏に自分1人で動けないからに過ぎない。
「全く、何時まで経っても世話が焼けるザンス」
そうは言いつつも、自分達が星矢にしてやれる事があると言う事実が内心では嬉しかった。
今回も前回も。
最前線で戦い続けた天馬星座。
それに引き換え、前の聖戦では戦いに必要な箱舟を動かすという大役があったが、今回の聖戦では後方での守りに徹する事しか出来なかった。
星矢に対してそんな事を愚痴ればきっと呆れるか怒るかだろう。
十二宮の戦いでは胸に矢を受けた沙織を守り、ハーデスとの戦いではその身を持って神の攻撃から星矢の姉を守り続けたのだからと。
それでも一番命を落とす可能性が高い前線で、共に戦うだけの力が無い事を悔やまない日は無かった。
そして今も、星矢を助ける為の力を受け取る事が出来たとは言え、紫龍達とは違い自分達は4人揃ってやっと受け取った力を使う事が出来る。
那智達に触れる度に少しずつ己の中から削られてゆく力に対し、受け渡していたアスプロスも戸惑いを見せていたが、出た結論は【未熟】。
殆ど残っていないからと託された力とは言え、それは杳馬の
カイロスの神の力。
神の力を使うには、那智達では未熟過ぎた。
第八感どころか第七感にすら目覚めていない那智達には。
だが杳馬もまた、それを見越していたからこそ、力が分散して渡る様にしていたのだろうと未熟さを指摘され気落ちしていた4人に対してサガは言った。
そう、杳馬は己の元へと来た4人の双子座の黄金聖闘士に己の力を託し、その力を使える者が【星矢の兄弟】である事は仄めかしたが、受け取り使う事が出来る者が4人だとは言ってはいなかった、と。
あの空間での出来事を思い返したサガの言葉を聞いた時、アスプロスは「だからヤツは信用が出来ん」と怒りを露わにしていたが。
そして那智達は力を神から受け取る事は出来ても使う事の出来ない者達
双子座の黄金聖闘士達の事や、前世の記憶が蘇りながらも力を受け取れなかった者
氷河の事を聞かされた。
今と昔、その双方の記憶を
星矢との繋がりを持たないが故に力を使う事が出来ない者達の事を。
「那智、一つ賭けをしないザンスか?」
「賭けだ?」
「星矢があたし達をどっちの名前で呼ぶか。興味あるザンしょ?」
「バーカ、んなの決まってんだろうが。賭けになんてならねぇよ」
今も昔も聖闘士としての自分達は未熟だった。
だが大義を果たした前とそうとは言えない今。
そして天馬星座と共に過ごした時間の濃さ。
「まぁ、どうしても賭けたいって言うならオレは【ユンカース】に賭けるぜ。オレは・・・あんな男になりたいからな」
その言葉に紫龍達は複雑な表情を浮かべていたが、檄や蛮は頷いていた。
賭けを持ちかけた市も。
友の為、仲間の為にと命を
その魂すら捧げる事が出来た男達。
自分達の前世がそんな男である事に誇りを感じ、そして【過去の彼ら】は【現在の彼ら】の新たな目標となった。