半神の願い scene-23
十二宮の頂である女神の神殿より階下の宮
教皇宮と向かう一団は難しい顔をしていた。
一輝よりも時間を置いて十二宮を上ってきた紫龍に他の二人の様子を聞いたのはつい先程の事。
カイロスから託された力を扱える者として一番可能性が高いのは、一輝、紫龍と続くからには瞬と氷河しか居ないだろうと当代の黄金聖闘士達は予測していた。
だが、その話をした途端に紫龍の表情が曇る。
紫龍が双児宮を出る時には瞬と氷河も目覚めていた。
星矢に気付かれぬ様にと小宇宙を使ってお互いの状況を確認した後に此処まで上がって来たわけなのだが。
「う〜む・・・これで解決じゃと思ったんじゃがのぉ・・・」
童虎の視線の先には十二宮の階段を可能な限りの速さで駆け下りて行く2人の聖闘士の姿
水瓶座のカミュとデジェル。
紫龍の話を聞き終えると共に、周りが止める間も無く2人揃って同じ行動に出ていた。
「まさか、氷河の記憶の中にテンマが居らぬとはな」
シオンが呟きと共に溜め息を溢す。
聞かされた話
瞬と氷河の前世はある意味予想通りであり、ある意味予定外であった。
今生でもハーデスの憑代であり一輝によって守られていた瞬がアローンであろう事は童虎にはある程度の予想が付いていた。
あれ程の、輝火程の男が己の誓いを破る訳が無いと。
ならば、その生まれ変わりである一輝が護った存在こそがアローンなのだろうと。
しかし氷河に関してはその前世を思い浮かばせるだけの事象が何もない。
そして紫龍が氷河から聞かされたと言う夢の話は、その夢に出てきた当人
デジェルとカルディア、そしてそれに関わった者しか知らぬ出来事だった。
仔細の報告をしようにもその出来事によりデジェルとカルディアは命を落とし聖域に帰還する事が叶わず、2人の最後を報告してきた者に対して先のアテナは深く事情を聴く事はせず。
全てが歴史の陰へと埋もれてしまった出来事。
「先の海龍、か・・・」
紫龍の口からそう聞かされた時、己が託された力を渡す相手は氷河だとカノンも思っていた。
聖闘士としての資格を有しながらも海将軍になった己と、海将軍としての前世を持ちながらも聖闘士となった氷河。
状況からすれば、彼しかいないと。
だが、話が進んでも進んでもテンマに関する話が出て来ない。
結果的に氷河の前世が聖域へと運んだ物が聖戦の行く末を左右したと言えるが、最後までテンマに関する話が出て来ることは無かった。
カイロスの語った条件
今と昔、同じ時代を共にした魂の持ち主である事に代わりは無いが・・・誰が考えても、一輝や紫龍、瞬と比べれば繋がりが弱い。
果たして氷河にこの力が使えるのか。
この場に居る誰もがそう考えてしまったと同時に2人の水瓶座は駆け出していた。
1人は弟子を気遣い。
1人は約束を果たしてくれた友へ会う為に。
水瓶座の聖闘士が突然2人も現れたりすれば星矢が混乱してしまうのではないかとの不安が黄金聖闘士達の間に湧いたが、紫龍がそれを否定した。
自分達の看病で疲れただろうから、とクリシュナの手を借りて今は別室で休ませているのだと。
星矢が自力で動けない以上、その部屋から出るには誰かの手を借りる必要があるが紫龍は双児宮を出る時に自分が戻るまでは星矢をその部屋で休ませておいて欲しいと頼んでいた。
「・・・なぁ、万が一、だ。万が一、そのユニティだった奴がアンタ等の受け取った力とやらを使えなかったらどうすんだ?」
双子座の聖闘士が受け取った力は4つ。
そしてこの場で先の聖戦を経験し、今を生きている者は星矢以外に4人。
その内1人が駄目だったとしたならば、最後の1人は誰になるのか。
「アイツは天馬星座の兄弟と限定していた。ならば、万が一は無いだろう」
「・・・いや、俺達以外にも兄弟は居る」
「何?」
アスプロスは己の言葉を打ち消した紫龍へと厳しい視線を向けた。
5人兄弟でも多いだろうに、まだ兄弟が居るのかと。
「一角獣星座、子獅子星座、狼星座、大熊星座、海ヘビ星座の青銅聖闘士が俺達の兄弟でもある。今は聖域の警備に当たっている筈だが・・・」
目立つ様で目立たない存在だが、自分達同様に倒れていれば何がしかの連絡が入ってくるだろうと思っていた。
が、その様子は無い。
未だに聖域の何処かで人知れず倒れているのか、それとも彼らには自分達様な現象は起こらなかったのか。
探そうにも何故か小宇宙が感じ取れずにいる。
「兄弟限定でなければ、心当たりは1人居るには居るが・・・」
前の聖戦と今の聖戦を経験した魂の持ち主。
そう・・・ここ聖域の主神であり、且つ、現在はグラード財団の総帥として世界中を駆け巡っているアテナ沙織もまたその条件に当て嵌まる1人ではあった。
「む、そう言えば・・・誰かアテナに星矢が目覚めた事を伝えておるのか?」
童虎の一言によって、その場の空気は一瞬にして凍てついた。
あの女神が気付かぬ筈が無い。
そう誰もが思い、また誰かが連絡しているだろうからと誰も繋ぎを取っていなかったと判明した瞬間だった。