半神の願い scene-00V
カチ コチ カチ コチ
カチ コチ カチ コチ
時の流れる音しかしない空間。
そこへ開くはずの無い道が繋がった。
「やはり貴様が元凶か」
眩しい光と共に男も聞いた事のある声が空間に響く。
「随分と大勢で来たもんだな。双子座のお兄ちゃん♪」
男はその人物に驚くことも無く、楽しげに言葉を紡いだ。
「貴様の顔なぞ二度と見たくは無かったがな」
「そりゃオレの台詞だ。それに何だ?その後ろのヤツ等は・・・あぁ、今の双子座のお兄ちゃんと二番目の2人か」
二番目という言葉にカノンとデフテロスの眉がピクリと動く。
「で、何しに来たんだ?態々こんなとこまで」
男には悪びれた様子は欠片ほども無い。
「何、今度こそ貴様を滅してやろうと思ったまで!」
問答無用とばかりに繰り出された拳を男は難なく避けた。
「物騒なお兄ちゃんだな」
「この度の騒動・・・貴様が起こしたものなのだろう?」
問うサガの鋭い視線に臆する様子も無く、男は考え事をするかのように腕を組み、首を左に傾ける。
「・・・オレ、アンタらを怒らせる様な事したか?」
その態度に双子座の4人の怒りは頂点にまで達しかけていた。
「カイロス!貴様は人の時に関与する神だろう!この度の天馬星座の騒動に貴様が絡んで無いとは言わせん!」
「その事で何でオレ様が怒られなきゃならんのかが、さっぱり解らねぇんだがなぁ・・・」
「この期に及んで戯言を!」
「だってよ、オレは可愛い息子の生まれ変わりである星矢ちゃんの運命を良い方向に変えてやっただけなんだぜ?」
「な・・・んだと・・・」
「だーかーらー!本来ならこれからも神々に狙われて大変な思いをする羽目になる星矢ちゃんの運命を変えてやっただけだって言ってんだよ」
男
神にも人にも忘れ去られし【人の内なる時の神】カイロスは語り始めた。
本来の歴史の流れでは黄金聖闘士は復活せず、天界の神々までもが星矢の命を狙う事を。
そして再び人類は滅亡の危機にさらされる事になるのだと。
「てな訳で、それを変えたかったオレ様がアテナちゃんの耳元でちょっと囁いてやったのさ。天馬星座の星矢ちゃんを守りたかったら地・海・冥の三界が手を結び天界への脅威へとなれ!ってな」
サガとカノンは愕然とした。
カイロスの言葉が真実ならば、アテナを含めた神々までもがカイロスの掌の上で踊らされていた事になる。
「それでもって冥王によって星矢ちゃんの魂にまで刻まれた傷を治す為に魂の時間を戻そうとしたんだが・・・」
罰が悪そうにカイロスは手元で玩んでいたシルクハットを目深に被り直す。
「まぁ・・・早い話、失敗しちまったんだな、これが・・・けど!」
だがそれは一瞬の事でカイロスは直ぐに軽薄そうな口調へと戻ってしまう。
「結界オーライって事で良いだろ?星矢ちゃんが前世の記憶に振り回されたから冥王は双子座の兄ちゃん達
過去の黄金聖闘士に縛りの無い肉体と冥衣まで与えて現世に送り出して戦力がかなり増強されたんだからな!良い事しか起こってねぇだろ?」
「それで・・・貴様はその変えた未来の先にどんな騒乱を望んでいる!」
この男が手を出してあっさりと終わる訳がないと、過去を狂わされた経験を持つアスプロスには思えてならなかった。
「別に。オレはもうじき眠りにつくからなぁ・・・此処でこっそり蓄えてた力も、星矢ちゃんの兄弟達に使っちまって殆ど残ってねぇんだよ」
「星矢の兄弟達に?」
「そ。今のオレの力だけじゃ星矢ちゃんの記憶の混乱を治す事は出来ねぇんだわ。けどまぁ周りを見ればあの聖戦で同じ冥界軍に居たヤツとか結構繋がりの深い魂があったからな。星矢ちゃんの支えになれる様にちょっとばかし時間を弄ってやったまでよ」
後は大好きなカミサンの魂と一緒に暫くゆっくり寝てるさ、と告げるカイロス。
「・・・それを信じろと?」
「ん〜まぁ、正直言うと今のオレって魂だけの状態な訳。前回、お兄ちゃんとの戦いで数珠に封じ込められちまっただろ?今回解き放たれてみりゃ身体は無いわカミサンは魂の姿すら保てなかったわで焦った焦った。でもなぁ・・・人の身体に縛られないっつう神代からの望みが叶ったらなぁんもやる気が起きなかったんだよ」
兄・クロノスへの想いが消えた訳ではないが、自分を知らぬ天界に復讐してその後どうするのかと考えたら、何も無い事に気付いた。
クロノスを倒す
流れる時間の終焉を望み、その先の流れを自分が紡ぐ事を望んでいたと言うのに。
自分は本当は何を望んでいたのか
自分の存在をただ認めて欲しい、それだけだったのだと望みの本質に気付くことが出来た。
そして今の自分の傍らには姿を失っても共に居てくれる魂が居る。
1人ではない。
自分という者の本質を知りながらも、離れる事の無い存在。
それが手に入っただけで、もう十分だった。