〜言の葉の部屋〜

半神の願い scene-26



 十二宮を駆け下り、途中の双児宮で水瓶座の2人と瞬、氷河を加えた一行は白羊宮でアテナが現れるのを待っていた。
 合流した際に力の受け渡しを試みカノンが預かった力は瞬へと渡されたが、アスプロスが預かった力が氷河へと渡る事は無く、星矢は双児宮の一室でクリシュナに見て貰っている。
 その後、白羊宮へと到着した時にはアテナ神殿に居た時は音が聞こえただけだったジェット機は、眼下の闘技場へと既に着陸していた。
 さて、此処まで来て問題になっているのは【アテナに現状を誰が説明するのか】だった。
 対象から最初に外されたのは過去の黄金聖闘士達。
 アテナに対して何の説明も無しに会わせる訳にはいかないだろうと。
 次に外されたのが先の聖戦を知らない黄金聖闘士達。
 星矢の状態を説明するにしてもテンマの存在を知らない以上、詳しい説明は無理だろうからと。
 残されたのがシオン、童虎、そして青銅聖闘士4兄弟。
「・・・シオン、やはり教皇たるお主が説明するべきじゃとワシは思うがの」
「弟子に押し付けようとしたお前にとやかく言われる筋合いはない」
 まだ前世の記憶を思い出したばかりの青銅聖闘士達にアテナと直接対峙すると言う無理をさせる訳にもいかず、結局の所は童虎がシオンに押し付けられる形になった。
 とは言え、童虎一人でアテナの許に向かわせる様なことはせず、その後ろからシオンも付いて来ては居る。
 白羊宮から闘技場へと繋がる階段を文句を言いつつも降りていれば、ジェット機にタラップが取り付けられ、扉が開かれた。
「ったく、お前らたるみ過ぎだってんだよ。お嬢さんに何かあったらどうするつもりだ」
「うるせぇよ、邪武」
「アンタは取り敢えず黙るザンス」
「全くだ」
「・・・・・・・・・」
 何時もならば真っ先に降りてくるはずの沙織の姿は其処にはなく、星矢の兄弟達だけがタラップを降りてくる。
 そのまま様子を見るが沙織が出てくる様子は無く、それどころか小宇宙すら感じられなかった。
「お前達、アテナは如何された」
「お主らだけ戻るとは何か問題でも起こったのかの?」
「教皇様!老師!・・・申し訳ありません。護衛の任を頂きながら・・・」
 シオンと童虎の姿を目にした邪武が膝をつきながらも答えれば、他の4人も同じように膝をつく。
「コイツ等が体調を崩しまして、お嬢さ・・・いえ、アテナの指示により先に戻る事になりました。アテナも戻りたかった様ですが財団側の職務が終わらず・・・ですが、お傍には白銀聖闘士が数名残っていますので問題は無いかと」
 沙織は戻ってきていない。
 その言葉にシオンと童虎は内心ホッとしていた。
 実の所、沙織と今の星矢を合わせる訳にはいかなかったのだ。
 シオンと童虎の懸念は当たってしまっていた。
 いや、正確に言えば星矢は沙織の事を忘れては居なかった。
 忘れては居なかったが・・・邪武と同様に沙織の事は【城戸沙織】としてしか覚えておらず、星矢の中のアテナはサーシャだったのだ。
 一輝達はそれを「幼少期の忘れたくとも忘れられる筈がない沙織の性格のせいだろう」と片づけていたが、そんな理由を沙織が受け入れる筈がない。
 青銅聖闘士5人を下ろしたジェット機は再び上空へと舞い上がり、聖域を後にしていく。
 次にあれが此処に来るのは、沙織が戻ってくる時であろう。
「そうか。なれば、お前達に確認したい事がある。体調を崩したと言っておったが   
「ユンカース!シジフォス!あれ、絶対にアイツ等だって!」
「レグルス。シオンと童虎に言われただろう。合図があるまでは大人しくしていろと」
 シオンの言葉を遮り響いた声に邪武以外の4人がその声の主へと視線を向けた。
「獅子座・・・それにシジフォス様?」
「・・・嘘ザンしょ・・・」
「夢じゃ・・・なかったのか・・・?」
「あの姿は・・・」
 4人の呟きにシオンと童虎は視線を躱して頷いた。
 彼らもまた、先の聖戦を戦った魂の持ち主であり、その記憶を取り戻している。
 改めて確認せずとも【ユンカース】の名に反応し、今の獅子座では無くレグルスを目にして【獅子座】と呼び、シジフォスの名を口にしただけでそれが解った。
 黄金聖衣では無く、同じ意匠の冥衣を纏っている事に疑問を懐きつつも、確実に彼らを彼らとして認識している・・・ただ一人、邪武以外は。
「・・・一角獣星座の邪武。其方、あの者達に見覚えはあるか」
「いえ。ですが、教皇様。何故、冥闘士がこの地にいるのですか?」
「それはおいおい説明するので今は待て。もう一つ、耶人、そしてテンマと言う名に覚えは?」
「「「「耶人とテンマ!?」」」」
 その名に反応したのは聞かれた邪武では無く、他の4人だった。
「何だよ。お前ら知ってるのか?」
「知ってると言えば知ってる、のか・・・?」
「集団幻覚の類じゃなかったって事ザンスねぇ・・・」
 4人の夢の中での最後の時。
 そこに居たのが一角獣星座の耶人であり、天馬星座のテンマだった。
「シオン、此処でこのまま話すのも何じゃ。一先ずは白羊宮へ戻る事にせんか?レグルスもこやつ等と話をしたい様子じゃしのぉ」
 何が何だか様子が掴めないままの邪武を連れ、一行は白羊宮へと戻るのだった。




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