〜言の葉の部屋〜

AnOpening 12




「ねぇ、キミ」
 不意に今まで黙っていたブロリーが悟飯の目線の位置までしゃがみ込み、話しかけてきた。
「カカロットがキミのお父さん?」
 悟飯が頷くと、ブロリーの顔に喜びが溢れる。
「ならカカロットが今、何処に居るのか知ってるよね?僕達はカカロットに会いに来たんだ。カカロットは何処に?」
 ブロリーの放つ気配の強大さに、悟飯の身体は硬直していた。
 居場所を知らないのだから首を左右に振るだけでいい。
 それだけの動作を取れば良いだけなのに同じ様に傍にいるバーダックとは違う、放たれる気配の質が身の危険を感じさせ、その僅かな動作を取る事すら出来ずにいた。
「ご、悟空さんは今地球に向かっています!此処から少し離れたポイントに後2時間程で到着する筈です!」
 動けない悟飯を庇うかのように、正体不明の青年がブロリーの問いに答えた。
 何故この青年がそのような事を知っているのか。
 当の悟飯を含めた全ての視線が青年へと集まる。
 ブロリーは悟飯から離れ、青年へと近づいた。
「ゴクウ・・・?」
「カ、カカロットさんの事です」
「本当に?」
 青年は無言で頷く。
「やっと・・・やっと会えるんだ・・・カカロット・・・」
 ブロリーが知っているカカロットは、隣で大声で泣いていた。
 余りにも泣くので手を伸ばしたが赤ん坊の手が届くはずもなく、悔しくてブロリーもまた泣いてしまった。
 周囲の話からその赤ん坊の名がカカロットといい、自分より弱い存在である事を知っていた。
 だから強い自分が傍にいるから泣かなくて良いと伝えたかっただけなのに、それすら出来ない自分が疎ましかった。
 ともに過ごせたのは数日のみ。
 惑星ベジータの爆発を父と共に近隣の惑星から目にした時、彼がどうなってしまったのかが気になった。
 生き残った大人達からカカロットの父親が助かった事、生き残ったサイヤ人を集める事、そして目的地であるカカロットの居る地球まで眠りながら移動する事を聞かされた。
 磁気嵐の後、宇宙船で一番最初に目を覚ましてしまった時。
 赤ん坊の頃の記憶がそのまま残っていたから、次の者が目覚めるまでの孤独な時間を耐える事が出来た。
 カカロットに会えるという希望があったからこそ、耐えられたのだ。
「父さん!おじさん!早く迎えに行こう!」
 嬉しそうなブロリーに軽く返事をした後、パラガスは青年に近づいた。
「小僧。早々にその場所に案内しろ・・・ブロリーが暴れぬうちにな」
 パラガスはブロリーに聞かれぬように青年に注意を促した。
 ブロリーが目覚めて7年。
 様々な知識を通常では考えられぬほどの速さで吸収し戦闘力も上がっていったが、赤ん坊の頃に眠りについてしまった影響なのかブロリーの精神年齢は実年齢に追いつけずにいた。
 普段の様子   知識面や大人達に対する話し方からでは解らなかったが、特に感情面は不安定で何をきっかけに癇癪を起すか解らない。
 万が一にもブロリーが暴走してしまった場合、バーダック以外に止められる者はおらず、そのバーダックさえも命がけで止める事になる。
 カカロットとの再会を目前にして、その様な事態だけは避けたかった。
「・・・解りました。案内しますのでついてきてください」
 青年を先頭に、次々とその場を飛び立つ者達。
「ターレス、落ち着いたか」
「親父・・・大丈夫だ。心配いらねぇよ。ガキの頃のオレならあそこまで取り乱したりはしなかったんだろうけどな」
 言葉を吐き出した為か、段々と気持ちが落ち着いてきているのが解る。
「いつか、あの世って場所に行ったらあの馬鹿の事を思い切り蹴飛ばしてやるさ」
 ターレスの視線の先には、ラディッツの仇であると聞かされたナメック星人の姿。
「おい、そこのナメック星人。ラディッツは・・・強かったか?」
「あぁ。孫・・・お前等の言うカカロットと2人、いや悟飯も含めた3人でやっと倒せた相手だ。あの戦いが無ければ俺達もここまで力を伸ばせなかった」
「その程度の戦闘力で何を言ってんだか」
 ラディッツは今のターレスから見れば遥かに弱い戦闘力しかなかったのだろう。
 それでも一方的にやられたのでなければ良い。
 戦った相手の記憶に残っているならば、それは確かにラディッツが存在した証となる。
「あの、本当ですよ!ボクは怖くて泣いてる事しか出来なかったけど、もしラディッツ・・・さんとの戦いが無かったら、ボクは戦ったり身体を鍛えたりする事は無かったんです。それにボク達は気をコントロール出来るから」
「キ?」
「貴様等の言う戦闘力の事だ。最低で0まで下げる事が出来る。今もかなり抑えている状態だ」
 そのような事が出来る相手にターレスは勿論の事、様々な星の者達と戦ったバーダックも出会った事は無かった。
 話が本当ならば、スカウターなど役に立たなくなってしまう。
「それが本当なら手合せしようじゃねぇか。それくらい良いだろ?親父」
「後にしろ。他の連中はとっくに見えなくなってるぞ」
 辺りを見回せば4人を残して周囲には人が居なくなっていた。
「ターレス、それに・・・悟飯って言ったな。カカロットを迎えに行くぞ。先ずはアイツに会ってからだ」
 スカウターのスイッチを入れ、一番見つけやすいブロリーに合わせるとそれ程離れていない地点で止まっている事を確認するとバーダックもまたその場から飛び立った。


 カカロットとの再会。
 バーダックには気にかかる事が残っていた。
『お前が変えるのはお前が見た運命ではなく、その後の運命』
 夢で見たフリーザは生身の身体だった。
 だが自分の倒したフリーザは生身の身体を半分以上失っていた。
 ならば、今は・・・


 今後、どのような運命が待ち、如何すればカカロットの運命を変える事が出来るのか。
 カカロットに背負わされたサイヤ人の業を取り除くことが出来るのか。


 その鍵の1つがあの正体不明の青年である事を、今のバーダックが知る由も無かった。



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