〜言の葉の部屋〜

Fellow soldier




 群れるのは嫌いだった。
 どれだけ自分が戦っても、散っていく。
 独りは楽だった。
 自分さえ守れば良い。
 誰かが散る姿など、見たくもなかった。


「おい、お前がバーダックか?」
 自分に声を掛ける者が未だに居るとはバーダックは思ってもいなかった。
 振り向いた先には、下級戦士では見た事のない顔。
「・・・テメェは?」
「マジでお前がバーダックなのかよ!」
 男は名乗る様子も無い。
 相手にするだけ無駄だと判断したバーダックは踵を返して、その場から立ち去ろうとした。
「おい!待てって!」
 飛び立とうと浮いた足を掴まれる。
 バーダックが不快な顔を男に向けるが、男は気にする様子も無く、手を離そうとはしなかった。
「いや〜、噂なんて信用出来ねぇって思ってたんだけどな。まさか、あのバーダックがこんなにチビ」
 男の言葉が終わる前にバーダックの手からエネルギー弾が打ち出される。
 が、男を狙った筈のエネルギー弾は地面で爆発していた。
「あっぶねーなぁ・・・」
「礼儀を知らねぇテメェが悪い」
「?あぁ!そういや、名乗って無かったな。オレはトーマってんだ。宜しくな、バーダック」
 トーマの反応にこの場から立ち去る事を諦めたバーダックは大地から浮かせていた足を重力にしたがって地へと下ろす。
 間近に立ってみると、トーマの背はバーダックより遥かに高かった。かといって、人の事をチビと言って良いという事にはならないが。
「・・・それで、オレに何の用だ」
「お前さ、強いんだろ?ならオレ達のチームに入らないか?」
 自分に声を掛けるだけでも珍しいと言うのに、まさかチームに誘われるとは。
 予想外の事態が続き、多少話を聞いてやっても良いかという思いがバーダックの中に生まれていた。
「・・・オレの噂は聞いてるんだろ」
「あぁ、戦闘力は下級戦士じゃずば抜けてるが実際にあって見ると意外とチ」
「背のことじゃねぇ!」
「何だ、気にしてんのか?大丈夫だって。お前まだガキなんだから背なんてこれから幾らでも」
「誰がガキだ!オレは18だ!」
 バーダックの言葉にトーマは目を丸くする。
 トーマ自身、サイヤ人の中でも背は高い方ではあるが、それを差し引いてもバーダックの身長は平均より低い。
「嘘だろ」
「・・・テメェ・・・一度、死んで来い!」
 先程とは違い、掌に今籠められるだけの力を籠めたエネルギー弾を生成する。
「ちょ、待て!それマジでやばいだろ!」
 スカウターを使わずとも解る。
 あれの直撃を受けたら、死ぬ。間違いなく。
 トーマの頭の中に警鐘が鳴り響いた。
「うるせぇ!人の事をチビだチビだと言うだけじゃ飽き足らず・・・誰がガキだってんだ!」
「いや、うん、オレが悪かった!スマン!頼むからそれだけは撃つな!撃たないでくれ!」
 バーダックの戦闘力は多少尾ひれがついたものだと、トーマは思っていた。
 実際の戦闘力は噂の半分程度だろうと。
 しかし、目の前のエネルギー弾が噂に尾ひれがついていない事を証明している。
 トーマの戦闘力とて決して低い訳ではない。
 低いどころか、上級戦士と戦っても勝てるだけの戦闘力だと自負していた。
 が、目の前の自分より小さな下級戦士は更にその上にいる。
 そして余裕で避けたつもりの最初のエネルギー弾がどれだけ手加減されていたのかを思い知らされた。
「なら、金輪際オレに近づくんじゃねぇ」
「あ、そりゃ無理だ。お前はオレ達とチーム組むんだからよ」
「オレは了承してねぇだろうが!」
「頼む!補充されたヤツが弱くて次の任務がこなせそうにないんだ!今回だけでも組んでくれ!」
 今回だけでも。
 この言葉を以前は幾度も耳にしていた。
 バーダックの力を当てにした者が必ず口にする言葉。
 そして   二度と同じ者が口にする事の無い言葉。
「悪いがオレはチームは組まねぇ主義なんだ」
 バーダックはエネルギー弾を掌から消すと、トーマに背を向け、その場から立ち去ろうとする。
「・・・自分だけが生き残るからか?」
 その背にトーマの言葉が投げかけられた。
「なんだ、そっちも知ってたのかよ」
 自分に関する噂が幾つも広まっているのは知っていた。
 中には勝手に作られた嘘も混じってはいたが、これに関しては事実である。
 バーダックとチームを組んだ者で生きている者は1人もいない。
「仲間殺し。それがオレの通り名だってのも知ってんだろ」
「あぁ、お前に関する噂は全部聞いた。それでもオレはお前と組みたいと思ったから、お前を誘いに来た」
 嘘をついている目ではなかった。
 周囲から勝手にこんな通り名を付けられてから煩わしい相手が減ったと思っていたというのに、余計に面倒な相手を引き寄せてしまったとは。
「・・・テメェは自分が殺されるとは思わねぇのか?」
「あ〜、さっきはマジで殺されるかと思ったけどな。けどよ、噂の方は違うだろ」
 仲間殺し。
 それはバーダックと共に出撃したチームが悉くバーダック以外全滅している為についた通り名だった。
 本当にバーダックが他のメンバーを殺したのか。
 トーマは調べられる限りの資料を確認した結果、それが偽りである事に気付いた。
 確かに、バーダック以外は全滅している。
 が、記録を読み返すとバーダック自身も怪我を負って帰還していた。
 単独出撃時には有り得ない程の大怪我を負って。
 これを心無い者達がバーダックが他のメンバーと戦った際の傷だという噂を広めたのだが、チームを組みたくないバーダックは訂正する事をしなかった。
「あれは自分の力量を測れなかった奴等に問題がある。大方、お前の戦闘力を当てにして上のランクの任務を請け負ったんだろ?で、力の足りないメンバーは全滅。お前の怪我もそんな奴等を放って置けなかったからだとオレは推測したんだが・・・違うか?」
「・・・・・・」
「やっぱりな。お前、その性格で良く今まで生き残ってこれたな」
「変わり者だってんだろ」
「良いんじゃねーの?オレも補充された奴を死なせたくないからお前を誘いに来たんだしな」
「・・・テメェも【逸れ者】か」
「オレのチームは皆【逸れ者】だ」
 力こそが全てとされるサイヤ人において、弱い者、足手纏いになる者は見捨てられる。
 それが戦場ならば、囮として使われてもおかしくない。
 だが、サイヤ人の一部にはそれを見捨てて置けない変わり者が存在していた。
 そんなサイヤ人らしくないサイヤ人を【逸れ者】と言う。
 始めはたった一人のサイヤ人が仲間を庇ったという話が流れた。
 庇った者は死に、庇われたサイヤ人は生き残った。
 他の者達は総じて死んだ者を馬鹿だと罵った。
 その噂が流れ始めた頃から、同じ様な行動をとる者が出始めた。
 当初は10万人に一人程度だった者が今では1万人に一人は【逸れ者】が居るという。
「上の連中は目障りな【逸れ者】の中でも弱い奴はさっさと消したいらしくてな。たまにシヤーチみたいな奴が補充されてくるんだよ」
「シヤーチ?」
「あぁ、補充された奴だ。前回補充された奴も戦闘力が低くてな・・・オレ達も出来るだけの事はやったが、駄目だった。今回は臨時補充だから生きて戻ればシヤーチも自分の力量にあったチームに戻れる。だから頼む!今回だけでも手を貸してくれ!」
「・・・今回だけで良いんだな・・・」
「いや、出来たら毎回?てか、オレ達と正式にチーム組んでくれるのがベストなんだが」
「調子に乗るんじゃねぇよ。それに・・・」
 次回などと言うものが本当にあるのか。
 バーダックはその言葉を飲み込んだ。
 それを言ってしまったらチームを組む事を自分が望んでいる様で   期待してしまいそうで怖かった。
 チームを組まないのは他の者の死を見たくないから。
 守りきれない自分の無力さを味わいたくないから。
「それじゃ交換条件でどうだ?今回の作戦はお前はシヤーチを守ってくれれば良い。それ以外ではお前の力を借りずに今回の任務を終えたらオレ達の勝ち。お前はオレ達とチームを組む!」
 その上、バーダックとシヤーチは初期地点から動かずにトーマ達の網を掻い潜ってしまった者達だけを相手にすれば良いと言う。
「ならテメェらだけで任務が果たせなかったり、一人でも欠けた時は」
「諦める。お前の力が無けりゃ任務一つこなせないチームじゃ意味がねぇだろ?」
 バーダックの力だけを頼りにしたい訳ではない。
 今回ばかりはチームバランスの都合上、その力を借りるしかないが。
 トーマはバーダックの人となりを知るにつれて、増々自分達のチームに欲しいと思っていた。
 仲間を死なせない為に傷つき、そして守りきれなかった後悔から一人で居る事を選んだバーダック。
 チームのメンバー達も本当のバーダックの姿を知って、今回のトーマの案に同意してくれている。
「それじゃ今後ともよろしく頼むぜ。ま、オレ達のチームにとっちゃ不安要素さえなけりゃ簡単な任務だ」
「・・・なんだと?」
「だから、シヤーチの心配さえなけりゃ戦闘力から言っても全く問題無い任務なんだよ。だからこの勝負はオレ達の勝ちって決まってんだ」
「・・・今回の遠征先は?」
「惑星ネスハピ」
「ネスハピ?あんな星、オレ一人だって簡単に落とせるぞ!」
「だから、シヤーチの戦闘力はネスハピ程度でもヤバイんだって」
 嵌められた。
 先に遠征先の確認をしていなかったバーダックが悪いのだが、手加減したとはいえ不意に放ったエネルギー弾を軽く避けた男が手間取る惑星ではない。
「取り敢えず・・・テメェは先に逝っちまえ!このペテン野郎が!」
「嘘はついてねぇだろうが!って冗談じゃすまねぇから止めろって!」
 爆音と共にトーマの悲鳴が辺りに響き渡る。
 バーダックは初めから直撃させるつもりは無かったが、多少痛い目に合わせないと気が済まず、掠る程度には当てるつもりだった。
 が、それすらも寸での所でかわされてしまう。
「テメェが此処で消えりゃ交換条件も消えるだろ!」
「それ極端過ぎるだろ!大体オレがここで死んだら」
「テメェに代わって次の任務だけはオレが片付けてやるから安心して成仏しやがれ!」
 爆音は日が暮れても辺りに響き渡っていた。


 この日から惑星ベジータ崩壊の直前まで。
 バーダックが一人になる事は二度と無かった。





神龍の部屋へ戻る