A reencounter 01
誰も物言わぬ静かな時間が流れる。
正体不明の少年の話では、そろそろ到着しても良い時間だった。
見上げた空には雲1つ見当たらない。
バーダックは夢に現れたシヤーチの言葉が気に掛かっていた。
自分が変えてはならないカカロットの運命。
それはラディッツの死を伴っていた。
自分が変えなくてはならないカカロットの運命。
それには一体何を
誰を犠牲にする事になるのだろうか。
自分の命ならば構わない。
元々、フリーザへ単独で挑んだ時に捨てた命だ。
だが、仲間の命を捧げる事は出来ない。と思った途端、笑いがこみ上げてきた。
何時からこの様な軟弱な
【逸れ者】と呼ばれる考え方をするようになってしまったのか。
仲間だろうが、兄弟だろうが、親子だろうが。
必要な時には躊躇無く犠牲にするのがサイヤ人であった筈。
己の感情に違和感を覚えているのはバーダックだけではない。
だが、嫌なモノではなかった。
嫌なモノではないが
邪魔なモノだ。
自分達の目的は果たした。
だが何故
何もせずにカカロットの到着を待つ必要があるのか。
カカロットを待つのはブロリーが望むからであり、シヤーチが言っていた【変えなければならない運命】を確認し、それを変えたいとは思っている。
だが、おとなしく待っている筋合いはない。
普通のサイヤ人ならば先ず『地球人を滅ぼす』だろう。
自分達にはカカロットが居ればいいのだから。
カカロットと親しい者達がいようとも、ラディッツの様に力で押さえつければ良い。
運命を変えるならば
この惑星自体を消してしまえば確実に変わるだろう。
そう思っても、行動に移せずにいる。
何故。
どれだけ思考を巡らせても、答えは出てこなかった。
「おい、バーダック」
緊張を孕んだトーマの声が、バーダックを答えの無い思考から現実へと引き戻した。
「・・・緊急信号だ」
「緊急信号?」
トーマに促されスカウターのスイッチを入れると、モニター部分に船体番号と予定進路、それと共に搭乗者の状況を表すコードが表示された。
「最悪だろ」
「チッ!おい!小僧!」
バーダックに手招きされ、正体不明の少年は訝しげな顔をしながらも近付いてきた。
少年に目的の船の到着地点を確認すると、緊急信号を発している個人艇の進路と殆ど変わらない。
「あれにカカロットが・・・時間は5分程度。ブロリー!上までカカロットを迎えに行くぞ!」
「それじゃ、俺はパラガス達と準備を始めとくぜ」
緊急信号。
その中でもたった1つだけ、オートで発せられる信号があった。
搭乗者の意識消失による制御不能。
故障で無いとしたら。
着陸設備の無い今の状況では速度が落ちないまま地表へと叩き付けられる事になる。
バーダックとブロリーが空の彼方へとその姿を消した。
「メディカルマシンはフリーザの船のを使っちまおうぜ。俺らの船より性能が上だろうしな」
「そうだな。だが操作系統が変わってなければ良いが・・・」
「そんなモン、ちょいちょいとオレが覚えちまえば良いだけだろ?時間が勿体ねぇからオレは先に行くぜ」
言うが早い、ターレスは1人フリーザの乗ってきた宇宙船へと向かった。
パラガスは空を、バーダック達が消えた方角を見やるがまだ目視での確認は出来ない。
トーマと視線をあわせると2人もターレスの後を追い、フリーザの宇宙船へと向かった。
何が起こっているのか把握しきれない地球人達の視線は、自然とその場に残ったベジータ王へと集まる。
「現在地球への進入航路を取っている個人艇が確認された。その少年の話が真実ならば、カカロットが乗っている事になるが・・・意識不明の可能性が高い」
ベジータ王の言葉に、その場の誰もが息を飲んだ。
「ベジータならば解るだろうが、あのタイプの個人艇にはオートで発せられる信号が1つだけ備わっている。艇の生体スキャンシステムで搭乗員の意識反応が確認されない時にのみ発せられる信号がな。その信号はスカウター及び指令基地でキャッチする事が出来るのだが・・・何時からその信号が発せられているのかまではスカウターでは解らん。艇内では生命維持システムも稼動しているだろうが、場合によっては 搭乗員が死亡している事もある」
最悪の可能性を考える。
それは当然の事であったが、何故この程度の説明でこれ程の苦痛を感じるのか。
だが、これだけは自分が行わなければならない役割であり、今の自分に出来るたった一つの事でもあった。
バーダックやブロリーの様な戦闘力は無い。
ターレスやパラガス、トーマ程の頭脳も持たない。
王という立場にいつの間にか甘えていた自分を、この数年で嫌と言うほど実感した。
全てが人任せであり、そしてフリーザに治める星を破壊された愚かな王。
無能。
そんな言葉が似合う自分を、バーダック達が邪険に扱うことはなかった。
星も一族も失ったというのに、彼等は未だに自分を【王】と呼ぶ。
もしバーダックがサイヤ人としての考え方を強く持っていたならば、弱者でしかない自分は直ぐにでも消されていただろう。
あの狭い宇宙船の中で、いつ皆に切り捨てられてしまうのかと、それだけが恐ろしかった。
実際にはその様な杞憂など全く必要なかったのだが。
「あの者達はカカロットを救う為に出来る限りの手を尽くそうとしている。それだけは信じてやってもらいたい」
サイヤ人の、それもベジータの父である者が信じて欲しいと強要するのではなく、懇願している。
この場にいる誰もが己の目と耳を疑った。
「
運命を変える。我々の目的はそれだけだ」