〜言の葉の部屋〜

A reencounter 02




 未来を変える。
 この2年間、何かにつけてバーダックが呟いていた言葉。
 バーダックははっきりと「誰の」とは口に出さなかったが、ベジータ王や他の者にもそれが誰の運命を指しているのか大方の予想は付いていた。
 そして、この場にも1人。その言葉に反応した者がいた。
「オレは・・・」
 少年は僅かばかり俯いた後、その視線を真っ直ぐベジータ王へと向けた。
 ベジータ王も少年の、何処か不思議な感覚を覚えさせる視線を真っ直ぐ受け止める。
「オレは歴史を   孫悟空さんの運命を変える為に此処へ来ました。オレについて話す事は出来ませんが、悟空さんに関する事でしたら話します」
「フン!素性も解らんヤツの話など」
 少年に詰め寄ろうとしたベジータを、ベジータ王が制する。
「先に言っておきますが・・・オレの知っている歴史にあなた方は存在しません」
 歴史を変える為に未来からやってきたという少年は、自分の時代に何が起こっているのかを事細かに説明した。
 秘密裏に造られている人造人間。
 その強さ。残虐さ。
 力及ばず次々と息絶えた戦士達。
 そして人造人間との戦い以前に命を落としてしまった孫悟空の事を。
「オレの知っている歴史では地球に来たフリーザを倒したのは悟空さんでした。それに純粋なサイヤ人の生き残りは悟空さんとそこに居るベジータさんの2人だけです。あなた方の存在が歴史にどれ程の影響を及ぼすのかオレには想像も付きません・・・それにこの薬も役に立つかどうか・・・」
 懐から取り出した小瓶を少年は手の中で転がした。
 少年の知る歴史では、この時代に存在しなかったワクチン。
 孫悟空の死因である心臓病の原因菌に対して精製された、唯一の治療薬。
 なんとも言えない沈黙を破ったのは、ベジータ王のスカウターから鳴り響いた警戒音だった。
「全員、この場から少し離れた方が良いようだな」
 空を見上げたベジータ王の視線の先には、摩擦により熱を帯び真っ赤に染まった小型の宇宙船と、それを懸命に受け止め落下速度を落とそうとしている2人のサイヤ人の姿があった。
「だ、大丈夫なんすか!?いくらなんでも無理じゃ・・・」
 クリリンの言葉にベジータ王はスカウターを外すと、それを手渡した。
「聴いてみろ。あやつ等の心配をするのが馬鹿らしくなるぞ」
 恐る恐るスカウターを受け取りスピーカー部を耳に当てると、上空にいる2人のやり取りが雑音混じりに聞こえてきた。
『カカロット!カカロット!』
『ブロリー!テメェはカカロットの名前ばっか呼んでねぇでもっと力を入れやがれ!このまま墜落しちまったら受身の取れねぇカカロットは確実にあの世行きだ!テメェはカカロットを死なせる為に此処に来たんじゃねぇだろ!』
 バーダックの言葉が終わるや否や、膨大な気が膨れ上がるのをクリリン達地球人は感じ取った。
 気の膨れ上がったブロリーの姿はクリリンや悟飯の知る超サイヤ人のそれと酷似していた。
 違うのは髪や全身に纏っているエネルギーの色。
 フリーザの気が消された時に感じたものより小さいが、それでも今の自分達とは比べ物にならない圧倒的な強さ。
「バーダックとブロリーならば、あの程度の熱など身体を覆うエネルギー膜で防ぐ事が出来る」
 ベジータ王の言葉どおり、上空のサイヤ人2人に関しては全く心配する必要がなさそうだった。
 無線からは相変わらずバーダックの怒声とブロリーの『カカロット』と必死に名を呼ぶ声が聞こえてくる。
 彼等2人の力により、段々と宇宙船が失速しているのが肉眼でも確認出来た。
「・・・心配なのはカカロットの生死だな。万が一の場合、ブロリーに暴走の危険性がある」
「ぼ・・・暴走!?」
「そうだ。ブロリーはああ見えて精神的に幼く、感情の制御が出来なくなる事があってな。そうなれば、その人造人間とらやの出現を待たずに地球は壊滅するだろう」
 クリリンの手からスカウターを受け取りながら、さらりと恐ろしい事を言ってのける。
 やはりサイヤ人と地球人では感覚が違うのだろうかと考えていると、ズズンと大きな地鳴りと共に大地が揺れた。
 砂塵が舞い上がっている為、動いている人影しか確認する事が出来ない。それでもその人影が慌てているのが解った。
『ベジータ!生命維持装置まで動いてやがる!見た限りじゃ外傷はねぇ!』
「解った。パラガス達が先程のフリーザの船で治療の準備を行っている。直ぐに運べ。位置は解るな?」
 バーダックに指示を出すと念の為、フリーザの船の座標をバーダックのスカウターへと送った。
 砂塵に隠れていた人陰は、そのまま丸い船ごとフリーザの船へと向かってゆく。
「さて・・・私も向かうが、お前達は来るなり去るなり好きにするが良い」
 ベジータ王の言葉に、この場から立ち去る者は1人も居なかった。




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