〜言の葉の部屋〜

修羅色の戦士 01




 赤く染まった世界。

 見渡す限りの赤、緋、紅。

 命を持つ者は己以外に存在しない場所。

 命を絶つ事に疑問を持った事は無い。



「バーダック!帰還したら検査を受けに来いと何度言えば解るんだ!」
 医療棟の前を通りかかると、待ち構えていたかのように白衣を纏った男に声を掛けられた。
「・・・うるせぇんだよ。何か?あんなちんけな星1つでオレの戦闘力が変化するとでも思ってんのか?」
 今回の遠征先はバーダックには物足りなかった。
 非戦闘民族の住む星。
 自分達を滅ぼす者が現れたと言うのに、抵抗らしい抵抗もなく一歩的に殺されてゆく者達。
「覚えておけ。次もあんな手応えのねぇ星に行かせやがったら、テメェから潰す」
 バーダックと比べ背が半分にも満たない男は、その言葉とバーダックから発せられる殺気にただ震える事しか出来なかった。



 惑星ベジータには異なる2種の民族が住んでいる。
 生まれながらに戦いを好む戦闘民族サイヤ人と貪欲な探究心を持つツフル人。
 千年以上昔。
 ツフル人の住む惑星プラントへ母星を失ったサイヤ人の一団が流れ着いた。
 科学の粋を尽くしたツフル人の兵器を持ってしてもサイヤ人の特異な能力には敵わず、それ以降サイヤ人にツフル人が従属する形で共存していた。
サイヤ人の戦闘力にツフル人の科学力が加わり、彼らの戦いの場は北の銀河全域へと広がる。
 時の王、第48代ベジータ王は1つの伝説を信望していた。
≪彼の者、漆黒の髪を黄金へ、闇の瞳を翡翠へ。その力、無限なり≫
 遥か古より伝えられるサイヤ人の母星を滅ぼした1人のサイヤ人の伝説。
 王は絶対的な力を求めていた。
 数少ない文献に記述されている伝説の戦士に自らがなりたかった。
 しかし、王の進めた研究は皮肉な事に王には最強たる遺伝子が受け継がれていない事を証明してしまう。
 ツフル人の力により全タイプの遺伝子を検査した結果、ある一種の血筋のみが保有していると判明した特殊な因子。
 その種は文献に描かれた戦士の≪力を手に入れる前の姿≫との一致する。
≪ルートタイプ≫
 彼らが100%その因子を保有していた事から≪ルート因子≫と名付けられたそれこそが、伝説のサイヤ人へと辿り着く唯一の手掛かりだった。
 王の野望の為に、彼等ルートタイプの戦士が犠牲になったのは言うまでもない。
 惑星中のルートタイプが新設された研究所へと集められ、大人達は配合実験の、子供達は戦闘力上昇実験のモルモットとして扱われた。
 そんな実験の一端として生まれたのがバーダックであった。
 父・母共にルートタイプの中から戦闘力が最も高い者を選び、ルートタイプとしては歴代最高の戦闘力を以て生まれた子供。
 物心つかぬうちから戦闘力を上昇させる為の訓練を受けさせられ、休む事無く戦地へと送り込まれる。
 傍から見ても異常としか思えない生活を王によって強制されていた。
 バーダックが産まれたのと同じ頃、王にもルートタイプの女性との間に子供が生まれる。
 だが、王の期待を裏切り因子を持たぬグリーズタイプだった為に子に対する関心は失せ、王はルートタイプの実験へと更にのめり込む事になってしまった。
 この頃からサイヤ人の中に一種の変化が起き始める。
 王の狂気に連鎖するかのように、無意味に他者を殺す事に楽しみを見出す者が増加。
 元から他の種族に比べ人口の少ないサイヤ人は、同族間の殺し合いまでもが日常と化し、減少の一途を辿り始める事となる。





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