修羅色の戦士 02
普段となんら変わらない退屈な遠征だった。
戦闘力が上がり過ぎた為か、バーダックはどの星に送られても満足感も充実感も達成感すら得る事が出来ない。
「なぁバーダック。これから面白い事するんだけどよ、お前も参加しねぇか?」
最上級ランクのサイヤ人
通称エリート戦士達がニヤニヤとした顔でバーダックへと近づいてくる。
「そんなに怖い顔するんじゃねぇって。今、俺達の間で流行ってんだよ」
「ストレス発散みたいなもんだけどな。弱っちい下級戦士なんて居ても居なくても変わらねぇだろ?だから奴らを制限時間内に誰が一番多く狩れるか、ってな」
「そうそう。今回みたいに殺し足りねぇ時にやってる奴って結構いるんだぜ。上には戦闘中の事故で死にました、って報告すりゃ問題にもなんねぇしな」
楽しそうに語られる内容の何処が楽しいのか、バーダックには解らなかった。
戦闘力の低い者達を何人相手にしたところで、手ごたえが無い事には変わらない。
どうせなら今話をしているエリート戦士達を相手にした方が多少楽しめるのだが。
「・・・勝手にしろ。オレは先に次の星に行くからな。獲物が残ってねぇって後になって文句言うなよ」
彼らが此処で遊んでいてくれれば、次の星は自分1人で楽しむ事が出来る。
バーダックは1人で戦うのが好きだった
1人ならば面倒な作戦も、他人の事も気にしないですむ。
目の前の敵を相手にしていればいい。
一番単純だが、一番難解な方法こそ彼の性分にはあっていた。
「ちっ、つまらねぇヤツ」
早々に飛び立って行ってしまったバーダックの個人艇を見送りながらエリート戦士達はスカウターで獲物を探し始めた。
「そういや聞いたか?あいつ、いつの間にか嫁さんと子供が居たんだってよ」
「は?知らねぇうちにガキが出来る訳ねぇだろ?ボケた事言ってんじゃねぇよ。それより早くゲームを始めようぜ」
彼らに付き従ってきた下級戦士達の反応が無くなるまで、残酷なゲームは終わりを迎える事は無かった。
「次はこの星でいいんだよな」
見渡す限りの荒野。
周囲を探索するが、スカウターにも生命反応は無い。
「座標の入力を間違えたか?」
確認するが、指示書と入力された座標に間違いは無かった。
無線を開き司令船との連絡を取ろうとするが、ノイズが混じり連絡を取る事が出来ない。
無線の故障かと機器を調べていると、不意に今まで何の反応も示さなかったスカウターから警戒音が発せられる。
間髪入れずに巨大な影が上空から襲い掛かってきた。
「チッ!」
避け様にエネルギー弾を撃ち込むが全く効いていない。
「皮膚が硬質化してやがるのか・・・なら!」
上空に飛び上がると巨大生物の目の前で動きを止める。
すると巨大生物は獲物を喰らうかの勢いで、その巨大な口を開けてバーダックへと襲い掛かってきた。
「外が頑丈なヤツは内側が脆いって決まってんだよ!」
自ら相手の口の中へと飛び込むと、そのまま体内へと侵入し巨大なエネルギー弾を爆発させる。
雨のように降り注ぐ大量の血液と肉片を浴びながら辺りを見回すと、血臭に引き寄せられたのか、仲間の死を感じ取ったのか、何十何百という数の巨大生物が近づいてきていた。
「久々に楽しめるか」
それは一方的な暴力だった。
人型ではない巨大生物達は尾や翼、口から吐き出す炎弾が主な攻撃であり故に動きが単調すぎた。
攻撃を避け、口が開いた瞬間にエネルギー弾を連続で打ち込む。
破裂する寸前にその身を周囲に居るもの達へ投げつけ、飛び散る血肉を目晦ましとして利用する。
乾いていた荒野には瞬く間に血溜りが広がっていった。
「所詮は獣か・・・もっと楽しめるかと思ったんだがな・・・」
見慣れた景色が広がる。
一面の朱。
自分以外には存在する者の居ない世界。
心落ち着く世界。
『バ・・・ック・・・答・・・せ・・・』
スカウターから発せられる途切れ途切れの音声に、バーダックは紅い世界から現実へと引き戻された。
『バー・・・急、帰・・・ろ』
「なんだって?」
予定ではあと2つの惑星を攻めてから司令船へと期間することになっていた。
作戦途中での帰還命令など今までに出たことがない。
無視しても良かったが、珍しい事態に興味を惹かれたバーダックは一度司令船へと戻る事にした。