〜言の葉の部屋〜

ヒトモジ

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注：原作のサイヤ文字は無視してお読みください。

「プッ・・・」
　擦れ違う度に笑い声が聞こえるのは気のせいだろうか。
　呼び出しをくらい、本部に出頭した時から周りの様子がおかしかった。
　昨夜、いつも通りの盛大な喧嘩が始まったのだが、今回は運悪く5キロ離れたエリート戦士達の居住に流れ弾が命中。
　就寝中だったエリート戦士も大怪我を負ってしまった。
「しっかし・・・何だってんだ？」
　この程度の破壊活動はバーダックにとって珍しい事ではない。
　大概、笑われるのは巻き込まれた側であった。
「バーダック！」
「あん？なんだ、トーマか」
　ニヤニヤしたトーマが進行方向で手招きをしている。
「お前、流石に今回は出撃停止処分だとよ」
「マジかよ・・・で、期間は？」
「それは自分の目で確かめた方が良いぜ。面白い事になってるからよ」
　笑われる程なのだから、余程の期間なのだろうか。
　バーダックが掲示板の前に着くと、其処には黒山の人だかりが出来ていた。
　掲示されているのは紙一枚。
「こ・・・これ、誰が書いたんだ？」
「い、いや、笑っちゃいけねぇんだろうけど・・・バーダックが見る前に、教えてやった方が」
　処分対象者の自分が見ると都合の悪い事でも書かれているのだろうか。
　バーダックの視界に入る限りの者達が皆、笑いを堪えている。
「何がそんなに楽しいんだ？」
　背後から話しかけると、その場に集まっていた者達が一斉に指を指した。

左記の者「破壊活動」及び「障害行為」により2週間の出撃停止処分とする。

　あれだけの事をやった割には、軽い処分で済んでいる。
　問題は次にあった。

処分対象者・・・パーダック

「・・・ど・・・何処のどいつだ！人の名前を間抜けな名前にしやがったのは！」
「し、知らねぇって。俺達だって此処で初めて見たんだからよ」
　普段ならばバーダックに詰め寄られれば立ち竦んでしまう下級戦士も、今回ばかりは緩む顔を戻す事すら出来なかった。
「責任者！出てきやがれ！」
　パーダック・・・もとい、バーダックの怒鳴り声が響き渡ると同時に、掲示板は粉々に破壊される。
　勿論、張り出した担当官は名前もしっかり確認した上で張り出しているので何故この様な事態になったのか解らない状態のまま、身を隠していた。
「あ〜ぁ、やっぱりキレたか」
「トーマ！お前、同じチームなら早く止めろ！」
　安全地帯から暴れているバーダックをトーマはのんびりと眺めている。
「無理無理。あーなっちまったら、俺にだって止めらんねぇよ」
　その後、小一時間も経たないうちに本部は壊滅状態になったが、隠れていた担当官がバーダックの前に姿を現す事は無かった。


「兄ちゃん、兄ちゃん」
「ん？どうした、カカロット」
　紙とペンを抱えたカカロットが嬉しそうにラディッツの元へと駆け寄ってくる。
「オラ、父ちゃんの名前、書けるようになった！」
　得意げに用紙を床に置くと、慣れない手つきで書き始める。
「・・・・・・出来た！」
「バーカ。これじゃ『バーダック』じゃなくて『パーダック』になっちまってる。親父に見せたら怒られるぞ。誰に教わったんだ？」
「ターレス兄ちゃん！あとな、オラの名前はこう書くんだって」
　用紙には『カカロット』ならぬ『バカロット』と書かれている。
「・・・他に教わった名前はねぇよな？」
「たくさん教えて貰った！」
　次々と書かれる名前は全て間違えていた。
『グロリー』『ドジータ』『ゲリパ』etc.etc…
「あの馬鹿・・・4歳のガキ相手に何やってんだ・・・」
　きちんと教えなおさなければ揉め事が発生するのは目に見えている。
「カカロット、せっかく覚えたけどな。お前の書いた名前は全部一文字間違えてんだ。兄ちゃんが教えてやるから、ターレスにはもう聞くんじゃないぞ」
　これ以上おかしな事を教えられては堪ったものではない。
　カカロットを椅子に座らせると、ラディッツは夕飯の支度を続けることにした。
「ラディッツ！飯だ！飯！！」
　ただいま、の一言が無いのも何時もの事だが普段より荒れていることが声からして解る。
「親父・・・処分、そんなにきつかったのか？」
「出撃停止2ヶ月！その間、内勤だとよ・・・ったく、本部が壊れた程度で延しやがって」
「本部を・・・壊した！？」
　出撃停止になると給金がグッと下がってしまう。
　大喰らいが2人もいるこの一家にとっては大問題だった。
　しかし、本部を破壊して2ヶ月で済んだのは奇跡としか言えない。
「あぁん？何だ、こりゃ・・・ラ〜ディ〜ッツ！テメェか！」
「何が・・・って、いきなり何しやがる！馬鹿親父！」
　ラディッツの真横をエネルギー弾が通り過ぎ、壁に真新しい穴が開く。
　バーダックの手には先程までカカロットが使用していた紙が握られていた。
「そりゃ俺じゃねぇよ！ターレスの奴がカカロットに教えたんだ！」
「ターレスか！あのクソガキ・・・ラディッツ、テメェのスカウター貸しやがれ！」
「親父のは？」
「出撃停止処分で取り上げられてんだよ！」
　仕方なくラディッツが自分のスカウターを手渡すと、エネルギー弾によって開けられた穴からあっという間にバーダックは飛び出して行った。
「兄ちゃん、メシは？」
「先に食っちまおう。メシが済んだら、名前の書き方教えてやるからな」
「うん！」
「そうそう、早いとこメシにしようぜ」
「・・・お前、いつから居たんだよ」
　たった今、バーダックが探しに出た人物がカカロットの隣にちゃっかりと座っている。
「大丈夫だって。親父さん、スカウター取り上げられてんだしよ」
　壁に開いた穴を見ながら、手は食卓に並んだおかずを端から摘んでいた。
「ターレス・・・親父、俺のスカウター持ってるぞ。それにカカロットが真似するから摘み食いは止めろって言ってんだろ」
「お前のスカウターって新型のFタイプだろ？親父さんは旧型も旧型のBタイプ。操作性が全然違うから使えねぇって」
「使えなかったお蔭でテメェを見つけられたけどな！」
　先程とは反対側の壁に大きな穴が開いた。
　避け様にターレスも応戦する。
「子供のちょっとした可愛い悪戯だろ！そんなに怒んじゃねぇよ！」
「ガキなら何やっても良いってもんじゃねぇだろうが！」
　エネルギー弾の応酬は決して広いとは言えない部屋の中で、壁という壁が無くなっても続けらえた。


「ラディッツ、カカロット。こんな時間にどうした？」
「・・・トーマさん・・・」
　ラディッツの指す方向を見れば上空に向かって無数のエネルギー弾が放たれている。
「またバーダックか。しょうがねぇ奴だな」
「おっちゃん・・・オラ腹減った・・・」
　バーダックとターレスの騒動が始まってしまった為、夕飯は壊滅状態になってしまった。
「何か食いに行くか？っても、いつもの食堂だけどな」
「行く！」
　食堂のメニューは安くて量が多い。
　底無しに食べるカカロットを連れて行けるのは其処しかなかった、と言うのが正しいだろう。
　案の定、小さな体のどこに入ったのか。
　大人2人前を軽く平らげてしまった。
「あ、そうだ。兄ちゃん、字！教えてくれるって」
　余程嬉しかったのだろう。
　あの騒動の中、しっかりと紙とペンを持ち出している。
「何だ、カカロットはもう文字の練習してんのか？」
「うん、ターレス兄ちゃんに教えてもらった！でも兄ちゃんが間違ってるって」
「それじゃ、オレが何処が間違ってるか見てやるから書いてみろ」
　トーマに促されカカロットは自信満々の顔で紙にペンをはしらせた。
「ちょっと待て！カカロット！」
　ラディッツの不安的中。
　目の前にいるトーマの名前を書いたのだろうが、書かれた文字は『トンマ』となっていた。
「・・・良いか、カカロット。俺の名前は『トーマ』だ」
　紙の上にトーマが書けば、カカロットが真似をして書き始める。
「よし、覚えたな。ラディッツ、ターレスは家でバーダックと遣り合ってんだよんな？」
　ラディッツには無言で頷く事しか出来ない。
　例えそれが周囲の被害を広げる事に成ろうとも。
「あのクソガキ！」
　親父と同じ反応をするなぁ、などと思いながらトーマの後ろ姿を見送る。
　しばらくすると、窓越しに更なる爆音が響いてきた。
　多分、明日には家一帯が瓦礫の山か更地になっているだろう。
「カカロット。兄ちゃんが良いって言うまで人前で文字を書いちゃ駄目だぞ」
「何でだ？」
　あからさまに不満気な顔をするカカロット。
　普段ならば此処で許してしまう事が多いのだが、今回ばかりはそうもいかない。
　このままカカロットを放置しては、家が何軒あっても足りなくなってしまう。
「カカロットだって間違えてたら恥ずかしいだろ？」
「・・・わかった。じゃあ兄ちゃん、早く教えて！」
　食堂の片隅でラディッツはペンの持ち方からカカロットの教え始めた。
「いいか、お前の名前は『カカ』って同じ字が続くんだ。ターレスの教えた字だと1つ目と2つ目が違うだろ？」
「あ、そっか！」
　慣れない手付きで文字を書く。
　先程まで握りしめていただけだった持ち方も、多少改善された様だ。
「カカロット・・・最初の二文字は確かに同じにしてあるけどな・・・」
　用紙の上には『カカロット』ならぬ『ババロット』と書かれていた。


　結局、『パーダック』騒動はターレスが張り替えた悪戯と判明したが、広域に被害を及ぼしたバーダック達3人は全員内勤を命じられた。

　が、バーダックのみたったの2日で処分が解除される。

　曰く「外に出ていた方が被害が少ない」からだとか。

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