〜言の葉の部屋〜

修羅色の戦士 03




「バーダック!何故、あの生物を殲滅した!指令所には捕獲とあった筈だ!‘
 司令船に戻るなり、中央コントロールルームへと案内されたバーダックを待っていたのは何のことは無い、文句を言う事しか出来ない弱者の遠吠えだった。
「オレも言っておいた筈だ。くだらねぇ仕事は持ってくるんじゃねぇってな!」
 バーダックが唐突に放ったエネルギー弾が指揮官の1人を掠め、船体に穴を開ける。
 外壁までは達しなかったところを見るとかなり手加減している事が解るが、それでも当たったならば唯では済まないだろう。
 指揮官達だけでなく司令官ですらバーダックを下級戦士からの成り上がりとして見ていなかったが、その戦闘力は此処にいる誰よりも上なのである。
「その上、こんなくだらねぇ用事で呼び出しやがってよ」
 苛立ちを隠さないバーダックはコントロールルームであるにも関わらず、次々とエネルギー弾を放ち続ける。
 バーダックはこの船が航行不能になろうと一向に構わなかった。
 自分の命さえ、失えばそれまで程度にしか考えていない。
 次第にバーダックの攻撃は周囲の破壊から目障りな者達の排除へと変わっていった。
「何事だ!」
 船の異常を感じ取った数名の戦士が駆けつけてきた時には、既に中央コントロールルームの人員は半数以下にまで減っており、無事に母星まで帰る事が出来るのかと不安になる程、室内は荒れていた。
「王子!来てはなりません!」
 指揮官の声に1人の青年が咄嗟に飛び出し、王子と呼ばれた青年を突き飛ばす。
 強力なエネルギー弾は突き飛ばした青年の顔を掠め、後方で爆発した。
「へぇ。良く躱せたもんだ。今までその程度の怪我で済んだヤツは居なかったぜ。避ける間もなく木端微塵になってたからな」
 久々に現れた手応えの有りそうな相手を目にして、バーダックの表情が変わった。
「貴様!王子に攻撃するとはなにご」
 言葉が終わらぬうちに、1人の戦士の姿がその場から消える。
「な?普通はこうなっちまうワケよ」
 バーダックの攻撃を躱した青年も、噂には聞いていた。
 王が唯一その行動を黙認しているサイヤ人最強の戦士。
 彼が降り立った星は朱に染まるのだと。
「・・・狂戦士バーダック。何故、此処の者達を手にかけた」
 王子の問い掛けに、先程までとは違ったあからさまに不機嫌な顔つきに代わる。
「気に食わねぇからに決まってんだろ。馬鹿なこと聞くんじゃねぇよ。何ならテメェも消えるか?」
 バーダックの目は本気だった。
 一片の迷いも見えない。
「王子とか呼ばれてたが、オレには関係ねぇ。気に食わねぇヤツは消す。オレの邪魔をするヤツも消す。オレはオレの好きにやって良いってお墨付きを貰ってんだよ」
 お墨付き   王命はサイヤ人にとって絶対だった。
 例え王子であってもその命令に逆らう事は許されない。
 何故バーダックにその様な特権が与えられているのかを知る者は極僅かだった。
 ある日、突然現れたサイヤ人。
 王は彼に今まで誰にも授ける事が無かった称号【狂戦士】を与えた。
 戦う事だけを生甲斐とし、相手を滅する事に微塵の迷いも持たない。
 親兄弟や幼い子供が相手であろうとも敵対する者に情けをみせる事をしない、文字通り≪戦いに狂った戦士≫に与えられる称号。
 戦闘民族と言えど其処まで冷酷になれる者はおらず、この数百年の間、授かる者が誰一人として居なかったと言うのに突然現れた下級戦士が授かった。
 当初は誰もが下級戦士であるバーダックには相応しくない称号だと王に異議を唱えていたが、その声は一部を除き消えてしまった   バーダックのその力を実感する事で。
「さて、と。文句がねぇならオレは行くぜ。まだ惑星を2つ落としに行ってねぇんだ。まぁ、テメェ等が相手をしてくれるってんなら話は別だけどな。特にテメェとだったら楽しめそうだ」
 王子を守る為に動き、片目に傷を負った青年に対して挑発的な視線を向ける。
「戦いが・・・楽しいだと?こんな無意味な戦いが!」
 王子   ベジータは信じられなかった。
 年々増える死傷者数。
 破壊された後は放置されるだけの惑星。
 銀河系レベルで広がる反抗勢力。
 このままではサイヤ人に未来はない。
「無意味じゃねぇよ。相手が他種族だろうが同族だろうが、戦っている間だけはオレはオレの存在を確認する事が出来る。こんな命、何時無くなっても惜しくねぇが・・・オレは・・・オレだけは、オレの存在を認識していてぇんだよ。サイヤ人としての自分をな」
 呟くように口にしたバーダックの表情はそれまでの【狂戦士】と呼ばれる彼とは全く違っていた。
 好戦的で冷酷な雰囲気は影を潜め、脆く危うい、消えてしまいそうな存在に見える。
「・・・自分の存在、か」
 ベジータにはその気持ちが多少なりとも理解出来てしまった。
 自分が望まれだ存在ではないと知った時の焦燥感。
 戦いに赴くようになってから目にした、父である王の悪性により腐敗したサイヤ人達と相いれられぬ疎外感。
 勿論、腐敗した者達の様になりたい訳では無い。
 だが自分だけが異端な存在に思えてしまう時がある。
「バーダック・・・お前は父が・・・王が行っている事を知っているな?」
「当り前だ。オレは唯一の成功例らしいからな。何をしても許されるってのは、サンプルとしてどこまでやれるかデータを採られてるって事なんだよ」
 王の最終目的はルートタイプの遺伝子を自分のクローンに植え付け、その身体を使い最強の王となる事。
 当初は己とルートタイプの女性の間に産ませた子供を自分の新たな身体にしようと企てていたが、生まれた子供はルート因子を持ち合わせておらず、元より個体数の少なかったルートタイプのサイヤ人は王による様々な実験により減少し、現在はバーダックを含めて数える程しかおらず、女性に限っては全滅している。
ルートタイプ最後の女であったベジータの母も、出産時に命を落としてしまった為にクローン体の製造に方針転換をしたのだった。
 現在、王の研究対象はルート因子を保有している者達にまで広がっており、先祖返りを狙った交配までもが行われている。
「最近じゃ因子保有者の中で一番戦闘力が高い女にオレの子を身籠らせたって話だ。勝手な事ばかりしやがるが、面倒事は全部アイツが引き受けてくれるからな。頭に来る事があっても取り敢えずは殺さねぇでいてやってるだけだ」
「では・・・面倒事は全部私が引き受けると言ったら、お前はどうする」
 バーダックは王子と言う立場にありながらも、王に対する憎しみを隠そうともしないベジータの顔をじっと見据えた。
「そうだな・・・いけ好かねぇ野郎よりアンタの方が面白いかも知れねぇな」
 自分より僅かに低いベジータの頭を軽く叩くと、バーダックはそのまま立ち去って行く。
 一瞬、その姿が消えてしまったかのように錯覚したベジータは己の目を何度も擦っていた、
「パラガス、トーマ。あいつを仲間に加える事は出来ないか?」
「王子!気でそのような事を仰られているのですか!
 片目を負傷した青年   パラガスがベジータへと詰め寄る。
 もう1人のトーマと呼ばれた青年もまた、嫌悪感を露わにしていた。
「王の戦闘力に確実に勝てる力を持っているのは惑星ベジータ中を探しても今はアイツしかいないだろう。仲間に加える事が出来れば計画も立てやすい」
 同じ≪実験体≫だからこそ解る気持ちがある。
 ならば自分の想いもまた、バーダックには通じているのではないかとベジータは微かな期待を懐いていた。




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