〜言の葉の部屋〜

AnOpening 11




 サイヤ人達が地球へ降り立った頃。
 地球人の中でも力を持った者達がフリーザの存在を感じ取り、行動を取り始めていた。
 自分達とフリーザの力の差は身を以て知っている。
 しかし、今この地球上には自分達しか戦える者が居ない事も知っていた。
 ギリギリまで気配を断って近づき様子を探る予定だったのだが、フリーザの気配が地球上に到達する前に同等、いや、それ以上とも取れる強大な気配が地球上に現れた。
 新たな敵の存在を覚悟したが、その気配はフリーザが地球に到達するとともにフリーザと戦いを始める。
 フリーザ側にも自分達の知らない強大な気配が1つ。
 4つの強大な力のぶつかり合いは1つ、また1つと気配が消え、先に降り立った2つの気配が残った。
 この気配の持ち主が誰なのか。
 自分達の大切な存在に似た気配の持ち主を知りたくなり、気付かれる事を承知の上で戦いのあった場所へと急行する事にした。
 次第に見える人影は、地球人の彼等にとってとても見覚えのあるシルエット。
「お父さん!」
 地球人の中から小さな人影が飛び出した。
 他の者が止める隙もない程の速さで。
 突然抱きつかれ受け止めた相手は訳が解らないといった顔をしている。
 少年がその顔を見上げると、面影はあるものの醸し出す雰囲気が違っていた。
 何より左頬に大きな古傷がある。
「オレにはお前みてぇなガキはいねぇんだがな」
「親父の事だ。どこかで作って忘れてるだけなんじゃねぇの?」
 同じ顔をした人物が茶かすが、傷のある男に殴られその場を離れてゆく。
「す、すみません」
 その様子を見て少年が離れ、勢いよく頭を下げた。
 少年が顔を上げると、自分の父と間違えた人物は微かな笑みを浮かべている。
「チビ、そんなにお前の親父はオレに似てるのか?」
「あ、はい」
 似ている、で済ませられるレベルの話ではない。
 感じ取れる気配もまた、己の父を思い浮かばせる。
「似ていて当たり前だ」
 不意に少年に声がかかった。
「その傷・・・貴様、バーダックだろう。悟飯、お前の祖父に当たるヤツだ」
 悟飯、と呼ばれた少年が目を見開く。
 一目見て、その姿を見て相手がサイヤ人である事は解った。
 フリーザ軍で使用している戦闘服。
 腰に巻かれた尻尾。
 以前、地球に来たサイヤ人と全く同じ姿。
「え・・・おじいちゃん・・・?」
 悟飯の記憶にかつて自分の父の兄だと名乗ったサイヤ人が思い起こされる。
 そして、その男との戦いの様も。
「あぁ。その上、そこに居るヤツはオレの父、サイヤ人の王ベジータだ」
 地球人達がざわめく。
 言葉を発した本人   ベジータ自身も目の前の存在が信じられずにいた。
 フリーザからは惑星ベジータ崩壊の際、自分達以外のサイヤ人は全て死滅したと伝えられていたのだから仕方の無い事ではあるが。
「なぁ、ベジータ。ラディッツとナッパは一緒にいるのか?」
「貴様はターレスか?生憎だったな。あの2人は死んだ」
「死んだ・・・だと?ラディッツが?」
 ターレスとラディッツは親が知り合いと言う事もあり、幼馴染の様な間柄だった。
 2人でよくバーダックに戦いを挑んだり、シヤーチに悪戯を仕掛けたりもしていた。
 長い時間を眠っていたターレスには、惑星ベジータで最後にラディッツと会った時の記憶が鮮明に残っている。
 カカロットが産まれる時。
 遠征中のバーダックに代わり、2人でその誕生を見守る事にした時の記憶が。
『オレさ、これから遠征に行く事になっちまったんだ。お前、まだ休養期間だったよな?』
 カカロットは予定の日を過ぎても中々産まれず、ラディッツはその姿を見る事もなく遠征地へと向かう事になってしまった。
 星送りになる日まで頼むと、一言だけを残して。
 下級戦士の子供は例外なく星送りになると決められている。
 ラディッツはカカロットが星送りになる日までに戻る事はなく、ターレスは係員に頼み込んでカカロットを個人艇へ入れる役目をやらせてもらった。
 勢い良く打ち出された個人艇が見えなくなるまで、ターレスはその場を離れる事が出来ずにいたのだが、それが幸いした。
 カカロットの個人艇の光すら見えなくなった頃、突然辺りが慌ただしくなったのだ。
 警報が鳴り響き、大地が大きく振動する。
 次第に亀裂は大きくなり、建物が崩れ始めた。
 射出場にいたターレスはそのまま空いている個人艇に乗り込み、間一髪、崩壊する惑星ベジータから逃れられたのである。
 個人艇の信号を受けたベジータ王の船に拾われ事の顛末を聞かされた時、ターレスにはバーダックやシヤーチの生死よりも先に、弟を見る事が出来なかったラディッツと帰る場所を失ったカカロットの存在が気になった。
 惑星ベジータに居なかった2人は必ず生きていると信じ、ならばいつか会う日も来るだろう、と。
「一体誰が!」
「そこにいるナメック星人とカカロットがラディッツを倒した。ナッパはオレが始末した」
「カカロットと・・・戦った・・・のか?ラディッツが?」
 惑星ベジータに居た頃のラディッツを知っているターレスには信じられない話だった。
 誰よりも弟の誕生を楽しみにしていたラディッツ。
 戦う事よりも【生き延びる事】をシヤーチから教え込まれていたラディッツ。
 そんな彼が弟と戦い、その上死んでしまったなどとは。
「あの・・・ボクが人質に取られて・・・お父さんは地球人を殺せって言われて・・・」
 悟飯が怯えた目でターレスを見る。
 その悟飯を安心さえるかのように、バーダックの手が悟飯の頭に触れた。
「あのバカは・・・カカロットの気持ちを考えなかったんだろうよ。ま、サイヤ人としての考え方は間違ってなかったがな」
「何で親父にそんな事が解るんだよ」
「カカロットは地球で育った。それも赤ん坊の頃からな。この地球を見りゃ解るだろ?カカロットは何からの理由でサイヤ人としての勤めを果たさずに育ったんだ。そこに見知らぬ肉親が出てきて自分のガキを盾にして地球人を殺せと命じた。お前ならどうする。赤ん坊のカカロットが見知らぬ肉親に人質に取られ、自分の育った星の者を殺せと命じたら」
 答えは決まっていた。
 肉親といえど、見知らぬ者の命令を聞く気はない。
 カカロットを奪い返す為に、その者と戦う道を選ぶ。
「だからってよ!・・・あの馬鹿が!お袋さんとの約束を何で破ったんだ!」
 もっと早く。
 ラディッツが地球へ来たという日に自分も地球へ来ていれば。
 どうしようも無かった、過ぎてしまった事だと頭では理解出来るが、激しい後悔の念が心を占める。
「なら、お前だけでもアイツの願いを覚えておいてやれ。あのバカの分もな」
 悟飯達は2人の会話に言葉を失っていた。
 サイヤ人がこれ程までに仲間を思う種族だとは思ってもいなかったのだ。
 地球に来たサイヤ人は誰もが同族であろうと簡単に殺す事を選んでいたから。
 だから、考えた事も無かった。
 自分達が倒した相手を大切に思っている者が存在する可能性を。




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