AnOpening 10
「フリーザ様!何者かがこちらに向かっております!」
戦士達にざわめきが起こる。
此処に集まっているのはフリーザそしてその父コルド大王の側近達。
戦闘力はそこいらにいる兵達とは比べ物に成らない者ばかりである。
そんな彼等をざわめかせる要因は唯一つ。
スカウターに表示された【計測不能】の表示。
それもその反応が2つも迫ってきていた。
「先に降りた船の連中か?フリーザ、あれは我が軍の船では無かったか?」
「あんな旧型、とっくの昔に破棄してるよ。それよりパパ、これ程の戦闘力を持つ者なんて限られてるさ。あの忌々しいサルが!!」
フリーザは己の身体を奪った者の姿を思い出し、怒りを顕わにしていた。
機械が大半を占めている今の身体。
命を取り留めたと分かった時、必ず復讐してやると心に決めた。
手始めに地球人を皆殺しにし、生き物の居なくなった大地で標的を待とうと思っていたのだが。
「アイツ・・・空の個人艇でボクを騙すなんて」
もう1つの戦闘力も一体誰のものなのか。
自分が相対した時には標的以外には相手になるような者などいなかった。
「そう苛立つなフリーザ。今のお前に敵う者がこの世にいる訳がない。我が軍最高の技術を用いた、今のお前にな」
「・・・そうだね、パパ」
コルド大王が宥めると、フリーザは落ち着きを取り戻した。
「お前達、雑魚の処理は任せたよ。ボクはあのサルを徹底的に痛めつけたいからね」
「ハッ!」
フリーザは復讐の対象が現れるのを静かに待った。
これで積年の恨みを晴らす事が出来る。
だが、目の前に現れた人物は標的とした人物ではなかった。
「ま・・・まさか!キサマは!」
フリーザの顔色が変わる。
此処には、この世には居ない筈の、自分が殺した者の姿を目にして。
「これはこれはフリーザ様。お久しぶりです。そのお体は如何されました?」
目の前に現れた人物をフリーザは忘れる事が出来なかった。
自分に初めて苛立ちを覚えさせたサイヤ人。
惑星ベジータと共に消し去った者。
彼の背後にも複数のサイヤ人がおり、見覚えのある顔がいくつか混じっていた。
「ば、馬鹿な!残党狩りで根絶やしにした筈だ!何故キサマ等が生きている!」
「テメェが死ぬまで、死んでも死にきれねぇんだよ!」
構える余裕はなかった。
現れたサイヤ人
バーダックはフリーザの懐へ飛び込むと、いとも容易くフリーザの身体を貫く。
「機械の身体が仇になったな。この部分なら今のオレの戦闘力で簡単に壊せるぜ」
生身の肉体ならば鍛える事が出来る。
それが機械の、加工された部品の集まりとなれば強度は限られている。
「このサルが!フリーザから手を離さんか!」
「!危ない!」
コルド大王がバーダックへと襲い掛かった。
バーダック達の後についてきていた青年が飛び出そうとするより早く、超サイヤ人と化したブロリーがコルド大王の動きを止める。
「よく見ておけ、フリーザ。あれがテメェが恐れていた超サイヤ人だ」
フリーザの身体の機械で補われている部分を次々と破壊する。
身体を動かす為の中枢まで破壊されたフリーザは身動きすら出来ずにいた。
「ま・・・まさか・・・孫悟空以外に超サイヤ人が・・・」
「ソンゴクウ?」
サイヤ人の名前ではない、聞きなれない響きだった。
「もしそいつが超サイヤ人だってんなら、テメェも運が良いな。1,000年に1人の超サイヤ人を2人も拝めたんだからよ」
フリーザの目に抵抗する間もなく消されるコルド大王の姿が映る。
「キサマ等・・・!」
「悔しいか、フリーザ。だがな・・・オレが此処までの力を手に入れられたのは皮肉にもテメェが要因だ。重傷どころか、あの世に足を突っ込むほどの怪我を負わせて貰ったからなぁ。回復した時の上昇率には驚かされたぜ」
フリーザの脳裏にバーダックと初めて対峙した時の記憶が鮮明に蘇る。
数多の部下達を蹴散らし、フリーザの目前までたった1人で辿り着いたサイヤ人。
自分を苛立たせ、不愉快な思いにさせた初めての者。
だが、フリーザは知らなかった。
不愉快だ、と感じた気持ちを一般的に【恐怖】と呼ぶ事を。
機械の部品を全て剥ぎ取られると、右上半身のみの姿となる。
バーダックは関心していた。
此処までの深手を負わせた者【ソンゴクウ】に。
「トーマ!ターレス!さっさとザコを片しちまえ!」
手を出すことも出来ずにいたフリーザの手下達が我に返る。
バーダックに促され、仕方がないといった感じで2人は行動を起こした。
反撃の隙は与えない。
フリーザ以外の敵は全て最初の一撃で仕留めると、皆で決めた通りに。
正体不明の青年は、その光景を呆然と眺めている事しか出来ずにいた。
「バーダック。いつまでも遊んでいるな。さっさと止めを刺してしまえ」
「そやつを倒したら息子を探すのだろう。ブロリーも楽しみにしている。余計な時間を使うな」
何も知らぬまま命を失った同胞達の仇を王である自分が打ちたいと思わなかったと言えば嘘になる。
それでも、バーダックが倒すならばと納得している自分もまた其処に居る事にベジータ王はもう驚きはしなかった。
「ガキ!折角つけてきたってのに残念だったな!」
青年に形だけの断りを入れると、バーダックの手によりフリーザの首と胴が離れる。
続けざまに打ち出されたエネルギー弾の嵐。
舞い上がった砂埃が晴れると、フリーザの形だけが血の跡となって大地に残るのみ。
フリーザ軍の後始末をしていると、スカウターに新たな反応が現れた。
どの反応も地球に到着した時には確認されなかった数値だが、1,000を割っている者ばかり。
「ザコだが・・・どうする」
「カカロットの手掛かりが掴めるかも知れねぇ。トーマ、向こうが仕掛けてくるまで手ぇ出すなよ」
戦闘力を見る限りでは、相手から攻撃されたところで今の自分達に被害が及ぶ事は無い。
ならばじっくりと相手の出方を待つのみ。
「おい、お前。まだ此処に居たのか?」
ターレスが青年の姿を目にとめた。
フリーザが居なくなった今、フリーザを倒すことを目的としていたこの青年が此処に居る理由が無い。
「・・・孫悟空という名をご存知ですか」
意を決した様子で青年はバーダック達に話しかけた。
その青年の言葉にバーダックだけが反応する。
その名は先程フリーザが口にした不思議な響きの名だった。
「ガキ、そのソンゴクウってのは何者だ。フリーザの野郎は超サイヤ人だと言っていたが」
「貴方と同じ顔をした・・・サイヤ人です」
バーダックと同じタイプのサイヤ人。
それも地球に関係している者といえば、知りうる限り1人しかいない。
「カカロット・・・カカロットの事か!」
バーダックが青年に詰め寄ると、青年はその分だけ後方へと距離を取る。
青年はサイヤ人がどのような人種なのかを知っていた。
本来ならば会話が通じるような相手では無い事も。
だが今は、距離を取ってでも話をする必要性があった。
「今、此処へ向かっている人達は孫悟空さんの知り合いです。あの人達に手を出せば、孫悟空さんは貴方達と戦う事を選びますよ」
戦うことになった場合、青年には勝てる見込みはなかったが。
それでも孫悟空がこの場に来るまでの足止め程度はできる。
青年の決意を込めた瞳を見て、バーダックは以前見た夢を思い出した。
この地球という惑星で地球人達と楽しく暮らす幼いカカロットの姿。
「確かにな。あの様子じゃ見ず知らずのオレ等より親しい仲間を取るだろうよ」
「バーダック?」
トーマが首をかしげる。
バーダックのまるで見てきたかのような言葉。
自分達とずっと一緒におり、自分達より後に目覚めた彼が何を知っているのか。
「お、王!あれは!」
「・・・生きていたか・・・」
話をしている間にも複数の反応は確実に近づいてきていた。
その姿が目視できるようになると、ベジータ王の顔に笑みが浮かぶ。
最後に生存信号を確認したのは地球とは逆の位置に存在する惑星。
この星で、地球で再会出来るとは思ってもいなかった。
ベジータ王の目の前に降り立った人物もまた、ベジータ王の姿に驚愕を隠せずにいる。
「良くぞ無事だったな・・・ベジータ」
「まさか・・・父上・・・」
次々と地球人が降り立つ中、数十年ぶりの対面を果たした親子の間には緊張した空気が流れていた。