AnOpening 06
「
ック
ダック」
何処からともなく、声が聞こえる。
聞こえてくる声にバーダックは聞き覚えがあった。
「
−ダック
頼む
」
「・・・シヤーチ?」
名を呼ぶと、視界が急に明るくなる。
そして目の前には自分に半身を提供し、自分の代わりに命を落としたシヤーチの姿があった。
「テメェ・・・よくもオレの前に顔を出せたな!テメェには一言文句を言ってやろうと」
「それどころじゃない、バーダック。頼む・・・カカロットの運命を変えるな」
「な・・・」
たった独りで戦うカカロットの姿。
それがただの夢なのか、未来の姿なのかは解らない。
だが夢で見たカカロットは怒りと悲しみに溢れていた。
そうさせない為に、地球へ向かっているというのに。
「カカロットの運命を変えてしまっては、その後の脅威を抑える事が出来なくなってしまう。お前の見たカカロットの運命は必然なんだ」
「必然だと?ならば何故、オレは生き残った!運命を変えられねぇなら生き残った意味も地球に向かう意味も無くなっちまうだろうが!」
バーダックの声にシヤーチの姿が一瞬薄れる。
「・・・俺のエゴだ。お前は確かにカカロットの運命を変えられる。だが、俺がお前に生きて欲しいと思ったのは、ターレスの運命を変える為だ」
「ターレスの・・・だと・・・」
何故、シヤーチがターレスの運命を知っているのだろうか。
カナッサ星人の攻撃を受けた自分とは違い、シヤーチにその様な能力があったとは思えない。
自分と同じような攻撃を受けたのか、とも考えたバーダックだったがカナッサ星人の様な特殊な能力を持つ種族もまた好きない筈であった。
「あのまま俺がターレスを育てても、ターレスの生まれ持った性質を変える事は出来ないと薄々解っていた。だがバーダック、お前は俺とは違う。感情を素直に露わにできるお前に育てられたならば・・・ターレスの性質もきっと変わると思ったんだ。俺はお前の命と自分の命を利用したんだよ」
全ては我が子の未来の為に。
その思いを以前のバーダックならば理解するが出来なかっただろう。
だが、バーダックも今は己の子の運命を変える為に行動している。
自分の見たものが未来でなかったならば、それはそれで良い。
たった独りきりで辛い思いをしていないのならば。
「・・・ならカカロットは独りで良いってのか!」
詰め寄るバーダックにシヤーチは笑みを浮かべ首を左右に振った。
「カカロットは独りじゃないさ。地球で多くの仲間を得る。サイヤ人としてもお前達が生き残っている。カカロットが独りになるとしたら・・・それはお前が運命を変えられなかった時だけだ」
「何言ってんだ・・・オレに運命を変えるなって言ったのはテメェだろうが!」
「お前が変えるのはお前が見た運命ではなく、その後の運命」
「その後・・・?」
夢に見たのは、彼の敵と対峙するカカロットの姿。
怒りと悲しみを身に纏い、ただ独りで佇む姿。
その結末までは解らないが・・・
「バーダック、見極めるんだ。その時を。俺は・・・俺達はその時を迎えられる様に出来る限りの力を使ってお前達を妨害する。早すぎても遅すぎても駄目なんだ。許してくれとは言わないが・・・お前なら解ってくれると信じている」
シヤーチの姿に死んでいった仲間達の姿が重なる。
セリパ。
トテッポ。
パンブーキン。
そして多くのサイヤ人達の姿が。
「テメェ等・・・揃って邪魔するってのか。それだけヤバい相手って事なのかよ・・・なぁ、1つ教えてくれ。オレが生き残ったからその脅威は生まれたのか?」
「いいや、それが生まれるのも必然。だが、お前が居る事でそれは蓋然となる。忘れないでくれ、バーダック。お前だけが運命を変えられる。この世の全ての者の」
「ハッ!買い被りすぎだ」
「買い被りではないさ。事実、お前はサイヤ人の運命を変えただろう。戦いに明け暮れるしかなかったサイヤ人に他者を思いやる気持ちを、お前は与えたじゃないか」
それが意識して行った事ではなかったとしても。
「あぁ・・・もう時間だ・・・」
「シヤーチ!」
まだ聞きたい事があった。
シヤーチが知っている限りの、全てを聞き出したくもあった。
だが・・・止める間もなくシヤーチの姿は消え、辺り一面は闇に包まれた。