AnOpening 03
バーダックが再び目を覚ますと、誰が運んだのかメディカルマシンではなく医療ベッドへと移されていた。
部屋の中を見回すと何時から其処に居たのか、壁に凭れ掛かったまま器用に眠っているトーマの姿が目に入ってきた。
(・・・運命が・・・変わったのか・・・?)
不思議な夢の中で命を落とした戦友が、無事な姿で目の前に居る。
生存者がいるならば、運命が変わった事になるのではないだろうか。
何よりも自分も生きている。
ともすれば、あの夢はこれからの未来では無くカナッサ星人が見せた幻だったのではないかとさえ思えてしまう。
現に今、眠っている間にあの不思議な夢を見る事は無かった。
そしてふと自分がどれ程の間、眠っていたのかと考える。
惑星ベジータが崩壊してから何時間、何日、何か月経ったのかが全く解らない。
働きの悪い頭で必死に考えを巡らせていると、扉の開く音が聞こえた。
「・・・ベジータ・・・王・・・」
「気付いたか。あぁ、無理はするな」
身体を起こそうと持ち上げた肩を制される。
惑星ベジータが崩壊したからであろう。
王の顔は最後に見た時の印象よりも少々やつれて見えた。
「バーダック、先程決定した事なのだが我々は地球へ向かう事になった」
「本当か!」
「但し、船の燃料、備蓄されている食料、その他航行に必要な物資の関係上、少人数での移動になる」
奇襲する為に宇宙へ上がったこの船には長い航行への備えは無い。
物資に関しても近隣の惑星から急遽集めた物に過ぎなかった。
「地球へ向かうのは私とパラガス、トーマ、ブロリー、ターレス、そしてバーダック。お前を含めた6名になる。その上、奴等に悟られぬ様、最低速度で進む事になるので・・・地球へ到達するのは20年以上先の話だ」
ベジータ王はパラガスから『カカロットの運命を変えたい』と言うバーダックの言葉を聞かされていた。
果たして20年という長い時間がそれを可能にするのか、不可能にしてしまうのかは解らない
バーダックが変えたいと言っている運命が何年先の事なのかすら。
それでもバーダックの言葉を実現させたかった。
彼は既に
サイヤ人に奇跡を起こしているのだから。
「他のヤツ等は如何するんだ」
「他の船を使い同様の手段で別の星へと向かわせる。王子やナッパ、ラディッツ、それに他にも生存者のいる可能性が高い星が幾つかあるからな」
惑星ベジータ崩壊時に遠征へ出ていた部隊はバーダックのチーム同様、何も知らぬままに攻撃を受けていた。
近場の惑星に居た生存者は回収したが、王子達の様に遠方の惑星に送られている部隊とは未だに連絡が取れていない。
少ない戦力を分散する事は避けたかったが、今はそうするより他に手段が無かった。
「・・・自分の息子を迎えに行かないのか?」
「あれは私を嫌っているからな。それにお前もラディッツを人に任せる事になるが・・・」
ラディッツ。
その名が出る度に、思い出さねばならない何かを忘れてしまっている気がしてならない。
「あいつは要領も良いからな。ま、何とかなるだろうさ。そういや何でターレスが一緒なんだ?」
ブロリーが共に行く理由は解る。
父親のパラガスが行くのだから、赤ん坊のブロリーを他者に任せる訳にはいかないだろう。
だが、ターレスが一緒に行く理由が思い当らない。
ターレスが共に行くならば、メンバーに足りない人物がいる。
「・・・バーダック、左手足に違和感は無いか?」
唐突な質問に訳が解らなかったが、左手を何度か握り、足を動かしてみる。
「少しばかり動きが鈍いが・・・特に問題はねぇな」
あの攻撃を受けたのだから、この程度の鈍さは当たり前だろう。
逆に五体満足で居る事がバーダックにとっては不思議に思えた。
「お前を発見した時・・・左半身は失われていた」
「で、生体パーツを使ったって訳か。良く適合するパーツが積んであったな」
バーダックの言葉に、王の顔色は一段と暗くなる。
「・・・何か・・・問題でもあったのか・・・?」
王は話の先を紡ごうとしなかった。
バーダックが話し辛そうな王を急かすような事はせずに、様子を見守っていると静けさを扉が開く音が破いた。
「王、私が説明致します」
扉から姿を現したのはパラガスだった。
いつから話を聞いていたのか。
そうバーダックが訝しむ前にパラガスは言葉を続けた。
「バーダック。お前に適合する生体パーツは無かった」
「なんだと?ならこの手足は何だってんだ!」
「・・・シヤーチのものだ。お前の失われた部分をシヤーチが提供した。自分よりお前が生きていた方が後の為になる、とな」
「シヤーチの身体・・・だと!」
バーダックと同じタイプの下級戦士であり
ターレスの父親でもある男の名。
シヤーチのチームはその戦闘力から余り警戒されていなかったのか、襲ってきた敵が下級戦士の集まりだと舐めて掛かったのか、理由は不明だが回収されたシヤーチは命に関わるような怪我を負っていなかった。
しかし、メディカルマシンで延命措置を受けているバーダックの姿を目にし、その理由を聞かされた時
彼を含む生き残ったサイヤ人達がバーダックの生体パーツになる事を申し出たのだった。
適合検査の結果、バーダックに適合する者はシヤーチしかおらず、その内臓ごとバーダックに移植されていた。
「・・・何故だ・・・?同じ下級戦士ならオレじゃなくてシヤーチが生きてたって構わねぇだろ!」
「お前の怪我の理由を聞いた者達は一様に同じ行動をとった。お前の命を救って欲しいと、エリート戦士までもが申し出た事だ。サイヤ人としては考えられまいがな」
その中にバーダックと同じタイプの戦士はシヤーチしか居なかった。
同タイプの者は祖先が繋がっているとされている。
何代、何十代と時を重ねようとも、同じ姿の者同士の適合率が下がる事は無かった。
シヤーチは自分が適合する事を知っていて申し出たのである。
ベジータ王やパラガスはバーダックには適合しなかった生体パーツでもシヤーチにならば適合するのではとの望みも懐いたがそれも叶わず、バーダックかシヤーチか、どちらか一方の命を選択する事になったのだった。
「じゃあ・・・何か・・・?オレは自分が生きる為に・・・シヤーチを・・・殺したってのか?」
シヤーチとバーダックはお互いの子供
ターレスとラディッツが縁となり度々顔を合わせる仲だった。
『バーダック、お前いつか本当に死ぬぞ?』
口癖の様にシヤーチはバーダックと顔を合わせる度にそう言っていた。
『戦って死ぬなら本望だ。テメェこそ、もっと戦闘力を上げろ。危なっかしくて見てらんねぇんだよ』
『俺はお前みたいに痛い目に会うのは好きじゃないんでね』
決して無理のない遠征先を選び、殆ど無傷で帰還するシヤーチの戦闘力が上昇する事は無かったがそんな彼はターレスと共にいる時、サイヤ人とは思えない、心底嬉しそうな顔をしていた事をバーダックは思い出していた。