〜言の葉の部屋〜

AnOpening 02




 心地好い何かに揺られ、彼は深い眠りについていた。
 己を包むそれが段々と減るのを感じ取り、目を開けると其処には見知った顔があった。
               
 状況が掴めない。
 何故、この男が自分の目の前に居るのか。
 何故、己の目が再び開いたのか。
「私が解るか?」
「・・・パラガス・・・此処は・・・何処だ・・・」
 辺りを見回せば、其処は見た事も無い部屋だった。
 一見、いつも世話になっている治療室にも似ているが、それにしては狭い。
(第一・・・オレはヤツの攻撃を防げなかった筈だ・・・)
 敵が放った巨大な球体状のエネルギーに身体が飲み込まれていく感覚が生々しく残っている。
「此処は王の宇宙船だ」
「王の・・・」
 パラガスは頷くと言葉を続けた。
「結果として惑星ベジータの崩壊から逃れる事になってしまったベジータ王率いる奇襲部隊の、な」
「・・・奇襲・・・?」
 一向に思考が纏まらない。
 聞かされる単語を理解するのに、普段の何倍もの時間が掛かっている気さえする。
「大丈夫か?」
「済まない・・・記憶を整理させてくれ」
 目の前に居るパラガスは、記憶の中では産まれたばかりの子供と共に、ベジータ王によって追放処分にされた筈だった。
 だが、パラガスは目の前に居る。
 この記憶が間違っているのか。
 ならば何が正しい記憶なのか。
「・・・お前は・・・確か・・・」
「追放された。尤も、奴等を欺く為の方便だったがな。実際はブロリーと共に近隣の惑星へ避難させられていただけだ。万が一の時、ブロリーだけが奴等に対抗しうる手段になるだろうと」
 ブロリー。
 その名は男の息子と同じ日に生まれた天才児の名前だったと記憶していた。
「・・・カカロット・・・」
「あぁ、お前の子か。心配するな。崩壊直前に星送りになっている」
「・・・いや・・・それは知っている・・・」
 惑星ミートから帰還した際に擦れ違った個人艇。
 それに何故、カカロットが乗っていると思ったのかは説明出来ないが、確かな確信があった。
「そうだ・・・カナッサ襲撃後・・・トーマ達がオレを置いて出撃して・・・」
 追いかけた先にはドドリアに襲撃を受け、瀕死の状態になったチームメイトの姿。
「彼等も回収した。治療も済み、お前を待っている」
「生きていた・・・あの状態で・・・?」
 時間が無かった為に最後まで看取ってやる事は出来なかったが、あの状態で長く持つ訳が無い。
「トーマは部隊長クラスの戦闘力を持っていた事が幸いした。が・・・他の3名は間に合わなかった」
 戦闘力が高ければ、その分受けるダメージも軽減される。
 トーマと他の3人とではその差が大きかった。
「そうか・・・だが、キサマの事と言い、奇襲部隊の事と言い・・・何も知らなかったのはオレ達下っ端だけって事か」
 重要な事柄は全てエリート戦士達によって決定される。
 戦いに必要な情報以外が下級戦士へと伝わって来る事は殆ど無い。
「いや、奇襲部隊に関しては王と部隊の者達以外誰も知らされていなかったそうだ。勿論、私もな。逆に奇襲部隊の者達も私の事は知らされていなかった。全てを知っていたのは王だけだ」
 全てが極秘裏に進められていた。
 内通者に情報が漏れない様に。
 敵に行動を悟られない様に。
 一連の事象が全て布石であると知られない様に。
「もう一眠りしろ。まだ暫くは宇宙を彷徨う事になる。アヤツ等の目もあるからな」
「・・・彷徨うなら・・・地球に行きてぇな・・・」
「地球?」
 辺境の、特に何も無い星だったとパラガスは記憶していた。
「運命を変えてやると決めたんだ・・・カカロットの運命を・・・必ず・・・オレの手で・・・」
 カナッサ星人の攻撃を受けてから見るようになった不思議な夢。
 崩壊する惑星ベジータ。
 絶対的な力の前に敗れる己の姿。
 全てのサイヤ人の想いを背負う事になるカカロット。
 まるで未来を暗示しているかの様な不思議な夢。
「オレは死ななかった・・・カカロットの運命も・・・変えられる筈・・・だ・・・」
 強い睡魔がバーダックを襲う。
「・・・何か変化があれば、また起こしに来てやる・・・バーダック・・・その身体、恨むなら・・・」
 パラガスの呟きがバーダックに聞こえる事は無かった。




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