AnOpening 07
「起きろ、クソ親父」
「あ゛?」
身体がだるく、頭が重い。
バーダックが目を開けるとそこには死んだ筈のシヤーチの姿があった。
その姿に先程まで見ていたのが夢であったのだと認識すると共に、シヤーチは死んだのだと己に言い聞かせ、改めてその顔を見ればシヤーチより大分人相が悪く見えた。
「・・・クソガキか」
バーダックの中ではつい先程まで小さかったと言うのに、目の前にいる男
ターレスの背丈は自分と同じくらいに見え、違和感を覚えてならない。
「実はちょっとした事故が起きちまって、親父が一番最後なんだ」
「事故?」
惑星ベジータが滅んでから、目を覚ます度に悪い事態が起こっている気がしてならない。
「運悪く磁気嵐に突っ込んじまったんだとよ。今、コントロールルームで色々手を打ってる最中なんだけどさ・・・行くか?」
肩を貸そうとターレスが手を差し出すが、それを払いのける。
コールドスリープ明けだからと手を借りる必要はない、と思ったのだがバーダックは自分で思っている以上に筋肉が動かない事に気付いた。
長期のコールドスリープなので多少は予想していたが、それを遥かに上回っている。
「無理すんなって。親父の場合は移植した身体を慣らす前にコールドに入っちまった影響が出る可能性があるんだとよ」
再び差し出された手を渋々と借りる。
最悪の気分だった。
身体が自分の意思通りに動かない。
移植後は多少鈍い程度にしか思えなかった左半身は勿論の事、右半身も動かし難い。
一歩一歩が苦痛でしかなく、コントロールルームに着くまでの距離が長く感じられた。
これが夢ではなくて現実なのか。
悩むまでもなく、身体の辛さが、痛む節々が現実である事をバーダックに教えているが、宇宙船の中は眠る前と変わり映えがなく、年月が経っている実感が全くと言って良い程、湧かなかった。
それでも隣で己の身体を支えているのは確かに小さかったターレスであり、ターレス自身が年月の経過を明確に伝えている。
半分夢を見ているような気持から抜けないまま、コントロールルームの前にたどり着いてしまった。
扉が開くと中では各々が何がしかの作業を行っている様子ではあったが、バーダックとターレスに気付くと作業の手を止め、現状の確認をする事になった。
「それで磁気嵐に遭遇しちまったてのは聞いたが、何か問題でも起きてんのか?」
「それがなぁ・・・実はあれから何年経ってるか正確な年数が解らないっつう深刻な事態に陥ってたりするんだな、これが。なんせお前が目を覚ます4年も前に俺は目が覚めちまったし。まぁ、俺が目を覚ました時には先にブロリーが目ぇ覚ましてて色々調べてくれてたから俺も混乱せずに済んだんだけどな」
トーマが指差した先には見知らぬ青年がおり、バーダックに会釈をしている。
「あいつが?あのパラガスの息子の、赤ん坊だったブロリーなのか!?」
サイヤ人らしくない優しげな顔付には確かに赤ん坊だった頃の面影が残っているが、それにしても成長しすぎている気がしてならない。
「磁気嵐で計器が狂ったようでな。私とパラガスは2年前、ターレスはトーマが目覚めた数日後、ブロリーはトーマが目覚める約1年前に目覚めていた。スリープ装置を調べた所、それぞれの時間の進み方が違うというおかしな故障の仕方をしていてな・・・」
その為に、装置の年代表示も当てにすることが出来ず、船内にいる誰にも実際にどれだけの時間が流れているのか見当をつける事すら出来なかった。
近隣の惑星に立ち寄った所でサイヤ人と同じ年号で生活している惑星がある訳もなく、また惑星によって1年の単位も違ってくる。
20年経っているのか、いないのか。
バーダックの脳裏にはスリープ中にみた夢の中でシヤーチが言っていた言葉が思い出されていた。
『俺達はその時を迎えられる様に出来る限りの力を使ってお前達を妨害する』
闇に消えたシヤーチ達の言葉。
まさかこの世に存在しない彼らが磁気嵐を起こしたとでもいうのだろうか。
これが彼の、彼らの妨害だとしたならば
惑星ベジータ崩壊の折に見た夢が既に現実となってしまっているかも知れない。
「地球までの距離は?」
「現状についてはワシ等よりもブロリーが一番把握している」
「なら、今解っている情報を全て寄越せ。状況も解らねぇままじゃ行動に移せねぇからな」
パラガスに促され、ブロリーは探査機で撮影した映像をスクリーンに映し出した。
そこには望遠画像の為か鮮明ではないが、地球と思われる惑星が映っている。
「4年前に探査機を出しました。映像は1年前のものです。これまでに集めた情報からですが、地球にカカロットが攻撃した痕跡はありません。一時期、魔族と呼ばれる者達が攻撃を行っていた様ですが現在は落ち着いています」
スクリーンの映像が切り替えられると、見慣れた丸い物体が表示される。
「こいつは・・・」
「カカロットの個人艇です。識別番号も確認しましたが・・・カカロットの足取りは・・・掴めてません・・・」
画面が次々と切り替わるが、映し出される地球の姿は緑豊かな美しい惑星だった。
とてもサイヤ人の赤ん坊が送り込まれたとは思えないほどに。
「それで?」
「・・・念の為、カカロットの個人艇を調べ経過年数を確認しようとしましたが、計器類は故障していて探査機での応急修理で直せる状態ではありませんでした。唯一、探査機の到達時間とこの船の航行速度から地球到達までの時間は後2年と解りました。多少の誤差はあると思いますが」
「2年・・・か。それだけありゃ十分だな。ブロリー、トレーニングルームは使えるのか?」
「あ、はい。磁気嵐で故障したのは不思議な事にスリープ装置だけでした。他の設備に問題はありません」
「なら、今から使わせてもらう」
時間は限られている。
2年の間に衰えた身体を鍛え直し、少しでも多く戦闘力を上げなければならない。
カカロットの為にも。
「親父は先ず、リハビリからだろ?」
「んなかったるい事してる暇はねぇよ。身体なんざ動かしてりゃ自然と馴染む」
重い身体を引きずりながらトレーニングルームへと向かうバーダックを止める事が出来る者は居なかった。