AnOpening 05
「生体反応は完全に消えてるのか?」
「お前の考えも解らんでもない。だが・・・それは無理だと言っておこう」
生体反応が残っていれば。
その状態で保管されているならば。
自分に与えられた半身をシヤーチに戻し、父親をターレスの元に返す事が出来る。
例え何年先の事になろうとも、バーダック自身が生きてさえいれば。
「そうか。じゃあ仕方ねぇな。もう済んじまった事だしよ。ターレス、お前・・・ラディッツやカカロットと兄弟になるのは嫌か?」
「なっ・・・突然何言ってんだよ!」
突飛な発言に、ターレスは逸らしていた視線をついバーダックへと戻してしまった。
その顔には涙の跡がありありと残っている。
「嫌なら無理にとは言わねぇけどよ。オレの体の半分はお前の親父なんだ。シヤーチがお前に残せる筈だった事を、オレがお前に教えてやる」
「・・・・・・バーダック、お前・・・まさか頭やられてたのか!?」
モーション無しでバーダックの右手から放たれたエネルギー弾は小さいながらもトーマを吹き飛ばすには十分な威力を持っていた。
そうしながらもバーダック自身、考えていた。
何故、ターレスに対してこのような言葉が口をついて出てきたのか、と。
「・・・テメェは黙ってろ。ターレス、嫌なら嫌だとはっきり言え。強制じゃねぇんだからな」
「
ゃねぇ・・・」
「さっきから何度も言ってんだろうが!」
「嫌じゃねぇって言ってんだよ!」
耳まで赤くなっている様が、ベジータ王達からも見て取れた。
「つう事だ。ターレスは今からオレの息子って事で良いな?」
「駄目だという理由は無かろう」
「だとよ」
ベジータ王の同意を得ると、バーダックは上半身を起き上がらせ左手でターレスの頭を撫でる。
ターレスは再び涙を流していた。
生前の父の手を何度振り払った事だろう。
本当は撫でられる度に嬉しかったのに。
気恥ずかしい、という理由だけで。
今も気恥ずかしい事に変わりはないが、この手を振り払う様な事は二度としないと決めた。
後悔を残さない為に。
「あーぁ。こんな事になっちまったら、アンタを恨む事も出来ねぇや・・・な、親父」
それはバーダックに向けられた言葉なのか、シヤーチに向けられた言葉なのか。
バーダックがそのままターレスの頭を胸元へ抱き寄せると、ターレスは声を堪えるのを止めた。
年相応の子供らしく。
親に愛されていた子供らしく。
その姿は7年分の涙を一度に流している様でもあった。
ターレスが落ち着くのを待ち、ベジータ王が本題を伝える。
船に搭載できる食料は約5年分。
最低速度での航行では全く足りない。
その為、大人はコールドスリープで、子供はノーマルスリープで地球へと向かう事になるのだと。
「コールド、か・・・」
コールドスリープは大半の者から嫌がられていた。
技術が確立し、装置が開発された当初は移動中にも歳を取らない利点から多用されていたのだが、近年では歳をとってもノーマルスリープが良いと言われている。
目覚めた時の倦怠感が最悪だ、というのが大半の意見だった。
スリープ期間が長くなると目覚めても直ぐに行動できないのだ。
「これ程長期のスリープは前例がないが、計算上では身体に異常が出ることは先ず無い・・・私とて好き好んでコールドにした訳ではないのだ」
ベジータ王も長期のコールドスリープは避けたかった。
そのまま目覚めぬ危険性からも。
が、ノーマルスリープの場合、身体は活動した状態のままなので栄養剤等の投薬処置が必要となる。
他の船に積んであった薬剤を集めても、3〜4人分しかならなかった。
「仕方ねぇか。向こうに着いた時にコイツとブロリーがガキのままじゃ困るからな」
20年も経てば立派な戦力になっていることだろう。
それがノーマルスリープの利点の1つでもあった。
スリープ中にも筋肉に定期的に刺激が与えられ、衰える事は無い。
個人艇の様な狭い、身体を動かす空間が無い状態でも目的地に到着後すぐに行動に移れる。
戦いを主とするサイヤ人にとって、この技術がなければ昨今のような発展は望めなかっただろう。
とは言え、今は過去の話であるが。
「そうなると・・・え、目が覚めたらお・・・アンタと殆ど歳が変わらねぇじゃんか!」
ゴン、といい音が室内に響く。
「テメェは親に向かってアンタって言うのか?」
「いってぇな!このクソ親父!」
面と向かって言うには少々照れ臭かっただけなのだが、まさか拳骨が降ってくるとは思わなかった。
「ちゃんと言えるじゃねぇかよ、このクソガキ。それにテメェはオレだけノーマルで50近くまで歳食えってのか?」
コールドスリープが嫌な事には変わりはない。
それにサイヤ人は肉体年齢が若い時期が長い為、50近くといっても戦闘に支障はない。
が、だからと言って自分1人だけが歳をとるのは戴けない。
自分より年上の者達よりも年齢が高くなってしまうならば、コールドスリープの倦怠感を我慢した方が遥かにましだとバーダックは思っていた。
「ったくよ。ヤツ等の目さえなけりゃ地球なんざ半年もかからずに行けるってのにな」
翌日には隊が分けられ、それぞれの目的地へと進路をとった。
「機械が故障しねぇ事を祈るぜ」
長い眠りになるが、バーダックにはその先に確かな光が見えていた。