〜言の葉の部屋〜

偽りの教皇 12



 殺意も無い、闘志すら無いモノ達が襲い掛かってくる。
 無駄に命を散らすなと掛かってくるヤツ等に思わなくもないが、殺さなければオレの意思は伝わらないだろう。
 このマリーナと言うのはどれだけの人数が居るのか。
 ポセイドンではなく、シードラゴンの号令一つで次々と。
 その心には   死を覚悟した恐怖しかない。
 まるであの日、初めて出逢った時のあの3人の様に。
「ポセイドン殿は無駄に部下の命を散らすのがお好みか」
 右腕を左手で掴み、肩に担いだまま蹴りのみでマリーナを殺すオレの姿はコイツ等にどう映っているのか。
「まさかアテナの教皇がこれ程のものとはな。海龍、お前の情報はどうやら間違いだった様だな」
「・・・申し訳ございません」
 頭を下げながらも視線はオレを睨んでいるのが解る。
 オレに殺される前に、出来れば視線だけでなく顔も見せて欲しい所なんだが。
「しかし、教皇とは言えど人には変わりありません。このまま攻め続ければ疲れも   
「残念だが、私は不眠不休でも1ヵ月は戦い続ける事が可能なのでな。疲れを待つのは愚策と言うモノよ」
 あくまでも最低1ヶ月、だがな。
「そうか。しかし、其方は自分への攻撃には強いようだが・・・これならどうかな?」
 ポセイドンが三叉の鉾を構え、オレとは全く違う方向へと投げつける。
 あの方角はサンクチュアリの筈だがと考え、オレは自分の周囲への警戒が敵だけを対象にしていた事を後悔した。
 サンクチュアリの方向から此処へと向かっている人影。
 それに向かってポセイドンは鉾を投げつけたのだと。
「・・・ッ!」
「間に合うかな、教皇よ」
 間に合うか、だと?
 間に合わせるに決まっているだろうが。
 鉾を掴もうと伸ばそうとした右手は・・・無い。
 ならば・・・
「この・・・馬鹿者が!」
「・・・アレを止めたか」
 怒声と共にオレは付いている筈の無い右腕を伸ばそうとした勢いをそのまま利用し、右足を軸に回転を加え左手に持っていた右腕を勢いよく鉾へと叩き付けた。
 鉾の軌道をずらす事には成功したが、流石【神】の武器とでも言えば良いのか・・・叩き付けた右腕はいい具合に破損している。
 これは回復させるのに時間がかかるな・・・
「私は全セイントに警戒態勢   つまりはサンクチュアリでの待機命令を出したのだが?」
 サガを先頭に、ゴールドセイントの上5人がこの場に来ていた。
「仕方ねぇだろ。サガが気になる小宇宙があるとかで1人で行こうとしてたんだからよ」
「アテナには許可を得ている。教皇の命よりもアテナの命の方が上だ」
「教皇の単身での戦いに許可を出したものの、心配だったみたいでね。私達に様子を見てきて欲しいと言われてしまっては来ない訳にはいかないだろう?」
 ・・・コイツ等3人はオレの目付け役と言う訳か。
「邪魔だと私は言った筈だがな・・・射手座」
「アテナからサガが暴走しない様に見張っていろと頼まれてしまったら断れませんよ、教皇」
 その割には嬉しそうな顔をしているな。
 この男はそんなに戦いをしたかったのか?
「双子座・・・気になるコスモとはあのシードラゴンの事だな?」
「・・・はい」
「私はあの男は殺すつもりでいる。だが   
「お待ちください!あの男は私が」
「話は最後まで聞け。私はあの男のコスモがお前と類似している事くらい気付いている。正体に心当たりがるのだろう?ならば・・・お前に任せる。あの男から聖戦を開戦させようとする意志を奪うか、身動きできない様にせよ」
「畏まりました」
 やっぱりそうなのか。
 こうなると、他の面々もコイツ等に任せてオレはポセイドンの相手に専念していた方が良さそうだな。
「蟹座」
「ん?・・・何だよこのボロ」
「私の右腕だったモノだ」
「ゲッ・・・」
 それを持っていると兜が脱げないんだよ。
 兜をシュラに預けローブを脱ぎ、それに腕と兜を包んで隅に放り投げる。
「流石に、お前達に気を配りながら教皇の格好のまま片腕で戦うのは不利だからな」
「・・・アンタな・・・自分の腕くらい大切に扱えよ」
「だから包んだだろうが。良いか、デス、シュラ、ディーテ、ロス。お前達はあのポセイドンの前にいる5人を相手しろ。まだ子供もいるが・・・自分達の命を最優先にしろ」
「サガはどうするんだ?」
「サガはあのシードラゴンの相手だ。他に気を配っている余裕は無いだろうからアイオロス、お前は3人の戦いにも気を配りつつ2人を相手にしてくれ」
「了解した」
 豪く楽しそうだが・・・もしかしなくてもコイツは戦闘狂だったのか・・・?
「ほう、装束を脱いだだけで随分と雰囲気が変わったようだが、我の相手を1人でするか。我の鉾に叩きつけた右腕が何故そうなったか解っていないようだな」
「ん?気付いているさ」
 軌道をずらした為に岩壁に刺さっていた鉾を左手で引き抜けばポセイドンの表情から余裕が消えた。
「アンタのコスモがどんな質のモノかは解ったからな。それさえ解ればこの程度は簡単にできる。現時点でアンタを包んでいるコスモもオレにとっては無いに等しいんだが・・・試してみるか?」
 さっきまで右腕をそうしていた様に、今度は三叉の鉾を肩に担いでみせる。
 こうすればオレの言っている意味が正確に伝わる筈だ。
「フッ・・・本当に面白い男だな。這ったりではなさそうだが何者だ?」
「アンタも言っていただろう」
「そういう意味ではない。其方自身が、何者だと聞いている」
「アテナはオレを神族よりも上位の存在ではないか言っていたな」
「常ならば戯言に聞こえるが、此処までされては小娘がそう考えたのも頷ける。それに纏わせた我の小宇宙が完全に消されているが、何をした」
「オレの力で中和した。逆にアンタのコスモと反発する力を纏わせて返す事も可能だが?」
 持った瞬間にオレの右腕と同じ運命をアンタがたどる事になるけどな。
「・・・遠慮しておこう」
「それは残念だ」
 ポセイドンと睨み合いを続けつつ、周囲の様子を探ればサガとシードラゴンはオレと同じ様に睨み合い、他の4人はジェネラル5人と交戦中だった。
 それ以外のマリーナ達は誰も手を出せずにいる。
「・・・一つ提案がある。其方が条件を飲むならば、この戦いを終わらせてもよい」
「地上への侵攻を止めるとアンタから言い出すとはな。で、その条件は何だ」
「我が神殿には世界の海を支える7本の柱がある」
 急に何の話だ?
 地上への侵攻を止める為の条件を教えろと言ったんだが。
「その柱は7人の海将軍が支えているのだが・・・其方に1人殺されてしまい、支えが居なくなってしまった」
「忠告はした。殺意を向けてきたアイツが悪い」
「そうだな。だが其方が殺した事には変わりがない。其方には其方が殺したリュムナデスの代わりにリュムナデスの鱗衣を着てもらう」
 ・・・何て言ったんだコイツは。
 オレの聞き間違いだと思いたいが・・・
「一つ確認したい。リュムナデスが居れば良いんだな?」
「柱には支えが居ればより強固な結界になるのでな」
 ・・・アイツは少し前に死んだばかりだ。
 なら・・・
「少し待っていろ。オレより適任者がいる」
「適任者だと?」
 ポセイドンをその場で待たせ、オレは小競り合いを繰り広げている9人へと近付いた。
「オラオラ!逃げてばかりじゃつまんねぇだグェッ!」
「・・・交戦中に悪いが、手を貸してくれるか?」
 デスマスクの蛙が潰れたかのような声で辺りの戦闘は中断され、アイオロス達の視線は何をしたのかとオレに集まっていた。
「こ、殺す気か!この馬鹿教皇!マッハで動いてる聖闘士の聖衣の襟首引っ張るヤツがあるか!!これが光速で動いてたら幾ら黄金でも完全にあの世行きだ!!」
 涙目で睨みつけて来るが・・・うん・・・今のはオレが悪かった。
 言われて考えてみれば・・・音速に抑えていたとはいえ、よく無事だったな・・・
「悪かった。殺す気は無いが黄泉平坂に行って来てくれないか?」
 ジェネラル達から「それは死ねと言ってるだろ」などと言う声が聞こえてくるが、コイツに限って言えばそうでは無い。
「・・・何でだよ」
「オレが殺したリュムナデスの魂を探してきて欲しい。実はポセイドンにリュムナデスの代わりにリュムナデスになれと言われている。本人が居れば回避出来るかと思ったんだが・・・頼んで良いか?」
「アンタ何してんだよ・・・で、いつ殺したんだ」
「サガ達をサンクチュアリに戻す直前だ」
「・・・時間的にギリギリか・・・解った。ちょっくら行ってくらぁ」
 言うが早いか、デスマスクの姿はその場から綺麗に消えていた。
 アイツは説明を省いても理解してくれるから助かる。
 これがシュラなら事細かに説明して納得しないと動いてくれないからな。
「ロス、お前達も戦闘は一時中断だ。ポセイドンとの停戦交渉を今再開している」
「再開?どうやってそんな事が・・・」
「さぁな。向こうから条件を出してきた。まぁ、オレの回答で向こうが納得するかは解らんがな」
 ジェネラル達にも同じ話をすれば、戦闘を止めポセイドンの元へと戻って行った。
 さてと・・・次はアイツを修復しないとならないんだが・・・遺体は何処だったかな。
「ロス、ディーテ、シュラ。悪いが・・・この遺体の中からリュムナデスを探すのを手伝って貰えるか?」
「・・・この中・・・から?」
 アフロディーテの口元が引き攣っているのは・・・まぁ、仕方ないだろうな。
 これだけ大量の死体の山になるとはオレも思っていなかったんだ。
「特殊なスケイルを纏っているのはリュムナデスだけだから直ぐに解ると思うが」
「そういう意味では無い。この大量の死体を漁れというのか?」
「あの後、随分とヤったんだな。どれもこれも一撃か」
 ディーテの様に汚いモノを触るような手つきもどうかと思うが、平然と遺骸を投げ退かすのもどうかと思うぞ、アイオロス。
 暫くすると、目的であるリュムナデスの遺体は多少血に塗れているがオレが殺した時のままの状態で発見された。
 この力を他の神の目に触れさせるのは極力さけたかったんだが・・・リュムナデスになるよりはマシだろうな・・・




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