〜言の葉の部屋〜

偽りの教皇 05



 何故アリエスとライブラが、だと?
「再三の召集に返事も寄越さないヤツ等をいつまでも相手にしている暇はオレには無い。もう居ないモノと考えているだけの事だ」
 来れない事情が有るなら有るで、連絡の一つも寄越せば良いものを。
「今回、アンタをサンクチュアリに迎え入れる為の召集にも返事は来なかった。下手をすれば反逆の罪に問われかねないと言うのに、な。其処まで徹底している相手を態々来させる必要も無いだろう?」
 尤も、先の教皇が殺されている事を知っていてサンクチュアリの動向を探っているのかも知れないが・・・それでも性悪女神がこうしてサンクチュアリで過ごしている時点で動きを見せても良い筈だ。
 まさか性悪女神までもがオレに騙されているとでも疑っているのか?
 ・・・この女は人に騙されるよりも騙す方が向いている気がするんだが。
 それとも他に動けない理由があるのか。
「へぇ〜牡羊座と天秤座って居ないんじゃなくて来ないだけなんだ。なぁ、何てヤツなんだよ」
「アリエスがムウ、ライブラがドウコだ」
 令状を書く度に前に書いた名前が間違っていたのではと何度も確認したから間違い無い筈だ。
「ムウって・・・まさかオレと紫龍の聖衣を直してくれたジャミールのムウじゃないよな?」
「・・・ドウコ・・・確か老師もその様なお名前だったと思ったが・・・」
「なんだ、知り合いなのか?だったら伝えておいてくれ。アテナの帰来の召集にも応じなかったお前達は二度とサンクチュアリに来なくていい、とな」
「待て、それは流石に拙いだろう」
 ・・・そうだな・・・
 ゴールドセイントが12人揃わないのは都合が悪いか。
「訂正だ。クロスを返上しろと伝えて    
「そういう意味ではない!」
「私もそれで構いません」
 ニコニコと笑顔の裏に怒気が見えるな、性悪女神よ・・・サガが呆気に取られているんだが・・・
「沙織さん・・・自分が蔑ろにされるの許せないタイプだからな・・・」
「地雷を踏んでしまったと言う事か・・・老師・・・何故・・・」
「子供の頃に比べれば幾分かマシになったが、こういう所は変わらない、か」
「あら、何か言いまして?」
「「「何でも無いです」」」
 オレにはどうもこのブロンズの子供達はゴールド達と違い、性悪女神としての顔を知っている気がしてならないんだが・・・子供が言う子供の頃とはいつ頃の事なんだろうな。
「アテナ、教皇。牡羊座と天秤座の2名に今一度、アテナへの拝謁の機会を与えて頂けませんでしょうか」
「サガはこう言ってますけど、どうしましょう?」
 そうだな・・・
 流石に性悪女神がいる状況では断らないと思いたいが・・・
「・・・拝謁に来るか、クロスを返上するか。拝謁が不可能な場合はその詳細を記した返書を使者に必ず持たせる。返書が無い場合は職務放棄によるセイントの資格剥奪。事実上の最後通告だ」
 ゴールドセイントでも職務を全うしなければ罰を受ける。
 当たり前の事だが、偽りの教皇だったオレには出来なかった事だ。
「令状はアンタの名で出すが構わないな?」
「勿論です。それで彼らが来なければ・・・私をアテナとして認めていないと言う事でしょうから・・・」
 自分のセイントに疑われるってのは幾ら性悪女神とはいえ、可哀相なモノだ。
 出来るならば、今回の召集で来るなり理由を告げるなりしてくれると良いんだがな。
「使者には顔見知りらしいセイヤとシリュウに行かせる事にしよう。同行者はデスが良いだろうな」
「はぁ?何でオレ様がこんなガキのお守をしなけりゃならねぇんだよ」
「ゴールドセイントの中でシャカの次に空間移動が得意なのはお前だろうが」
「そりゃ・・・そうだけどよ・・・」
 心底嫌がっている顔だな、これは。
 こうなると多少の事じゃコイツは動かない。
 ・・・まぁ・・・オレがコイツ等を甘やかしているのが原因なんだろうが・・・
「この間欲しがっていた何とかという刀匠が作った和包丁だったか?一通り揃えて構わないから行って来い」
「よし、さっさと行くぞガキ共!!」
「待て!私が代わりに行ってやる!」
「おせぇんだよバカ魚!」
「私とて新種の株が欲しいんだ!」
 口を挟まないシュラの様子を窺えば・・・コイツは自分まで言い出せば収拾がつかなくなるのを解ってるから、昔から3人の中で一番我慢するんだよな。
 本当にこういう所だけは子供の頃のままで育ちやがって。
「解った。デスはシリュウ、ディーテはセイヤを連れて行け。次に何かあった時は優先的にシュラに回す。これで今回は納得しろ」
「狡いですわ!」
 ・・・性悪女神・・・何で此処でアンタが口を挟んでくるんだ・・・
「私の案は尽く破棄しておきながら    
「アンタのは此処の予算、アイツ等のはオレの私財。その違いだ、馬鹿が」
「・・・私財?」
「言っただろう。殺しは報酬の大半がセイントに入ると。使い道もなく預けていたら利息だけで相当なモノになる額が溜まっていたんだ。コイツ等に何か買ってやる時は其処から使っている。アンタに文句を言われる筋合いはない」
「でしたら私にも買って下さっても良いではありませんか!」
「アンタは財団のトップでそれなりに私財もあるだろう。それに・・・コイツ等には今まで大分苦労も掛けてるからな」
 此処の事を何も知らぬオレに一から此処の事を教えながら、オレの代わりに嘘を吐き、子供らしさを押し隠しながら周囲を騙し続けた3人を多少甘やかしてやっても罰は当たらないだろう。
 令状を渡しさっさと行けと促せば、セイヤ達を引っ張りながら笑顔で出て行った。
 本当に現金な奴だな、アイツも。
「私には狡いと言う権利があると思うが?」
「帰って来たのか。確かこの間、限定の袈裟が欲しいと言っていたな。というか袈裟に限定も何もあるのか?」
「うむ、手織りの袈裟は数が限られる。しかし何故それを知っている?」
「・・・買ってやるから、そこは気にするな」
 お前達の誕生日プレゼントのリサーチをする習慣がそのまま残っていただけの事だ。
「それで首尾は?」
「鳳凰星座の一輝の捕獲には成功したが、未だに抵抗されている。アンドロメダ星座の瞬が引き摺って来るとは思うが今暫く時間が掛かるだろう」
「・・・シュンに任せて放置してきたと?」
「白羊宮までは手を貸した」
「まぁ、お前にしては上出来だな」
 コスモを探ればデスマスク達のコスモは既に十二宮内に無く、処女宮を過ぎた辺りに2つの似たようなコスモが感じられる。
 デスマスク達が戻るまで暇な事だし、オレが行ってくるかな・・・
 サガに気取られない様に火時計の見える窓へと近寄ったオレは教皇の証の一つであるローブをサガに投げつけ、火時計へ向かって跳躍した。
 教皇の間から脱走するにはこのルートが一番確実だ。
 後ろからサガの声が聞こえてくるが、どうせ性悪女神への態度で後で説教があるのだから気にしない事にする。
 十二宮へと視線を向ければ何らや暴れる物体を鎖で雁字搦めにし、引き摺って歩くシュンの姿を見つけた。
 華奢で優しげに見えてやはりシュンもセイントだと言う事か。
 確か連れているのは実の兄の筈なんだが・・・その扱いは正しいのか?
「シュン、それがお前の兄か?」
 再度の跳躍でシュンの目の前に着地をすれば、オレを見たシュンもその兄も動きを止めていた。
「どうした?」
「あ、いえ、今、何処から来たんですか?」
「火時計からだが?」
「火時計・・・ですか・・・」
 何故か厭きれた感じが声音に含まれているんだが・・・そう言えば、誰かの目の前でこのルートを使うのは初めてだったな。
「態々こんなに長い階段を歩くのも面倒だろう?十二宮内は音速以上での移動を禁じられているしな」
「だからって火時計からって聖闘士でも有り得ないと思いますよ・・・」
 そうか?
 オレが出来るのだからセイントならば可能だと思っていたんだが。
「瞬!いい加減にしろ!それにそいつは何者だ!」
「放したら兄さん、また居なくなるでしょう。それとこの人は    
「そう警戒するな。オレはシン。シュンとは先日知り合ったばかりだ。イッキだったな?もし強くなりたいなら、此処に居る事をオレは勧めるが」
「オレは群れるのは性に合わん」
「何も此処に居る事が群れる事にはならないだろう。シュン達はゴールドセイントから指導を受ける事になっている。お前の様なタイプは人に指導されるのを嫌がるだろうが、指導を受けると言う事は相手の動きなどを盗める絶好の機会だ。そう割り切って少しの間だけでも此処で暮らしてみないか」
「・・・貴様も黄金聖闘士なのか?」
「いや、オレはセイントですらない」
「聖闘士ではないだと!?」
「あぁ。セイントでは無いが・・・あの程度の動きは出来る。尤も、オレとて1人で何でも出来るようになった訳では無いがな」
 こういったタイプは自尊心を刺激してやると結構、こちらの思い通りに動いてくれたりするものなんだが・・・さて、どうでるか。
 自身に出来ない事をあの程度と言われたならば。
 まぁ・・・後半部分は身体的な事では無く、此処での生活等に関しての話しだが嘘は言っていない。
 独りで出来る事は限られているとコイツが気付いてくれれば良いんだが。
「群れる必要は無い。お前にとって必要な事を取り入れる手段としてサンクチュアリを利用しろ」
「利用しろ、か。だが、これだけは言っておく。オレはアテナを敬う気持ちは持ち合わせていない」
「奇遇だな。オレも神は嫌いなんだ。あの性悪女神は特に好かん」
 その後、教皇の間でオレが教皇だと知ったイッキの表情は見ものだった。




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