〜言の葉の部屋〜

偽りの教皇 03



「教皇、アテナより補正予算案が出されておりますが・・・」
「却下だ。直ぐに書類を破棄しろ」
 性悪女神が帰来してから半月が経ったが・・・あの女はサンクチュアリの財政をなんだと思っているんだ。
 自分の為に使われる予算が少ないだと?
 グラード財団とやらのトップだと言うなら、そっちの金でやれば良いだろう。
「懲りずによく出してきやがるな。それも断れないシュラに渡すってんだから」
「根性が悪いとしか言えん・・・シュラ、破棄し難いなら私が破棄しておく。いつも通り其処へ入れておけ」
「・・・申し訳ありません」
 お前は悪くない。
 あの性悪女神が・・・
「それにしても気になってたんだけどよ・・・アンタはいつまでその喋り方してんだ?正体ばれたんだから普段通りで良んじゃね?爺くせぇし」
「癖なのだから仕方あるまい。どうにもこの格好をすると自然とこうなる」
「私達に隠れて二重生活を送ったりするからだ」
 まだ根に持っているのか・・・確かに、黙っていたのは悪かったと思っている。
 だが心配だったのだから仕方がない。
 アイオロスの件でオレが布令を出すまでの半年間も逆賊の弟として扱われていた子供が居ると聞けば、様子を見たくもなるだろう?
 様子を見に行くなら教皇の姿のまま行ける訳が無い。
 ならばと素顔で会いに行けば・・・寂しがり屋の子供に懐かれ放って置けずに幾度も通い、鍛錬の指導をしようものなら他の宮の子供まで寄ってくる始末。
 そんな訳でゴールドセイントの下5人は皆、仲が良くなった訳だが・・・オレはとっくにコイツ等も気付いていると思っていたんだがな。
「挙句に青銅のガキにまで手ぇだしてよ」
「人聞きの悪い事を言うな。アレはアイオリアが見どころのある候補生が居ると言うから見に行ったのが切っ掛けに過ぎん」
「で、結局懐かれて時々様子見に行ってたんだろ?」
「・・・・・・」
「アンタ、本当にガキが好きだよな」
「デスマスク・・・流石に皆、誤解しているから止めてあげれば?」
 ちなみに今、教皇の間にはゴールドセイントが9人とも集まっている。
 オレの事を良く知っている3人以外は・・・顔が青褪めていた。
 サガ・・・お前までオレを疑いの眼差しで見るのか・・・
「ハッキリ言っておくが私に幼児趣味は無い。子供等の健康状態を心配して何が悪いと言うのか・・・」
「健康状態・・・ですか?」
「そうだ。アイオリア、お前とて私が様子を見に行った当時はかなり偏った食生活を送っていただろう。セイヤに関しても同じだ。女セイントであるマリンに預けたのだから大丈夫かと思っていたのだが・・・お前に連れて行かれた時は唖然としたものだ。まさかマリンが男らしい料理しか出来ないとは思わなくてな・・・」
 そう、だからオレもアイオリアに連れて行かれるまで油断していた。
 男だろうが女だろうが、結局の所セイントはセイントだったのだ。
 アレが切っ掛けだったな。
 候補生専用の食堂を作る事にしたのは・・・それでもセイヤは中々馴染めずに食堂に行く回数は数える程しかなく、結局、食事の面倒を見てやっていたんだったか。
「エサで釣れば懐かれるに決まってんだろ」
「デスマスク・・・お前は私に何か思う所でもあるのか?」
「べっつに〜〜〜〜」
「末っ子に親を取られた長男の心境なだけだ」
 ガタン、と良い音を立てて椅子ごと引っ繰り返った様だが・・・行儀の悪いデスマスクの自業自得だろう。
「気色わりぃこと言ってんじゃねぇぞ!シュラ!!」
「間違った事を言ったつもりはない」
「サガ、この場合私は父親になるのか?それとも母親なのだろうか?」
「・・・健康面の心配をしている点から考えれば母親かと」
「そこ!真面目に変な話ししてんじゃねぇ!!」
 意趣返しに決まっているだろう。
 尤も・・・デスマスクもオレも解っていてやっているんだが。
 コイツはコイツで下の連中と自分達との溝を少しでも埋めたいと思っている。
 約13年もの間、上の3人と下の5人の交流は殆ど無かった。
 そこにオレが勝手にだが下の5人と会っていた事が解り、それを足掛かりにして距離を縮めようと考えているんだろう。
「あ〜でも母親ってこんな感じなのかなってオレ達も思ったよな、カミュ」
「そうだな。顔を合わせれば食事はきちんと食べているのか、不規則な生活はしていないかと聞かれた。食事に関しては弟子を持った時に役に経ったが、当時は多少口煩くも感じたものだ」
 そんなに口煩かったか?
 確かに・・・気になる事は色々と聞いていた気はするが・・・
「そうか?鍛錬の時は厳しかったから俺は父親の様に思っていたぞ」
「オレは兄さんが自分の代わりに新しい兄さんを連れてきてくれたんだって本気で思ってたな」
「女セイントとしか組手をしない事から私は女性なのではと疑った事があった」
 シャカ・・・サラッと問題発言かましてくれたな。
 オレの何処をどう見れば女に見えると言うんだ?
「へぇ・・・その話、詳しく聞かせて貰おうじゃねぇか」
 書類に影が差したかと思えば、嫌な笑顔をしたデスマスクが目の前に立ち、オレの頭から兜を取り去った。
 地で話せ、と言う事か。
「・・・リアがセイヤの相手をすれば当然マリンは手持無沙汰になる。そこでオレが目を付けられたに過ぎない」
「けどよ、オレ達とは組手の相手なんてしてくれた事ねぇよな?」
「別段、組手の相手をして欲しいと言われなかったからな」
「言えば相手してくれたってのかよ」
「当たり前だ。オレがお前達の不利益になる事以外で断った事があるか?それにオレとて体を動かしたくなる時はある。尤も、マリンとの組手はマリンが一撃でもオレに当てたら勝ちと言う攻防の決まったモノだったがな」
 まだ一度も勝たせた事はないが、負けたマリンにはセイヤの為に料理を覚えさせたんだったか。
「あら、皆さん。楽しそうですけど何の話をされているのですか?」
「性悪女神、何の用だ」
 シュラの件でコイツに嫌気がさしていたとは言え、地が出過ぎたか。
 ・・・サガの説教を喰らう覚悟をしておこう。
「私、今日はシンではなく教皇に用があるのですが?」
 オレは昔のサガの様に二重人格な訳では無いんだがな。
 仕方なしにデスマスクの手から教皇の兜を取り上げ、被った後に1度深く息を吸い吐き出す。
「何の御用ですかな?アテナ」
 オレの態度に満足そうに笑顔になりやがった。
 二重人格の方がまだ楽だったかも知れないな。
「教えて頂きたいのですが、貴方のあの技は魂さえあれば肉体は滅びかけてても修復し蘇らす事は可能なのですか?」
「技・・・あぁ・・・生物が対象の場合ですが、元となるモノが少しでもあればそこから情報を読み取り復元可能ですな」
 アレを技と呼んでいいのかどうかは解らないが、オレが見せた力はサガを蘇らせたアレしかないだろう。
 それより用件がこれなら教皇では無くオレで十分だったと思うのだがな。
「でしたら・・・星矢」
 性悪女神が呼びかけるとクロスの箱を背負ったセイヤとブロンズセイント達が教皇の間へと入ってきた。
 その背負われた箱を見るなり、サガが驚きを露わに立ち上がる。
「射手座の・・・黄金聖衣!」
「そうです。アイオロスが私と共にお爺様へ預けたのですが・・・暗黒聖闘士との戦いの折に聖衣が勝手に動き、星矢を護ったと言うのです。ですので・・・もしかしたら、と」
 アイオロスの魂がクロスを動かしたかどうかを確認し、あるのなら蘇らせたいと言う事か。
「拝見しましょう」
 セイヤの背から下された箱に手を掛け、中のクロスを確認する。
「・・・・・・」
「如何ですか?」
「遺体さえあれば可能です」
 アイオロスの魂は蘇れるなら直ぐにやってくれとサガとは対照的な反応をしている。
「遺体は既に葬られていた無縁墓地から引き取ってあります。どれ程かかりますか」
「そうですな・・・遺体の状態にもよりますが、長くて1週間もあれば可能かと」
「1週間・・・ですか?」
 何だその顔は。
 早める事は可能だが、余計な力は余り使いたくない。
 その上、13年前に死んだのならば多少肉体の成長も必要だろうから1週間と見積もったんだがな。
「サガは12年以上掛かったのですよね?」
「サガは蘇る様にと説得する時間も、人格を統合する時間も必要でしたので。それだけで5年は掛かりましたな。その後は本人の希望によるものです。アテナがお戻りになられたら、魂を戻して欲しいと」
 再び生を得られるなら真っ先にアテナに詫びたい、等と言っておきながら第一声がオレへの説教だったのにはオレも驚いた。
「教皇、アテナとして命じます。早急にアイオロスの肉体を復元なさい」
「畏まりました。・・・アテナ・・・私からも1つ、アテナにお願いがあるのですが宜しいですかな?」
 オレがサガに視線をやれば、サガも無言で頷く。
 ゴールドセイントも揃っている事だし、サンクチュアリの闇は早々に取っ払ってしまう事にしよう。




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