A reencounter 10
「どうかしたか?」
未来から来た少年がその声に振り返ると、ベジータ王と目が合ってしまった。
「あ、いえ・・・オレには母さん以外いないんで・・・父さんやお祖父さんがいるのってどんな感じなのかと」
少年の言葉に、そう言えば、とベジータ王は少年を見た時から疑問に思っていた事を口にした。
「お前の時代には純粋なサイヤ人はカカロットとベジータしか居なかったと言ったな。その上、超サイヤ人になれると言うのにサイヤ人には存在しない容姿。お前はバーダックの孫の様にサイヤ人と他星人とのハーフ、またはその様な者達の子供なのか?」
返答に詰まり、少年は覚悟を決めた眼差しをベジータ王へと向けた。
「あの、今からいう事は他の人には決して言わないで下さい」
「解った。約束しよう」
ベジータ王が言うと、少年は付近に人が近寄ってきていない事を確認し、1つ深呼吸をした。
「オレの母の名はブルマ。父はベジータと言います」
「・・・なんと・・・」
ベジータ王の眼が驚愕と喜びで見開かれた。
自分の血が、地球と言う辺境の惑星で受け継がれていた事実。
「まだこの時代にオレは存在していません。なので」
「余計な事をするつもりは無い。ベジータの子と言うのなら、私にとっては孫になるのだからな」
だが、とベジータ王は不意に不安になった。
自分の孫に当たるこの少年が存在したのは「自分達の居ない」世界での話。
自分達がブルマの元で世話になる事で、彼の存在が消えてしまうのではないかと。
ならば選ぶ道は1つしか無かった。
地球の文化を解するに必要な期間のみブルマの世話になるが、その後はサイヤ人だけで暮らす術を見つけ、彼の世界に近い状態を作り出す。
ベジータにどの様な心境の変化が起こり、地球人であるブルマとの間に子を儲ける事になったのかは解らないが、自分達がその過程の邪魔になる可能性が僅かでもあるならば、離れねばならない。
「孫の存在を消すような事をする事は無いと、約束しよう」
強く拳を握り締める少年の頭を軽く撫でながら、息子であるベジータにはこの様な事をした事がなかったな、と昔を振り返る。
そして惑星ベジータに居た頃の自分ならば決して行うことの無い動作である。
サイヤ人としての考え方に変化が起こっている自分を自覚し、呆れた顔で部屋から出て行ったベジータの姿を思い出す。
「オレ・・・そろそろ帰ります。母さんも待ってますし。でも、3年後にもう一度来ます。戦う為に。その時は・・・お祖父さんと呼んでも良いですか?」
ベジータ王は静かに頷いた。
少年の照れくさそうな、年相応の笑みが痛々しく見える。
幼い頃から戦いを宿命付けられていた少年。
母に甘えることも出来ず、父に頼ることも出来ず。
それは星送りにされたサイヤ人の子供達、その生き方そのものであった。
全てのサイヤ人の宿業を、何も知らずに地球に生まれた、ただサイヤ人の血を継いだだけの者が背負わされていた。
「我々は・・・今まで何をしていたと言うのだ・・・」
今となっては全てが無意味な行いに思えてならない。
フリーザの配下となってから、いやその前から行われていた殺戮。
滅ぼした星の正確な数を知るものなど1人も居ない。
自分達の力を知らしめる。
それだけだったサイヤ人が、惑星ベジータの消滅後、明らかに変わっていた。
惑星ベジータを救おうとしたとは言え、それまでのサイヤ人ならばバーダックを助けようなどと思うものは居なかっただろう。
自分の命と引き換えにするなど以ての外。
惑星ベジータの消滅により変わった、と言うのならそれはサイヤ人に滅ぼされたツフル人の、そして惑星ベジータへと変えられた惑星プラントがサイヤ人に向けた呪詛だったのだろうか。
全ての業が子々孫々まで受け継がれる様に、と。
窓の外を見上げると、不思議な形の乗り物に乗った少年の姿が見えた。
数分、上空で停滞すると一瞬にして跡形も無く見えなくなってしまう。
「帰った・・・か」
「その様ですな」
いつの間にか、他のサイヤ人達もベジータ王の周りへと集まっていた。
「3年後の戦いに加勢に来ると言っていた。自分の世界も大変だと言うのにな」
「なら、こっちが片付いたらオレ達が向こうに加勢に言ってやりゃ良いだろ?こっちもあっちも敵に大差はねぇだろうからな」
必ず事を成す。
その決意がサイヤ人達の顔には現れていた。
シヤーチの語った【無】とはまだ見ぬ人造人間の事なのか。
バーダックは違う、と確信を持っていた。
主軸となっているのは人造人間に滅ぼされる地球人達の歴史。
その歴史から来た少年が求めるのはカカロット達の生きる新たな歴史。
シヤーチが求めるのは自分とターレスが生きる歴史。
そして自分が求める歴史は
何処で歪みが起こるのかはわからない。
それでも『無に飲み込まれない』世界を、今この場から選び続けねばならない。
そして、僅かながら訪れる異変に、バーダック達は1つ1つ選択を迫られる事になる。