A reencounter 09
「ま、どっちにせよ今のままのテメェじゃダメだって事だが、どうするかは自分で決めろ」
バーダックは無理強いをする気は無かった。
どれ程高度な訓練でも、嫌々行ったのでは意味は成さない。
「ブロリー。カカロットの居所が解って無事を確認出来たんだ。今はそれで満足しろ。それによ、カカロットの息子がずっとお前の心配してるぞ」
無理矢理ブロリーを立たせると、悟飯の方へと顔を向けさせる。
身長の差から見上げる形になる悟飯は、気落ちしたブロリーの顔をしっかりと見てしまった。
「あ、あの・・・お・・・おじいちゃんと一緒に僕のところへ来ませんか?」
「?」
ブロリーが首を傾げる。
小さな声だったこともあり、一瞬誰のことか解らなかったが・・・
「そうだよなぁ・・・いくら見た目若くてもおじいちゃんだよなぁ・・・バーダックは」
しみじみと述べるトーマに、バーダックの鉄拳が振り下ろされた。
間一髪で避けたが、拳圧で宇宙船の床は窪んでしまっている。
「あ、あっぶねぇ・・・」
「チッ、避けんじゃねぇよ・・・。気持ちはありがてぇが、ソンゴクウが嫌がるだろうからな。暫くはブルマの家で世話になるさ」
悟飯は幾度目かの胸の痛みを感じた。
悲しげなブロリーの姿に。
自分の息子の本当の名を呼ばないバーダックの姿に。
サイヤ人は皆、一緒だと思っていた。
父だけが例外なのだと。
しかし、ここにいるサイヤ人は誰一人として自分達に危害を加えていない。
「・・・大丈夫です!おじいちゃんとブロリーさんは一緒に来てください!」
気まずい雰囲気のカカロットとブロリーを一緒にしたくは無かったバーダックだが、力強い悟飯の誘いを断る事は出来なかった。
この年齢で自分達に気を使っての事だと、理解してしまったが為に。
「親父もブロリーもそっちに行くのか。じゃあオレもそっちにすっかな」
そんなやり取りに、横からターレスが口を挟む。
が、悟飯は先程の力強さは何処へやら。
ターレスの言葉に困り果ててしまっていた。
バーダックとブロリーに関しては、母を説得して納得してもらう自信があった。
バーダックを父と呼んでいる以上ターレスも親族には違いが無いのだろうが、母を説得出来る自信が僅かしかない。
「バーカ、冗談に決まってんだろ。親父とブロリーの事、頼んだぜ」
頭をクシャリと撫でられ、その顔を見上げる。
すると意地の悪い、それでいて何処か安心させられる笑みが其処にはあった。
「はい!」
気持ちの良い悟飯の返事にターレスが頷く。
そんな悟飯の行動を止めようとした悟空はピッコロによりその場に止められていた。
「何を気にしている。ベジータが此処に居てもさほど驚きもしなかったキサマが」
「解んねぇ・・・何となく・・・嫌なんだ・・・」
カカロット、とベジータには呼ばれ続けている。
何度も何度も呼ばれている内に仕方が無いと思えるようになった筈だった。
だと言うのに、何故かブロリーにカカロットと呼ばれた瞬間、拒絶の言葉しか口から出てこなかった。
自分はカカロットではない、と。
そう告げた時のブロリーの表情が頭から離れない。
何故、サイヤ人が名前程度の事であれ程悲しい顔をするのか。
自分の父だと言う男は茶番だ、と言いつつも気にする様子も無く【ソンゴクウ】と口にしたと言うのに。
「フン、キサマは自分の事には無頓着だからな。いい機会かも知れん。余り悟飯に負担をかけるなよ」
これ以上此処に居ても自分の役目は無い、とピッコロは踵を返して部屋から出て行ってしまった。
そして、ベジータもまた、無言のまま出て行ってしまう。
ベジータはこの光景をこれ以上見たくはなかった。
何故、自分と同じ戦闘民族サイヤ人である彼等がこれ程までに地球人に友好的なのか。
ベジータがこの場に居る理由。
それは此処に来た地球人
特にブルマに流された部分が大きかったが、悟空と決着をつける為にも仮住まいが必要だと判断したからだった。
決して、地球人と馴れ合いをしたいと思ったわけではない。
しかし、目の前にいる彼等はどうだ。
これだけの戦力があれば、力ずくで何とでも出来ると言うのに。
侵略もせず、強要もしない父の姿をベジータは産まれて初めて目にした。
聞きたいことは山とあったが・・・今はそんな父の姿をこれ以上見たくはなかった。
「あのなぁ・・・オレはまだじいさんって年じゃねぇんだよ」
「でも、お父さんのお父さんだからおじいちゃんですよね?そう言えば、おいくつなんですか?」
理屈で言えば確かに祖父に当たるが、見た目は父と同じ位にしか見えない。
だが、父の年齢を考えればそれ相応の年だろう、と悟飯は思っていた。
「確か・・・コールドスリープに入る前が31で起きて2年だから今は33って事になるか」
悟空と6歳しか離れていない現実に、悟飯は言葉を詰まらせた。
おじいちゃん、ではあるが、おじいちゃんと呼べる年齢ではない。
「スリープ装置の故障であれから何年経ってるか解らねぇからな」
「それにこう見えても本当はおじいちゃんなんて呼ばれて嬉しいんだぜ」
バキッ、と良い音がしたと思えばトーマの身体が宙を飛んでいた。
「・・・えっと・・・」
「あ〜、気にすんな。好きな様に呼べ」
そんなバーダック達の遣り取りを、未来から来た少年は何処か羨ましげに見つめていた。