A reencounter 05
フリーザの宇宙船から少し離れた場所に、その船はあった。
「いやぁ、最初に見た時も思ったけどよ。サイヤ人の親子ってのはそっくりなもんだよなぁ」
ヤムチャがターレスとメディカルマシン内のバーダックを交互にみやる。
バーダックとターレス、それに悟空は髪型や顔形はもちろんの事、体格まで殆ど同じに見えた。
「親父とは本当の親子じゃねぇよ」
ぶっきら棒な言い方ではあるがこちらからの問いかけに答えてくれる様子に、ヤムチャとクリリンは胸を撫で下ろした。
これならば、ブルマが突飛も無い事を言わない限り、突然攻撃されたりする事は無いだろう。
「オレの本当の親父はそっちだ」
ターレスの指差した先を見ると、人一人が入れるサイズの装置らしきものが置いてあった。
中に人影らしきものが見えたので何の心構えも無く覗き込んでしまったブルマは、思わず上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んだ。
中の人物は確かに彼等と同じ姿をしていたが、人が生きるのに必要な部分が無い。
「サイヤ人の、特に下級戦士は使い捨ての駒みてぇなもんだからな。身体的特徴は幾つかのパターンに限られてる。ちなみに親父達も兄弟じゃねぇからな」
その様子に気付かないターレスは淡々と語り続けながら、何かのデータを呼び出していた。
「ね、ねぇ。これスリープ装置よね?この人、こんな大怪我してるから眠らせてるの?」
「・・・・・・いや、もう死んでる。それは親父用のパーツとして保存してるだけだ」
「パーツ?」
クリリンの問い掛けに当たり前の事を聞くな、と思った所で相手が地球人で会った事を思い出したターレスは面倒だと思いつつも説明を続けた。
「オレ達サイヤ人は戦闘で手足や身体の一部を失うのは日常茶飯事だった。メディカルマシンでも腕や足が欠損しちまったら治す事は出来ない。それらを補う為に自分の複製品
生体パーツを常時ストックしてんだよ」
「複製って・・・クローンの事?」
ターレスが無言で頷く。
「でも、それじゃそのクローンが死んじゃうじゃない!」
「は?死ぬって・・・元から手や足だけの肉の塊、ただのパーツだぜ?パーツ。人の形もしてないモノが死ぬ訳ねぇだろ」
「けど、この人はお前の親父さんなんだろ?って事は生きてたって事じゃないのか?なのに・・・」
『 』
やりきれない気持ちで呟くクリリンの言葉に誰かが答えた気がした。
辺りを見回すが、ここにいる者達以外の気配はない。
『俺が望んだ事だ』
今度ははっきりと聞こえた。
1人だけに聞こえる幻聴の類ではない。
何処から聞こえているのかと辺りを見回していると、治療完了を告げる電子音が室内に鳴り響き、メディカルマシン内の回復液が徐々に減っていった。
酸素供給用のマスクが外されると、先程と同じ声がした。
「俺自身がバーダックのパーツになる事を望んだんだ」
微笑みかけるその表情。
クリリンが悟空が地球に到着する前に見たその顔とは全く違う。
姿形に変わりは無いのに、醸し出している雰囲気まで違っていた。
周囲の者を威圧するような戦闘力も感じられない。
そしてその微笑みはターレスにとって忘れられる筈の無い顔でもあった。
「大きくなったな、ターレス」
ターレスももう一度会いたいと、叶わない願いだと解っていても願った事があった。
会って告げなくてはならない言葉があった。
しかし。
「親父!それは親父の、バーダックの身体だ!」
この状況を許す事は出来なかった。
心の底から喜ぶ事も出来なかった。
今、ターレスの父・シヤーチが動かしているのは紛れもなくバーダックの身体なのだ。
「心配するな。俺がこの身体に居られるのはほんの僅かな時間だけだ」
移植されたばかりの心臓。
完全にバーダックのモノになる数分間だけが、シヤーチに与えられた時間だった。
「ターレス。バーダックに伝えてくれ。カカロットの運命を元の道へと戻し、正しい未来を選び取れ、と」
「・・・何の事だよ・・・」
「未来から来た少年の話を聞け。何が同じで何が違うのか。それと・・・すまないが俺の代わりにバーダックに謝っておいてくれないか?ラディッツの死は必然だった。変えてはならない運命の1つだったと」
「親父も何か知ってるってのか?オレには何も教えてくれねぇのか!」
ターレスの問いに答える代わりに、シヤーチは満面の笑みを向けた。
「バーダックに任せて正解だったな。お前がそんなに感情を露にするとは思わなかった」
そして、その視線をブルマ達へと移す。
「俺は自分からバーダックのパーツになる事を望んだ。その選択は間違いではなかったと、今は自信を持って言える。この世界に必要なのは俺ではなくバーダックなんだ。バーダックを生かす事で彼から奪ってしまった力。その力が俺に指し示した道。一度はバーダックの夢を借りて伝えられたが、二度同じ事は出来なかった。だからこの機を借りてお前達に伝えておく。未来は全てお前達次第だ。決まってしまった道は無い。但し、お前達がカカロットを生かしたいのと同じ気持ちで、俺はバーダックとターレスを生かす未来を選びたい。その為に必要なのがカカロットの運命を元に戻す事だ。未来から来た少年の話す歴史はこの世界の主軸。少年のいた歴史とこの世界とのずれが大きくなるほど、歪みは酷くなる。歪んだままあり続ければ・・・やがては無に飲み込まれる」
未来や歴史。
そんな途方も無い話を普通ならば信じる事が出来なかっただろうが、シヤーチが脅しではなく本気で言っているのだと、本能の部分が感じ取った。
話を聞いているだけだというのに、嫌な汗が流れる。
「これから起こる全てを伝えたいが・・・それは出来ない決まりになっていてね。これが今話せる限界なんだ」
厳しい顔つきから一転し、優しい笑顔が向けられると自然と体の緊張がほぐれた。
「ターレス。無茶なことはするなよ?これでもバーダックの奴、お前の事を随分と心配してるみたいだからな。あぁ、それとラディッツだがあの世で皆と元気にやっている。どうせいつかお前もバーダックも寿命を迎えたら来る事になるんだ。心配なんて必要ないぞ」
一方的に話し続けたシヤーチはこの時間を惜しむ事無く、ターレスに反論の機会を与えないままその体をバーダックへと返した。