〜言の葉の部屋〜

A reencounter 06




 バーダック自身の意識はまだ戻っていないようで、顔面から床へと突っ込むところであったその身体をヤムチャが受け止める。
「何だよ・・・・・・・・・一体何だってんだ!」 
 実の父か残した言葉だというのに、その真意が読み取れない。
 自分達が地球に来た事で、カカロットの運命は死から生へと変わったのではないのか?
 それを元に戻すという事は、カカロットが死ぬという事では無いのか?
 自分もバーダックも望むのはカカロットが生きる未来。
「あのクソ親父が!」
 言いたい事だけを言って、さっさといなくなってしまった。
 辺りのモノへとやり場の無い感情をぶつけることしか出来ない。
「お前の親父さん、態々あの世から来てくれたんだな。良い親父さんじゃないか」
 ヤムチャの言葉にターレスが睨みつける。
 お前に親父の何が解るのか、とその目は訴えていた。
「お前は知らないだろうけどさ、サイヤ人の殆どは死後地獄に行くんだと。地獄って場所は簡単に抜け出す事が出来ないんだ。だからお前の親父さん、かなり無茶して来たんだと思うぜ」
「そうっすよねぇ。天国に行ったヤツなら一日だけ地上に来れるらしいっすけど、地獄に行ったヤツは魂がまさらになって新しい命として生まれ変わる道しかないって話ですから」
 うんうん、と知った顔でヤムチャとクリリンは頷きあう。
「テメェらいい加減な」
「いい加減じゃねぇよ。なんせ俺もちょっと前まではあの世にいたからさ。あの世の事に関してはお前より知ってるぜ。ま、なんにせよ本当に良い親父さんだよな。俺なんて『大きくなったな』なんて声を掛けてもらうどころか、親父の顔すら知らねぇからなぁ」
「そう・・・か」
 ハハハ、とヤムチャは笑っているが、ターレスには親の顔を知っている自分が幸せなのか、逆に不幸なのかが解らなくなっていた。
 知っているから、今、この場にいられる。
 だが知らずにいればこれ程、親の存在で悩む事もなかったのではないかと。
「まぁ、何にせよ。貴方のお父さんの言葉の意味をちゃんと考えないといけないわね。これ以上、誰も死なせない為にも・・・」
 ブルマの脳裏には、らしくない悟空の姿が思い出されていた。
『ブルマ・・・オラ、じいちゃんも兄ちゃんも殺しちまった。なのにさ、何で地獄に落ちなかったんだろうな』
 ベジータとの戦いを終えた後。
 入院先の病院で悟空がこぼしたその言葉がとても気になった。
 貴方が地獄に落ちるわけが無い。おじいさんは不可抗力だったし、貴方は地球を守ったのだから、とブルマが伝えても、『そっか』と僅かな笑みを浮かべるだけ。
 思えば彼の戦いは全て地球と其処に住む者達の存続に関わる大きなものばかりだった。
 多くの人々の、多くの生物の命を守った彼を裁けるものなど、この世にもあの世にも居ないだろうと。
「孫くん・・・きっと貴方達に死なれたら、悲しむわよ」
 ターレスの父シヤーチの言葉。
 彼がターレスと悟空の父バーダックを活かす道を選ぶなら、自分はさらに悟空もクリリンもヤムチャも悟飯も、多くの人が生きる道を選びたい。
「そうっすよねぇ。アイツ、大雑把に見えてもかなり繊細な部分があるし、表面上は平気な顔してても落ち込んでる事あるし。それに・・・血の繋がった家族ってのを気にしてましたからね・・・」
 家族の様な仲間は大勢出来た。
 チチを嫁に貰い、悟飯が生まれ、血の繋がった家族も出来た。
 その頃からだろうか。
 自分は誰から産まれたのか。
 何故、祖父に拾われた場所   パオズ山に居たのか、と気にしだし、ラディッツの一件でその思いは増している様にクリリンには見えた。
「そ。だから貴方達は絶対に死んじゃ駄目。確かにドラゴンボールで死んだ人を生き返らせる事は出来るけど、1年に1度しか使えないし、死んでから1年以上経つと生き返らせる事も出来なくなっちゃうのよ。万能そうで万能でないのがドラゴンボールなのよねぇ・・・」
 ターレスは心底呆れた顔をしてしまった。
 あれ程、自分に対して怯えた気配を持っていた者達がたったこれだけの時間で怯えを感じさせなくなっている事に。
 馬鹿なのか、肝が据わっているのか。
「ホント、訳の解らねぇ連中だな」
 だが、あのベジータが大人しく一緒に暮らしている理由が解った。
 力を恐れない者ほど、厄介な相手は居ない。
 更に厄介なのはサイヤ人への耐性がベジータが共に居る事で付いてしまっている。
「まっ、カカロットが実際に何て言うか解らねぇが、極力死なねぇ様にしてやるよ。あの馬鹿親父が望んだ事でもあるしな。最も・・・オレが死ぬなんざ親父かブロリーのどちらかを相手にした時だろうけどな」
 それか、バーダックやカカロットを生かす為か。
 ターレスは自分の中で優先順位を持って行動していた。
 自分の事は二の次三の次。
 死んだ者達との約束。
 それがターレスにとっては一番大切なもの。
 ならばカカロットを守り、バーダックが死なぬようにし、彼等を支えられる者達を残し。
 自分の事は最後で良かった。
 だが。
 そんな考え方を持っていたが、シヤーチと、そして地球人達と話していて自分も生きていた方が良いのだろうか、と思うようになった。
 今までは自分が死んでしまった場合を考えた事が無かったのだ。
 後に残された者達がどう思うかなどと。
「そう、それなら良いわ。ねぇ、貴方のお父さんの体だけど、この船から運び出しましょうよ」
「んな事、出来るかよ。あんなデッカイ装置、持ち歩くだけで邪魔だぜ?」
 ブルマが得意げな表情をターレスに向ける。
 宇宙船やメディカルマシン等、地球の技術では到底考えられない装置が多い中、地球にしかない技術が1つある。
「あたしに任せてくれれば、簡単に持ち運べるわよ」
 胡散臭げな視線をターレスが返すが、ブルマの自信に満ちた目は変わらない。
「言っとくが、体だけでも親父にとっちゃ必要なモノなんだ。扱いには注意しろよ」
「任せてよ」
 ブルマがシヤーチの保存されている装置に近付き、作業を始める。
 バーダックが目覚めたのは、その作業が終わって暫く経ってからの事だった。



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