〜言の葉の部屋〜

A reencounter 04




 沈黙に耐えられなくなった悟飯はメディカルマシンに近付いた。
 普段なら気にならない足音が、妙に大きく聞こえる。
 メディカルマシンでの治療は一度、目にしているが手術まで行えるとは思ってもいなかった。
 何本もの細いアームが胸を裂き、血管を切り離し、繋いでゆく。
 生々しいそれから悟飯が目を逸らす事は無かった。
「気になるの?」
 不意にブロリーに声を掛けられ、悟飯の身体は反射的に一歩後退してしまう。
 気を消す術を知らないサイヤ人達。
 特に強い気を発しているブロリーの気配は狭い室内では圧迫感が強く、どこに居るのか捕らえ辛い。
「新型のメディカルマシンだから治療も早く済むよ。あと一時間くらいでカカロットの意識も戻ると思う」
「ありがとうございます」
 精一杯の笑顔を返すと、ブロリーも微笑みを返した。
 その様を見てふと、不思議に思ってしまう。
 このサイヤ人達は何故、対話をしてくれるのだろうか。
 地球人をなんとも思わずに殺していたラディッツやナッパとは違う。
 今でこそ言葉を返してくれるベジータも、地球に来た当初はナッパ達と同じだった。
 身体が竦むほどの強大な気を纏ったブロリーからは、狂気とも取れるサイヤ人独特の気配がしない。
 どちらかと言えば穏やかな、父である悟空を思い出させる気配を醸し出している。
「カカロットって、キミから見てどんな感じ?」
「え、ど、どんな感じって」
 何と答えれば良いのか。
 ブロリーの質問の意図が読めない悟飯には答えることが出来なかった。
 迷っている悟飯にブロリーは懐かしそうな顔で話を聞かせる。
「僕は赤ん坊の頃に会っただけなんだ。同じ日に産まれて、隣に寝かされて。だから、カカロットが不安で泣いていた姿しか知らない。だから今のカカロットがキミ達と一緒に居てどんな事を思っているのか教えて欲しいんだ」
 悟飯は初めてブロリーに声を掛けられた時の心の底から嬉しそうなブロリーの表情を思い出した。
 そして不思議に思う。
 赤ん坊の頃、それも僅かな期間しか一緒に居なかったと言うのに何故あそこまで嬉しそうな顔が出来るのだろうかと。
「・・・お父さんはいつも僕達の先に行っちゃうんです。時々僕達を待っててくれるけど・・・背中しか見えない感じで。きっと僕がブロリーさんくらい強ければ同じモノが見れるのかも知れませんけど・・・」
 今の自分には、いや、これから先も。
 自分達が父と同じモノを見ることは出来ないと、漠然とだが悟飯は感じていた。
 自分がどれ程強くなろうとも、それ以上に強くなり振り返ることも無く一歩も二歩も先へと進んでしまう。
「僕なら・・・カカロットと同じモノを見れる・・・」
「はい、僕はそう思います。だってブロリーさんはお父さんに似てるから」
 今、父の強さの横に並べるのは自分の知る限りではブロリーか自分の祖父であると言うバーダックであり、横に並ぶどころか中々近付くことすら出来ない自分達が追いつくことは無いだろう。
 そう思うと悟飯にはブロリーの強さが羨ましく思えた。
 追いつけないと思っていた存在に、並ぶものなど居ないと思っていた存在に近い者がいる。
 何故それが自分ではなかったのか、と。
「カカロットは・・・僕を見てくれるかな・・・」
 自分の思考に飲まれそうになった悟飯がハッとブロリーの顔を見ると、その何とも言えない不安げな表情に直前までの感情が霧散した。
「どうしてですか?」
 悟飯が問いかけると、ブロリーは力のない笑顔を見せる。
「キミ達も僕が怖いでしょ?話す時も言葉を選んでるし、近付くと怯えた顔をする。だからカカロットも・・・目を覚ました時に僕を怖いと思うかも知れない・・・」
 サイヤ人だけで、宇宙船の中で過ごしていた時は気にならなかったが、地球人達の反応を見て眠りに付く前の事を思い出した。
 自分の戦闘力の高さに青褪めた大人の戦士達。
 そして恐れられるだけの力があったが為に、カカロットの元から離された時の事を。
「あ、ち、違うんです!」
 違わない。
 正直に言えばブロリーが、サイヤ人が怖くて堪らない。
 それでもブロリーの悟空を見つめる悲しげな表情を見てしまうと、無意識とはいえブロリーに対して取った態度に罪悪感を感じてしまう。
「僕達はスカウターが無くても相手がどれだけの力を持っているか感知出来るんです。だからブロリーさんの気が・・・戦闘力が大きすぎて、こう、力に押しつぶされる感覚になっちゃうんです。それに・・・今まで僕達の話をちゃんと聞いてくれるサイヤ人は居なかったから・・・」
「カカロットもサイヤ人だよ?」
「・・・お父さんはラディッツが来るまで、自分がサイヤ人だって知らなかったんです。自分は地球人だって、ラディッツが来た時もずっと言い続けてたって」
 そして、ラディッツと戦い、共に命を落とす結果となった。
「お父さん・・・本当はラディッツを死なせちゃった事を後悔してたんです。何でもっと話し合えなかったんだろう、死なせない方法は無かったのか、って。だから・・・ブロリーさん達なら大丈夫ですよ!こうして僕の話を聞いてくれたり、お父さんの事を心配してくれるんですから」
 周囲の人の話を聞く限り。
 父と戦って命を落としたモノの方が少ないのだと、悟飯は知った。
 そしてこのサイヤ人達の来訪により、たとえどんな相手にでも命を落とすことで悲しむ者が居ると知った。
 悪いヤツを倒したのにどうしてそんな事を言うのか。
 以前は解らなかった事だが今なら、あの時の父の気持ちが解った気がする。
「そうだと・・・嬉しいな。えっと・・・」
 今更ながら、名前も聞いていなかった事にブロリーは気付いた。
 それを察した悟飯が自分から名を告げる。
「悟飯です。孫悟飯」
「ソンゴハン?サイヤ人とは違う感じの名前だね」
「お父さんのおじんちゃんの名前を貰ったんです」
「カカロットのおじいちゃん?」
「サイヤ人の、じゃなくて地球でお父さんを拾った人で」
 悟飯の語る自分の知らないカカロットの話に、ブロリーは嬉しそうに耳を傾け、自分の知らないカカロットの姿を思い浮かべていた。
 昔も今も。
 直接、触れられない場所にいる事に変わりは無い。が、今はカカロットの治療が澄みさえすれば、その声を聞く事も出来る。
 泣き声ではない声を。
 唯それだけの事が、嬉しかった。
「・・・あの・・・どうして其処までお父さんの事を心配してくれるんですか?昔、それも赤ちゃんの時に会っただけなのに」
 悟飯自身、赤ん坊の頃の記憶など無い。いや、普通の人間ならばその頃の記憶を持っている筈がない。
 なのに目の前にいるブロリーはその時の記憶だけで自分の父を助ける為に行動を起こした。
 それが悟飯には不思議でならなかった。
「僕は・・・産まれてからの、ううん、生まれる前、僕に意識が出来た頃からの事を覚えているんだ。母さんの心臓の音。母さんの声。それに・・・カカロットのお母さんの声も」
 何故その様な記憶が自分にあるのか、ブロリーも疑問に思った。
 宇宙船でまだ自分しか目覚めていない時。
 ブロリーは船に記録されていた様々な文献を読み解き、その結果、自分が異能な存在である事に気付いた。
 通常ではありあえない戦闘力。
 記録には一切出てこないタイプの姿。
 産まれる以前からの記憶。
 こんな自分は本当は周囲の者から疎まれているのではないかとも考えた。
 フリーザの目を眩ます為に《追放》と言う形を取るしかない、と王は父に話していたが、真実味を増す為にと父は自ら片目を捨てた   追放される人間が無傷で居るのはおかしいからと。
 案の定、墓場と呼ばれる星へ落とされてからはフリーザ軍の目は無くなった。
 その星で長く生きられる者が居ないと、フリーザも知っていたから。
 父を追放する口実とされた自分の戦闘力。
 あの時は王の使いが生きる為に必要な物を運んでくれていた事から、王の言葉が真実ではないとわかった。
 それでも・・・文献を読めば読むほど、異質な自分を王は本当に追放したかったのではないか、と思えてならなかった。
 だからこそ、出来る限りの知識を身につけ、状況を把握することに努めた。
 そしてその時、サイヤ人の出産に関する資料を読み、母やカカロットの母の強さを知った。
「サイヤ人の女性は子供を産んでも自分で育てる人は殆ど居ないんだ。赤ん坊は生まれて数日で占領予定の惑星に単身で送られる。カカロットが地球に送られたみたいにね。星送りになった赤ん坊は役目を果たすと回収されて、その後やっと親に会うことが出来るんだ。親が望めば一緒に暮らすことも出来るけど・・・子供が居ると中々戦いにいけないからって施設に預ける人が9割。でもカカロットやターレスのお父さんは自分の子供と一緒に暮らしてて、僕の母さんも僕や父さんと一緒に暮らすつもりだって僕が生まれる前から言ってたんだ。僕は母さんの中でそれを聞いて嬉しかった」
 サイヤ人の女性の大半は子供を産む事をリスクとしか考えていない者が多く、その為に最低でも子供を1人は産むようにと義務化されていった、と記録には記されていた。
「僕は母さんと同じ考えを持っていたカカロットのお母さんの声も好きだった。カカロットもお母さんの事が好きだったと思うよ。保育器の中でずっと、お母さんが居ないって泣いてたから。その時はカカロットの悲しい気持ちが伝わってきて、僕も一緒に泣いちゃったんだけどね。けど・・・僕はそんなカカロットしか知らないんだ。お母さんが居ないだけで泣いてたのに・・・お母さんが死んじゃったって知ったらもっと泣いちゃうんじゃないかってずっと心配だったんだ。だから、僕も地球に来れるって解った時はすごく嬉しかった。それに、母さん達がした約束を母さん達の変わりに僕が果たしてあげたいって思ってたから」
「約束・・・」
 悟飯がポツリと呟く。
 初めてこのサイヤ人達と出会った時、ターレスも口にしていた。
『お袋さんとの約束を何で破ったんだ!』
 自分達の描いていたサイヤ人からは到底想像することも出来ない言葉。
 だがその言葉を口にする彼等ならば、父も素直に受け入れるのではないか、と悟飯には思えた。

 メディカルマシンの中では胸を押し広げていたアームが徐々に少なくなり、傷口が閉じられ始めていた。




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