A reencounter 08
「あぁ、そうだ。おい、小僧!ちょっといいか?」
バーダックに呼ばれ、少年が警戒しながらも傍へと近付いていった。
警戒、といっても初対面の時よりは緊張が解れた感じではあるが。
「ターレス達に聞いたんだが、未来から来たらしいな。詳しく話を聞かせろ」
簡単な経緯はブルマ達から聞き、ターレスからもシヤーチの言葉として聞かされているが己の耳で確認しなければ気がすまなかった。
僅かな情報のずれで状況が変わってしまう事もある。
一番正確な情報は、情報を持っている本人の話のみ。
聞く機会があるのならば、聞いておくに越したことは無い。
「解りました」
少年の話を聞くバーダックの姿は真剣そのものだった。
僅かな情報でも聞き漏らすまいと、細微でも疑問が湧けば聞ける範囲で全て聞き出す。
惑星ベジータに居た時、バーダックがチームリーダーを勤めていたのも、この分析力があってこそだった。
バーダックは戦いを有利に運ぶ為ならば、攻略惑星の情報を余す事無く調べ、分析する。
戦いの面しか見ていない者には全く想像のつかない一面を、バーダックは備えていた。
そしてターレスから聞かされたシヤーチの言葉を思い出しながら、違った道を何処まで進んでしまっているのかを懸命に探る。
「そうか。今の所はオレ達の存在とカカロットの心臓病の発病時期、寄生生物の有無、それにお前の存在程度って所だな」
「すみません。オレも師や母から伝え聞いた情報なので、これ以上詳しい事は・・・」
この世界に存在する筈の無い者達。
そんな自分達が存在する以上、これからもそういった存在が増える可能性はある。
「人造人間は2人っつったな。19号と20号」
「はい」
「その2体以外はどうなった」
少年は首を振るしかなかった。
他の人造人間がどうしたのかなどと、気に掛けている余裕のある世界ではない。
目の前の敵を倒すことに集中してもそれをなす事が出来ない。
そんな世界が、彼の世界なのだから。
「なら、お前の知っている人造人間とブロリー。どっちの戦闘力が上だ?」
ブロリーが上ならば別段焦ることは無い。
2対1ならば負ける可能性はあるが、集団戦闘となれば確実に自分達が有利だ。
「人造人間は気を発しないので比べるのは難しいです。ですが・・・超サイヤ人になったオレ以上なのは確かです」
少年はその姿を金色の戦士
伝説の超サイヤ人へと変貌させる。
バーダックがスカウターのスイッチを入れると、ブロリー同様、計測不能となったが少年からはブロリーの様な威圧感が感じられなかった。
「皆さんを見て、正直驚きました。オレは自分と師くらいしか知りません。これ程の高い気を持つ人がオレの世界にも居たら・・・」
過ぎてしまった事を悔やんでも仕方が無いとは解っている。
だから、過去へと渡ってきたのだ。
それでも【もし】と考えてしまうのは弱さゆえだろうか。
戦える者が自分しかいない世界。
戦える者がより多く存在する世界。
何故、自分の世界には彼等が居ないのだろうか。
もし、彼らが自分の世界にも居てくれたならば、と。
「これだけの気を持った人が集まっているなら必ず人造人間にも勝てると思います。それに悟空さんも宇宙から戻った時には自在に超サイヤ人になれるようになっていたと聞いてますから」
バーダックと少年、そしてその場に居る者達の視線が一斉に悟空へと向けられた。
しかし、それらから視線を逸らすように俯いてしまう。
「オラは・・・超サイヤ人にはなれねぇ・・・」
絶句する少年とは対照的に、バーダックは不適な笑みを浮かべていた。
最大の標的を見つけた時の笑みに似たそれは、バーダックの中に新たな確信が生まれた証でもあった。
「ソンゴクウ、テメェは命を縮める選択を選べるか?お前の仲間の為、いや、この惑星の為に」
「命を・・・?それはどういう事ですか?」
問い返したのは未来から来た少年だった。
折角、心臓の不安が解消されたというのに何が悟空の命を縮めるのかと。
「あぁ、今のこいつは超サイヤ人になれない事が正解なんだ。さっきのテメェを見て解った事だが・・・先天的な超サイヤ人
ブロリーと後天的な超サイヤ人であるお前には決定的な違いがある」
「決定的な違い・・・」
ゴクリ、と誰かが息を呑んだ。
悟空の視線も自分からそれていない事を確認するとバーダックは話を続けた。
「前にシヤーチが言ってた事を思い出したんだ。オレ等のタイプは下級戦士の中でも戦闘力が上がりやすいタイプだってな。ただし、それだけじゃねぇ。サイヤ人の中で最も短命なのもオレ等のタイプなんだとよ。アイツの考えじゃ戦闘力の急激な上昇に肉体が耐え切れず自己崩壊を起すって事らしい」
それは悟空自信も時折感じていた。
力が上がるにつれ、身体が悲鳴を上げる。
ナメック星に着くまでの間、修行で負ったダメージを回復させたというのに寝ているだけで身体に負担がかかる事が幾度かあったのだ。
幸いにも、その時は命に関わる程のモノではなかったが。
「オレはアイツの考えは正しいんじゃねぇかと思っている。瀕死の重傷から回復したのは1回や2回の話じゃねぇからな。その度に戦闘力が上がるってのに、上がれば上がるほどメディカルマシンの利用頻度も増えちまった。最悪の悪循環だと思うぜ。戦闘力が上がって身体が勝手にダメージを受けて傷を治してまた戦闘力が上がる。自分の戦闘力に耐えられるだけの身体を作り上げねぇ限り、いつか死ぬって事は誰にでも解るだろ」
今の肉体を作るのにも苦労したのはこの2年の話だ。
器が小さければ、水は必ず零れる。
ならばその器を無理にでも水の量に合わせる必要があった。
惑星ベジータ崩壊後、目を覚ました時には急激に上がってしまっていた戦闘力。
コールドスリープが幸いし身体に深刻なダメージを受ける事は無かったが、目覚めてからの1年間は身体を作り上げる事に集中せざるを得なかった。
「テメェ等は戦闘力を自由に調整出来るらしいしな。そんな便利な事が出来ちまったら自分の本当の戦闘力に耐えられる体なんざ造れる訳がねぇ。その状態で超サイヤ人になっちまったら風船が破裂するみてぇに身体が壊れるだけだ」
ブロリーの様に、生まれながら強靭な肉体を持っていればこそ、超サイヤ人の力にも耐えられるというもの。
だが、そのブロリーもまた完全な超サイヤ人ではなかった。
精神の未熟さによる力の暴走。
それを乗り越えなければ真の超サイヤ人とは言えない。
「小僧。お前に関しちゃ何とも言えねぇが、どんなタイプでも原理は同じだと思うぜ。最も、テメェみてぇなタイプは見た事もねぇけどな」
黒髪しか産まれないのがサイヤ人の特長ともいえる。
少年のその容姿は彼が純粋なサイヤ人ではないことを言外に教えていた。
「て事で、ソンゴクウ、てめぇは明日からブロリーと・・・って何時まで拗ねてるつもりだ、ブロリー」
バーダックの言葉に反応しつつも、バーダックが部屋に入った時に見た姿勢から寸分も変わっていない。
「こりゃ暫くダメだと思うぜ。それより親父、そんな話、オレも始めて聞いたぜ」
通常のサイヤ人ではありえない戦闘力を身につけてしまっているターレスもまたバーダックと同じタイプである。
ならば、同じく命を縮める可能性があるのだろうが、ターレスは今までに一度もその様な不安を抱いた事が無かった。
「我々も初めて聞く話だ。何故シヤーチは報告しなかったのか・・・」
「前のオレ達がンな事、気にするか?強くなって死ぬなら本望ってのがオレ等だったろうが」
「そう・・・だったな・・・」
惑星ベジータ崩壊前のサイヤ人に話した所で意味の無い話だった。
だからシヤーチはバーダックに話すに留め、他の誰にも己の仮説を伝えることはしなかった。
もし、その頃のサイヤ人に惑星ベジータ崩壊後のような心があったならば。
シヤーチの言葉を受け入れ、対策を練ることも検討したのかも知れないが。