仮初の聖闘士 09
「カミュ・・・伝えたい事があるなら言葉にしろと何度も言っているだろう」
空になったティーカップを見れば何をして欲しいのかは解るが、無口にも程がある。
今後もこれではカミュ自身が困る事になるだろうから言っているんだが・・・何故、御代わりはダメなのかという顔になるんだ。
「こらミロ!カミュが席を離れたからと人の分まで食べるんじゃない!シャカ!お前は食べず嫌いが多すぎる。一口食べてから判断しろ!アイオリア・・・もう少し丁寧に食べろ。散らかしすぎだ。アルデバラン、お前は逆に丁寧過ぎる。気に入ったならまた作ってやるから普通に食べろ。ムウ!クロスの部屋での飲食は禁止だと言っただろう!戻って来い!」
コイツ等が来てから怒鳴る率が増えたな・・・
サガとカノンとアイオロス、デスマスクにシュラにアフロディーテ。
アイツ等を引き取った時は此処まで面倒だと思った事は無かったんだが。
サガは好きなモノはゆっくり食べるタイプだったが、アルデバランほど細かく刻んで食べはしなかった。
カノンは食べ物の好き嫌いは結構あったが、シャカの様に手も付けないような事はせず出されたものは文句を言いながらも全て食べていた。
アイオロスも昔は掻き込む様な食べ方をしていたが、アイオリアの様に食い散らかしてはいなかった。
デスマスクも気に入ったモノは人の分まで食べようとしたが、ミロの様にこっそりやるのではなく堂々と寄越せと言っていた分ましだろう。
シュラも無口ではあったが必要最低限の会話は成り立ち、カミュの様に終始無言で目で訴える様な事はしなかった。
アフロディーテは感覚的に他とは違う行動をとる事が多々あったが、ムウの様に団体行動を乱す事はせず食事等の集まりの時は必ず一緒にいた。
子供を他の子供と比較してはならない事は解っている。
解っているんだが・・・疲れるな・・・
この後、200年以上たっても大人になりきれていない大きな子供の後始末が残っているのかと思うと憂鬱になる。
「カミュ・・・意志が伝わってないからと人を凍らす癖も止めろ。御代わりが欲しいなら欲しいと口で言えと言っているだけだろう」
氷結した左腕から氷を剥がすのも日課になった上に・・・
「お前達は食べ物で喧嘩をするなと何度言えばわかる!」
テーブルの上の残りを巡ってミロとアイオリアが揉めはじめ、他の3人が巻き込まれ、怒り、全員巻き添えの喧嘩へと発展するのも日課になった。
食わせて無い訳ではない。
決して、オレが食わせて無い訳ではない。
ただ修行地での食生活がお粗末すぎるのが問題なんだ。
「ただい・・・ってきます」
「良い所に帰って来たな、デス。他の奴等はどうした?オレはこいつ等の面倒を見るように言った筈だが?」
「何処って鍛錬場に決まってるだろ。サガとカノンとロスが組手をするって言うからチビ達にはまだ早いかな、って思って」
「また置いて行ったんだな?」
「・・・そうなる」
確かに、あの3人の動きはまだコイツ等には追えないだろう。
デスマスク達にとっては勉強になるが、動きが見えなければ万が一の時に躱す事も出来ない。
判断としては間違っていないが・・・
「今日でその言い訳は何日目だ?」
「えっと・・・3回目?」
解っていて誤魔化す気か。
オレは何日目だと聞いたんだがな。
「確かにお前は3回目だな。だがシュラとディーテがそれぞれ2回、つまりは1週間目だ。コイツ等が来てから毎日だ。お前達が何を企んでいるのか知らんが、この1週間でオレの仕事は山積みになっている。少しは
」
「マジで?!」
「・・・オレが嘘を吐けないと知っているだろう。仕事に当たれる時間が減ればその分シオンが積み上げる書類の量は増えるんだ。だからお前達に任せようと
」
「ちょっとサガ達呼んでくる!」
人の話は最後まで聞くようにと教えてある筈なんだがな。
走って行った方向からすると鍛錬場に居たのは間違いない様だが・・・本当に毎日何をやっているんだか。
「貴様は鍛錬を行わないのかね?」
「シャカ、貴様と呼ぶ限りお前の問いには答えんと先日教えた筈だ。お前の脳は物忘れが激しいな。神仏が答えを知らない疑問が増える一方で良いなら好きに呼べ」
「・・・シンは鍛錬を行わないのかね」
とても不満だが仕方がない、という色合いを含んでいるが良しとしよう。
「鍛錬の時間が取れないからな」
「・・・シンは白銀聖闘士。我々より弱いのだから鍛錬は必要だ」
「シルバーセイントだからお前達より弱いと言う事にはならないだろう」
「実力を見せぬのは弱いからでは?」
「実力?・・・そうだな、シャカがオレの様にシオンのクリスタルウォールを破壊出来るようになったら見せても良いな」
「・・・」
自分より弱いモノに世話になるのは嫌だと言っていたからな。
近い内に何か文句をつけてくるだろうとは思っていたが、実力を見せろと言われてもどの程度まで見せて良いのかがオレには判断がつかない所だったりする。
力だけなら、目の前でクリスタルウォールを一撃で破壊した事で解っている筈だ。
こいつが見たいのはもっと別の
多分コスモを使った力だろう。
だがオレはコスモを使った攻撃やら防御というのがいまいちよく解らない。
コスモの流れを見たり、それを断ったりする事は可能なんだが、自分が使うとなると勝手が違う上にいつもはシオンが最初にコスモと勘違いした力をそのまま疑似コスモとして周りに見せている為、本来のコスモと言える力を隠しながら疑似コスモで攻撃すると言うのが結構厄介だったりもする。
最も、オレのコスモと言える力が特殊なのが原因なんだが・・・
「・・・解った。出来るだけ早く破壊しよう」
「アイツのクリスタルウォールはムウと違いコスモの流れが安定している。まぁ、10年頑張れば何とかなるかも知れないな」
「10年もかけるつもりはない」
「そうか。楽しみにしている」
「・・・あの一撃は教皇の意表を突いたからではないと証明出来るのか?」
「もう一度見るか?どうせこの後はシオンの所で書類を片づける事になっている。ついて来るなら見せてやる」
「ならば行く前に声を掛けてくれたまえ」
まだ1週間だが・・・あの偉そうな態度だけは治らないのではないかと思えるのは何故だろうか。
修行地のヤツ等がどう育てたのか理解しがたいが、取り敢えず自分より弱いモノを見下すような部分だけは何としても直さなければな。
「どっか行くのか?」
「なんだ、シャカが怖くて声を掛けられなかったミロか」
「な、オレが怖かったんじゃなくてカミュが怖がってたんだよ!」
「(フルフル)」
自分だけじゃないと伝えたいなら首を振るだけじゃなく声に出せ、カミュ。
「オレが気付かないとでも思ったのか?話し始めた頃はお前1人だけだっただろう。その後、カミュを呼んだらアイオリアがついて来てムウが立ち止まってアルデバランが声を掛けたのを知っているぞ」
「・・・見てたのかよ」
「そのくらいは気配でわかるさ。確かにシャカはお前達の中では一番コスモが強いが、それを怖がって近付かずにいたら何時までたっても打ち解ける事は出来ないぞ。それにコスモの強さで言えばサガやカノンの方が上だろう?」
「サガ達と違って近付き難いんです」
「話しかけたら弱い者に興味は無いと言われた」
「そうそう、なんかすっげぇ馬鹿にした感じでさ」
「(コクコク)」
「兄さん達とは全然違う」
溝は深いか。
シャカも言葉遣いや態度は別として、扱い方は慣れれば簡単なんだがな。
「なら、お前達がシャカと同等かそれ以上に強くなれば良い話だろう。ちなみにシャカが今目標にしているのはシオンのクリスタルウォールを破壊する事だ。お前達はどうする?」
「「「「やる!」」」」
「(コク!)」
こんな時も頷くだけか・・・カミュは。
「なら、あと2〜3分でサガ達が帰って来る。お前達の鍛錬の指導をする様に言っておくから真面目にやることだ」
元気の良い返事が4人から帰って来たが、やはりカミュは頷くだけだった。
引き取ってから未だに一言もカミュの声を聞いてないんだが、いつになったら話してくれるのだろう。
・・・これもシャカの性格矯正と一緒に気長にやるしかないのか・・・