仮初の聖闘士 08
「・・・それで?」
「これで五老峰の老師を含め、黄金聖闘士が漸く12人揃った事になる」
此処に来る前の雰囲気はシオンの馬鹿さ加減とオレの不機嫌全開の笑顔によって吹き飛ばされていた。
「そうか、それは良かったな。だが、何をオレに頼むと言うんだ?」
「上の6人だけを贔屓する訳にはいかんだろう」
「この独特な眉毛のお子さんはアンタの弟子だろう?」
「うむ、我が弟子ながら出来た子だ」
「ならば師であるアンタが面倒を見るのが筋じゃないのか?」
「そんな事をすればムウだけが除け者になるではないか!」
「アンタは過労でオレを殺す気か?」
「過労程度で死なん奴が何を言うか。そもそも、お前を殺そうと思った瞬間に私が殺されている。つまり、私にはお前を殺す気は無いという事だ」
確かにアンタの言う通りだな。
過労程度で死ぬほど柔ではないし、殺気を向けられたら速攻で殺している。
だがな・・・悪気だけはあるだろう。
オレの目の前には6人の黄金の鎧を着た子供がいた。
そう、また子供だ。
シオンの弟子だけでなく6人全員が、子供だ。
体格の大小はあるが、子供である事には違いが無い。
「・・・これ以上、楔は必要ない」
「楔は何本あっても良いだろうに。それにまだまだ増やす予定だ」
「何だと?」
「聖闘士はなにも黄金聖闘士だけではないぞ?白銀も青銅もまだまだ空位はある」
まさか全部オレに押し付ける気か?
88の星座の数だけクロスがあると前に言っていた気がするが・・・あと何人が子供なんだ・・・
「教皇様、私達が言えた義理ではありませんが、これ以上シンに負担を掛けるのは如何なものかと」
「サガよ。私とて何も考えなしにこやつに聖闘士を任せている訳ではない。私ももう年だ。あと数年もすれば教皇の座も譲らねばならぬだろう。その時、私の仕事を理解し聖域の仕事の全てを理解する者がおれば、尚且つそれが新たな教皇と親しい者ならば、新たな教皇も安心して実務が出来ると言うもの。その役目をこやつに与えておけば、次の教皇の代でも此処に縛り付けておけて一石二鳥であろう」
そうか。
そういう考えだった訳か。
あと数年で教皇の座を譲るだと?
確か、前に聞いた時は教皇は代々ゴールドセイントが引き継いできたとアンタは言っていた気がするんだがな。
「あと100年でも1000年でもアンタが教皇をやっていろ」
自分が笑顔で攻撃を繰り出せる日が来るとは思ってなかったな。
見舞った蹴りはシオンが瞬時に張ったクリスタルウォールを突き破り、綺麗に決まった。
10代の子供に最高権力を渡すだと?
アンタが18で教皇になったのは不可抗力だったと言っていた筈だが?
自分が出来たのだから大丈夫だと言う考えか?
漸く12人揃ったと言ったのはアンタの筈だが、聖戦とやらが起きた時にゴールドセイントが足りなくても良いと言うのか?
馬鹿につける薬が欲しいな、と考えつつふと子供達の様子を見ると同じゴールドセイントでも行動が二分していた。
蹴り飛ばされたシオンを心配して駆け寄ったのはまだゴールドセイントに成り立ての子供達のみ。
オレの後ろにいた6人は皆が皆、自業自得だという顔をして心配している様子がない。
ゴールドセイントとしてその態度は間違っているとオレは思うんだが。
「お前達・・・アレでも一応お前達にとっては直属の上司になる。建前でも良いから心配してやれ」
「いや、シンならば手加減しているだろうと思ってな」
「サガの言う通りだ。何だかんだ言いながら、シンはシオン様にも甘い」
「あのジジィがあの程度でどうにかなるわけねぇだろ?それにオレは聖闘士じゃねぇし」
上の3人は・・・まぁ、これまでにも何度か見ている為、慣れも在るだろう。
それにしてもアイオロスに言われるまで気付かなかったが・・・そうか・・・オレはアイツの事も甘やかしていたのか。
今後は甘やかさないよう、今以上に心を鬼にする事にしよう。
「話聞いてたら心配するのが馬鹿らしくなった」
「同じく」
「蹴られて当然だよね」
下の3人(いや、もう中の3人と言うべきか)も、自分なりにオレとシオンの会話を聞いての判断の様だ。
周りに流されず、自分の意見を持つのは良い事だが・・・時と場合と言うのを教えないとな。
そして今日会ったばかりの6人のゴールドセイントは自己紹介も何もしない内にシオンを蹴り飛ばした為か、オレに対する警戒心が剥き出しになっている。
教皇を蹴り飛ばすシルバーセイント。
確かに・・・傍から見れば反乱でも起こすのかと思われても仕方が無いな。
「で、いつまで倒れたフリをしている。次は本気で食らわすぞ」
「最近はお前に何かされても心配してくれる者が居ないからな。この子らの心配する姿が新鮮だったのだ!」
「力説する事では無いだろう・・・」
尊敬する教皇様から変な事を言う人に格下げされそうになっているんだが・・・本人は気付いていないか・・・
「アリエスとムウ、タウラスとアルデバラン、バルゴとシャカ、レオとアイオリア、スコーピオンとミロ、アクエリアスとカミュ。こいつ等を預かれば良いんだな」
元々、アイオリアは引き取るつもりだったんだ。
シオンの言葉じゃないが、6人の内1人だけを引き取る訳にもいかないだろう。
こうなるとは思っていなかったんだが・・・流石に今のクロス部屋に12体だと手狭だな・・・
どちらにしても部屋の増築は必要か。
「何故、私達の名を知っている」
こいつはシャカ、だったな。
「バルゴが教えてくれたんだ。もう少し子供らしさを持て、とも言っているな」
バルゴの言う通りだ。
子供特有の可愛げと言うものが一切無い。
「話にならないな」
「シャカ。お前は神仏の声は信じて、自分のクロスの声は信じられないと言うのか?」
オレが言える立場では無いが、アテナのセイントがアテナ以外の神仏と通じ合って良いものなのだろうか。
バルゴは自分のセイントは代々こんなものだと言っているが・・・
「私に出来ぬ事を貴様が出来るとは思えん」
・・・こいつは子供らしさ云々の前に考え方の矯正が必要だな。
どう育てばこんな子供になるんだか・・・
「アレ、見せてやったら良いじゃん」
「アレ・・・か」
シャカ相手の場合はアプスを動かしたくらいでは信じそうにないな。
「バルゴ。悪いがシャカにお前の意思を伝える為だ。一度シャカから離れてくれ」
オレの言葉に6人の子供達は何を言っていると言う顔をする。
「お前達もだ。主に自分が意思を持っていると伝えたいなら、一度離れろ」
クロス達も多少は悩んだようだが、結局6体全てがオレの言葉に従った。
当たり前だ。
自分が認めた主が、自分に意思がある事を信じてくれないんだからな。
「ほらな。クロスにも意思があるんだよ」
刺激を与えすぎたのか、子供達の耳にオレの声は届いていない様だ。
ちゃんと教えておけとシオンには言っておいた筈なんだが・・・
ちらりと視線をシオンに移せば・・・慌てて視線を逸らす始末。
・・・忘れていたんだな、アンタ。