仮初の聖闘士 06
オレが好きでやっている事だとカノンには言ったが、ゴールドセイントが増えた事により比例して増えた依頼にオレは頭を悩ませていた。
勿論、それらを受けているのはシオンではない。
ゴールドセイントは例え子供であってもゴールドセイントとしての任を果たすべきだと考えている古臭い考え方を持った神殿の連中だ。
ヤツ等はゴールドセイントが分別の付く大人に育つまで依頼を全て引き受けると言ったオレが早々に潰れるのを待っているのだろうな。
オレが潰れれば実力的にも子供達が依頼を受ける事になる。
そう考えているのだろうが、生憎この程度で潰れる事は無い。
オレが悩んでいるのは・・・兎に角、時間が足りない事だ。
朝は子供達の食事を作り、裏の畑の手入れをしたら6人を訓練場へと送り出す。
そのまま掃除、洗濯諸々の家事を済ませ昼食の用意をしたら教皇宮へ向かう。
シオンの手付かずの書類を一部切り崩し、馬鹿共が気軽に請け負った各国からの依頼内容の確認。
シルバーセイントも少ない上に候補生探しまで行っている現状において各人の負担になり過ぎない程度に割り振り、残りの依頼を全てこなす。
とは言え、各国との時差の都合もあり夕飯の支度までに全ての依頼がこなせる訳も無く、一部は子供達が寝付いてから動く破目になる。
各任務の報告書を作成し気付けば陽が昇りかけている、と言う日も少なくは無い。
この生活が続いても別段死ぬ事はないが・・・器が人間である以上、多少なりとも睡眠時間は欲しい。
サガ達の鍛錬の相手をしてやれる時間も欲しければ、サボり癖のついたシオンの仕事状況を監視する時間も欲しい。
オレが来る前はどうしていたんだ、とシオンに聞けばゴールドセイントも居らず、各国からの依頼も微々たるものだったと言う話だ。
サガとアイオロスが正式にゴールドセイントになったのはオレが此処に来た日から約半月前だと言う事実もつい最近知ったんだが・・・
「疑問だったんだが何故、依頼を受ける外交を実務を行わない神殿が行っているんだ」
「仕方ないだろう。聖闘士は必ずしも数が揃っているわけではない。依頼が入れば聖地の外に出てしまう。神官達の様に各国の情報を常に把握している者が聖地に必ずいる事が出来ぬのだから、任せるしかあるまい」
尤もらしい事を言っているが、オレには納得出来なかった。
他に手段があるのではないかと考えを巡らせる。
「ならアイツ等にやらせるか・・・いや、そうすると下の3人の相手が・・・まぁ1人でも大丈夫か・・・」
「何をブツブツ言っている」
「いや、外交をサガとカノンにやらせてみてはどうかと思ってな。各国の情勢を学ぶ機会にもなる上、アイツ等の外見ならば子供だからと侮られる事もない」
セイントが動くのだから同じセイントが窓口になるのが基本だとオレは考えている。
今の神殿の連中ははっきり言えば無理な依頼も勝手に受け、その上各国からの報酬の大半は受けただけの神殿側に入るシステムになっている。
これで良くセイント側から抗議の声が上がらないものだ。
「サガもカノンも判断力はある。神殿のヤツ等の様に無理難題を請け負ったり、対応出来るセイントの数を見誤ったりする事も無いだろう」
「その無理難題をこなし、人が足りない分の依頼も全部お前がこなしてしまうのも問題だと私は思うんだがな」
「受けた限りは成し遂げるのが契約と言うものだろう。お前もあの馬鹿共も契約を甘く見すぎだ。万に一つも起こり得ないが、もしオレが依頼内容をこなせなかった場合、オレ1人の責任云々の話ではなくなると何故解らない。オレが何の為に睡眠時間すらまともに取れないと思っているんだ?」
「うむ・・・ならば暫くの間は神官は話を聞いてくるだけにし、依頼を受けるか否かの判断はお前がすると言うのでどうだろうか。急に体制を変えれば反発も大きくなる。聖闘士と神官の溝が深くなるのは避けたいからな」
シオンの気持ちも解らなくも無い。
長い
それこそシオンが教皇の座につく以前からこの体制だったのだろう。
シオンが今の体制に疑問を抱かなかったのもそれが当たり前の事だと思っているからに過ぎないとオレにも解っている。
だが、オレはアイツ等の代までこの体制を残すつもりはない。
「文句があるなら自分達で受けた依頼は自分達でこなせと言え。セイントはセイントで別に依頼を受ける。自分達は安全な場所にいて危険な任務を押し付けるだけのヤツ等に四の五の言う資格は無い」
「しかし・・・お前の言う様にサガとカノンに任せるとなれば、お前の受けている任も全てその目に晒す事になるぞ。それでも良いというのか?」
「カノンにはもう知られている。サガやアイオロスも聞いてこないだけで気付いているだろうからな、頃合いというヤツだ」
サガとカノンは11、アイオロスは10歳だ。
今はオレが無理やり定めさせた法によりセイントとしての仕事は余程の緊急時以外は請ける事が出来なくなっているが、あと10年もすれば3人ともゴールドセイントとして仕事をする事になるだろう。
オレには受けている依頼の全てが本当に【地上の平和】に繋がるか甚だ疑問だ。
アイツ等自身にもそれを判断させる必要性がある。
「兎に角、早急に神殿関係者の外交権を剥奪しろ。反発するならさっきオレが言った事をそのまま伝えるんだな。なに、神官が依頼を受けなくなった所でサンクチュアリの業務に齎される損害は雀の涙程度だ」
外交ルートは神殿の持っているものだけではない。
オレもこの5年間、何もしてこなかった訳じゃないからな。
神殿側の馴れ合いになっているルートよりも、確実な交渉が出来る自信はある。
「お前は本当に容赦がないな・・・」
「これでも穏便な方法を選んでいるつもりなんだがな」
「・・・ちなみに穏便で無い方法は?」
「決まっている。歳を取っているだけで何も考えていない神官達の首を切って総入れ替え、だ。若いヤツ等がいれば神殿業務なんざ十分だろ?」
どうやら首を切る、の意味は正しく伝わったようだ。
敵意剥き出しのアイツ等をオレがどう思っているかコイツは知っているからな。
オレにはアイツ等をヤる事に抵抗は一切無い。
顔を引きつらせたシオンを残し、オレは今日の分の仕事を片付けに行くことにした。
後日、シオンが持ってきた話は予想はしていたが最悪だった。
やはりと言うか、何と言うか。
保守的な神官連中はサガとカノンの様な子供には任せられないと言ってきたそうだ。
仕事はやらせようとしている癖に自分達に都合が悪くなると子供と言う言葉を持ち出す連中の意見を聞く気は無かったが、セイントに対する報酬の改定で今回は収めてくれとシオンに頭を下げられてしまった・・・それも他のセイント達の目の前で。
何故他のセイントも集めたのかと思えば・・・オレからの文句を封じる為だったのか。
他のセイント達も神殿の取り分と自分達の報酬が逆転した事で納得している様だから今回は引いてやるが・・・だがな、シオン。
オレの時間が足りない事に変わりはないんだが・・・アンタの仕事を手伝う時間を減らしても良いって事だよな?