〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 04



 火時計の上に落ちてから早5年。
 小さかった子供達もやっと10代になったんだが・・・外見だけ見れば10代半ばだ。
 セイントは普通の人間とは別の種族だと、オレは確信していた。
 その間、オレの外見には変化は全く訪れていない。
 この世界は今のオレの器が属する世界では無い為、器の年齢は非常にゆっくりとしたものになってしまっている。
 そしてこの5年間、オレはサンクチュアリの改革を推し進めながら、3人の子供達と十二宮の麓で暮らしていた。
 当初はカノンだけを引き取る予定だったのだが、兄弟が離れるのはとサガも引き取る事になり、サガが行くなら自分もとアイオロスまでついてきた次第だ。
 1人増える度に、分からず屋の神官共を口論で打ち負かし、何か言いたげな教皇を無視し(あれは自分も行くと言いかねない顔をしていた・・・)十二宮内での至れり尽くせりな生活から一変したサガとアイオロスに普通の生活を叩き込み、近場のロドリオ村の住人からは「あら、仲のいい親子だと思ってたのに、歳の離れた兄弟だったの?」と月日が経つ毎に外見のせいで怪しまれ。サガとアイオロスの組み手の相手をしていればセイントにはなりたくないと言っていたカノンも参加し、それを聞きつけた教皇が様子を見に来て大騒ぎになり・・・と、穴が出現する気配は無かったが退屈はしない5年間だった。
 そんなオレの許に久々に教皇からの呼び出し状が届いた。
 教皇の間に来るように、と書かれているだけで他には時間の指定も何もない。
 情勢不安な地域には先日赴いて先手を打ってきたばかりなんだが・・・悪い、いや、どちらかと言えば面倒な予感がする。
 行くな、とオレの直感は訴えかけてきていた。
「・・・無視するか・・・」
 と呟けば、既に顔見知りの伝令係が今にも泣きそうな顔をしている。
 オレが行かなければ彼の責任になってしまうからな・・・彼にも家庭があるのでオレは仕方なく教皇の間へと向かう事にした。
 オレは今でも、教皇の間に行く時は火時計経由の最短ルートを使う事にしている。
 態々、あんな階段をのんびりと往復する趣味は持ち合わせていない。
 セイントは音速・光速での動きが可能ではあるが、サンクチュアリでは特定の場以外での音速・光速での移動が禁じられている。
 理由は簡単だ。
 人間程の物体が音速・光速で動けばその余波はかなりの破壊力を持っている。
 セイントにいつもそんな動きをされていたら、サンクチュアリ中が瓦礫と化してしまうからだ。
 ただし、オレの跳躍に関してはただ飛び上がっているだけなので行動の制限がない。
 まねを出来るセイントは今のところいないが、その内アイオロス辺りは出来るかも知れないな。
 そんな事を考えつつオレが火時計に目標を定め跳躍すると、後を追うように家の中からアプスが飛び出しオレの身体に装着された。
 こいつは自分でクロスが必要な事態かどうかを、かなり良い確率で判断してくれる。
 今回の呼び出しはクロスが必要な内容である確率が高いという事だ。
 いつもの様に火時計の上に着地し、そこから教皇の間へと一息に跳ぶ。
 壁の破壊される音が辺りに響いた。
 呼び出しの度に毎回壁をわざと突き破るのは単なるシオンへの嫌がらせだ。
「何の用だ。呼び出し状には必ず用件を書けと何度言えば・・・この子供達は何だ?」
 オレの視線の先には突如壁をぶち破って現れたオレを呆然と見つめている子供の姿が3つ。
 その身に纏っているのは黄金の鎧・・・と言う事は・・・まさか・・・な。
「うむ、先日修行地より戻った黄金聖闘士の3名だ」
「年齢は?」
「5歳と6歳だったかな」
 またか。
 またなのか・・・ゴールドクロス!
 何故、成人した者を選ばないんだ。
 数少ない成人したセイントは候補生を探して各地を飛び回っており、現状サンクチュアリに常駐している大人のセイントはオレしか居ないと言うのに。
「・・・で?」
「お前に預けたい」
「拒否する」
 既に3人の子供の面倒を見ているというのに、更に3人を面倒見ろと言うのか?
 一気に倍の人数になるのは誰が見てもおかしいだろう?
「腰掛けシルバーセイントのオレが世話をするよりは、教皇が見た方が良いのでは?」
「子供の前で堂々と腰掛けなどと・・・」
 教皇があきれた顔をするが、それが真実だ。
 オレはこの世界に属さない。
 アプスの仮の主でしかないのだから。
「5年も聖闘士でありながら、腰掛けなどと言うのはお前だけだな」
「腰掛けは腰掛けだ。それ以外の何者でもない」
 昔、落ちた先で100年程度帰れなくなった事はあったが、此処ではオレが帰れなくともアプスの正当な所有者が現れればその時点でオレはセイントをお役御免。
 アプスの様なクロスは他に居ないだろうしな。
「3人も6人も変わらんだろう。何故、サガ等の面倒は見てこの子等は駄目だと言うのだ。贔屓か?差別か?それとも顔が好みではないとか趣味の問題か?」
「殴っても良いか?」
 最後の趣味とはなんだ、趣味とは。
 オレが元々カノンだけを引き取ろうとした事は教皇も知っているはずだと言うのに。
 その上、3人と6人では全然違う。
「サガとカノンは兄弟だから仕方がない。アイオロスはサガを連れて行くと此処に1人になるから、これも仕方なくだ。同い年が3人揃っているなら別にオレが引き取らなくても大丈夫だろう」
「お前にしか任せられんから言っている。解っているのだろう?ここの古臭い連中がどれだけ馬鹿で手の施しようが無いのかを」
 一番古い教皇が言うのもどうかと思うが・・・確かに神官の地位は教皇の下に位置していても教皇の部下ではない。
 教皇が苦言を呈しても、全く取り合わないモノもいる。
 アテナの居ない今、セイントの頂点に立つのは教皇だが、神官の頂点に立つのは大神官であり、大神官はアテナのみに仕えるのだという事だ。
 オレは今、そいつらの意識改革を計画している最中だったりもするんだが、これにはまだ時間が掛かるだろう。
「それにこの子等も先輩である黄金聖闘士が一緒におった方が何かと勉強になるかと思ってな」
 それはオレにも解るが引き取るにあたって、現実的な問題も残っている。
「・・・先ず、部屋が不足している。生活費も今の状態に3人も増えたら赤字だ」
「部屋は建て増しの手配をしよう。生活費は倍額でどうだ?」
 倍額か。
 その分、オレに回ってくる仕事が倍にならないだろうな?
「・・・解った。後はソイツ等次第だ。お前達はオレと暮らすか?此処よりは自由だが、自分の事は自分でする生活だ。それでも良いなら来い」
 唐突に話を振られ、子供達はどう返答をして良いものか迷っていた。
 その姿をみると、会ったばかりの頃のカノンを思い出す。
 アイツ程、負の感情に塗れてはいないが戸惑いは似たようなモノだった。
「その点は心配ない。お前ならそう言うと思って修行地でも己の事は己でさせるようにと指示を出しておいたからな」
 とどのつまり、コイツは最初からオレに預けるつもりだったと言う事か。
 ふざけるなと怒鳴りつけてやりたくなる。
「オレはアンタには聞いていない。コイツ等に聞いているんだ。雁字搦めの生活を選ぶにしても、外での生活を選ぶにしても、コイツ等自身が決めなければ意味がない」


 結局、3人が3人とも規律の多い生活よりオレとの生活を選んだ。
 取りあえずは・・・コイツ等を家において、食材の買出しにでも行くか。




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