仮初の聖闘士 24
「サガ・・・どうやっても断れない状況があると解ってくれたか?」
「・・・・・・・・・」
サガの眉間に皺が寄ったままだが仕方がない。
オレとてサンクチュアリに着き次第、シオンを怒鳴りつける予定だからな。
そしてオレとサガの背後からは数人の子供達が付いてきてる。
キド・ミツマサはシオンからの返事がない事を承諾の意ととらえ、手紙に書かれていた約100人もの子供をギリシャへと連れてきていた。
教皇であるシオンへ宛てた手紙とオレに宛てた手紙の内容の違いは詳細な来日日程と、その時に子供を連れてくる予定だという文言の有無。
確かに、こういった話はシオンが決めるので間違いではないんだが・・・何故、アイツは面倒事に限って後回しにするんだか。
かと言え、オレからすれば突如100人もの子供を連れてこられても受け入れる体制は出来ていない。
一度全員引き返して貰うべく話を進めようとしたんだが・・・まぁ、色々と揉めた末に適性のある子供だけは引き取ることになってしまった。
現在主のいない聖衣達と子供達を力で繋げて確認してみれば、不幸なことに数人が聖衣の主になれる可能性がある事が判明した。
が、内4人はキド以外の肉親がおり、此処には来たくなかったと本人達が言っていた為、キドと共に帰国してもらう事にはなった。
それでも・・・4人、か。
サンクチュアリじゃ100人集めても聖闘士になれるのは1人いれば良い方だったというのに、キドの子供に何故こんなにも聖闘士になれる可能性がある子供が多いんだ?
「・・・今更だが、紫龍、那智、檄、蛮・・・本当に良いんだな?」
問いかけに対して無言で頷く4人の子供。
幼いながらも、一輝同様に意思ははっきりとしていた。
子供特有の強さへの憧れもあるのだろうと訓練の最中に命を落とすモノもいたのだと一通り説明してはやったんだが、諦める様子は無い。
「サガ」
「・・・解っている」
現状、一輝の相手は年長3人が行っている。
一輝以外の年少者達も、各々面倒を見る年長者が決まっている。
この4人がそこに加わるとなると誰に任せるかなんだが、その辺りは今回サガに任せる事にした。
サガは次の誕生日を迎えればセイントとしての任に就くことになっている。
ゴールドセイントとしてサンクチュアリの中枢にも係らなければならない。
4人には基礎訓練の間は候補生として宿舎に入って貰うことになるが、今は候補生たちの監督はコイツ等がやっているからな。
基礎訓練終了後は各々の戦闘スタイルに合わせたチームで面倒を見る必要性が出てくる。
その割振りを今までオレがやっていた訳なんだが、それをサガにやらせようと言うわけだ。
「今回は龍星座、子獅子星座、狼星座、大熊星座だ。各星座の特性や技に関してはシオンの所に保管されている文献に載っている。サンクチュアリ内に技を使えるモノが居ない場合は招集をかけるか」
「己で研究して教えろと言うのだろう」
「そう言う事だ。だが、その間も今まで任せている雑事は全てこなして貰う。出来るな?」
「出来る出来ないではない。やるだけだ」
この表情は・・・良くないな。
軽く皺の寄った眉間を弾けば、何をするんだと驚きに目を見張る。
「もっと気楽に考えろ。アイオロスもいる上に、お前が困っていると解ればカノンだって手は貸す。文献を調べるのはデス、シュラ、ディーテの勉強にもなるだろう。何もオレみたいに全部1人でやる必要はないんだよ」
見本となるべきオレの遣り方が悪かったのだろうが、オレの場合は他に任せられる相手が居なかった。
コイツは住処にいるセイント、ジェネラル、スペクターの中で一番最年長ではある。
だが・・・
「1人でほぼ全てを行っていたオレに自分達でも出来る事はあるから手伝わせろと言ったのはお前なんだがな?」
言えばハッとした表情で、オレの言いたいことに気付いてくれた様だった。
あの中の誰よりも早くセイントとして勤める事になったとしても、周りに助けを求めて良いのだと。
「シオンも居ればドウコも居る。オレとて腰掛けとはいえ、お前が任を受けれるようになったからとお前に全てを押し付けて居なくなったりはしない」
「本当、か?」
「当たり前だろうが。オレ1人でセイント何人分の仕事をしていると思っているんだ?年齢が達したとはいえ、シオンとドウコとお前だけでどうにか出来る量じゃない事くらい解っているさ」
言いながら、街の様子を見回す。
平和。
今この時、オレが見る限りではこの街は平和と言えた。
銃声は聞こえない。
血臭もせず、悲鳴も聞こえない。
街行く地元の人々と、それに混ざった観光客達。
そしてサンクチュアリもまた、死亡者数が減り、海皇・冥王との聖戦の可能性も無くなり、一見すれば平和と言える。
そう・・・裏でどのような汚い事が行われていようとも。
腐り切った考えの連中を全て切り捨て、候補生として連れてこられたセイントになる事の出来ない子供達の受け皿を作り、今以上に命の心配のない場所にする。
それがオレとシオンが目指している新しいサンクチュアリ。
その要になるのが、オレと共に暮らしている子供達やセイントになる事の出来なかった多くの子供達。
先はまだ長いと言うのに此処まで係って放っていける程、オレは情の無い存在では無い。
後ろから4人が付いて来ている事を確認しつつ歩を進めれば、街の外れ、人気のない場所でデスマスクとシャカ、ムウが待機していた。
オレ達が買い物に来た時は極力足で帰るようにしているんだが・・・今日は4人の子供達の後ろから付いて来ている奴らが居る。
最初はキドの差し金かと思ったが、どうやらサンクチュアリの存在を快く思っていない連中の差し金らしい。
そんな連中がいるというのに子供の歩みに合わせて帰る訳にもいかず。
かと言え、オレ達が連れて行くにしても普通の子供がゴールドセイントであるサガの速さで無事でいられる訳もないので空間移動が得意なデスマスク達に迎えを頼むことにした。
まぁ・・・オレ1人でも空間を繋ぐ事は封印を緩めれば可能と言えば可能なんだが、子供達で出来る事は子供達にやらせる事にしている。
とは言え、デスマスク達の繋いだ空間をオレが通ると力の差なのか道が崩壊してしまう為、オレだけは別で帰る事になるんだがな。
「一輝の様に澄んだ目をしている」
「お、シャカ。珍しいな。お前がガキを認めるなんてよ」
「デス、シャカはちゃんと他の子達も認めてます。口が悪いだけです」
「「・・・・・・」」
ムウは一体誰に似たんだろうか。
最近は師であるシオンにも容赦がない。
確かに、シャカの場合は褒めているのか貶しているのか解らない時が多いが。
「兎に角だ。お前達はこの子達とサンクチュアリに転移した後は教皇宮まで連れていってやってくれ。シオンとドウコに紹介しないとならないが、普通の子供の足であの階段を上るのは無理だろうからな」
「あー、その事だけどよ・・・若作り爺は五老峰に帰った」
・・・なんだと?
「今、シオン様の命令でロスとシュラ、アルが連れ戻しに行っています」
オレがサガと共にサンクチュアリを出る時にはそんな様子は無かった。
ならばオレ達が出た後に何かあったのだろうが。
「・・・シャカ、何を言った」
「黄金聖闘士の自覚のない者など必要無いと事実を言ったまで」
200歳以上も年下の子供から必要ないと言われてしまった・・・か・・・
だからと言って次期教皇に指名されているヤツが勝手にサンクチュアリを離れて良い理由にはならない。
シオンも真面目なヤツを選んで迎えに行かせたようだが、あの3人が行った所で実力行使をされたならば連れ帰ることは不可能。
と、言う事はだ。
「サガ、オレはアイオロス達の援護に向かう。シオンもその心算だろうからな」
シオンはオレに命じる事は無い。
が、オレが動かざるを得ない状況を作るのは日常茶飯事。
今回とて教皇からの命令ならば果たせるまでは戻ってくることの無い面子だけを向かわせている。
説得出来れば問題無いんだが、あの頑固なドウコが果たして素直に言う事を聞くかと問われれば、答えは否しかない。
「ついでに言っておくがな、シャカ。ドウコは自覚が無いんじゃなくて唯単に教皇の座なんて面倒なモノを引き受けたくないが引き受けなければならない現実に駄々を捏ねているだけだ。ゴールドセイントとしての自覚がなければ、200年以上も滝の前で座し続けるなんて不可能だろう?」
常人ならば気が狂う程の時を、あんな人が訪れるのも困難な地で過ごして来たんだ。
肉体の老化が秘術によって抑えられていたとしても、実際に流れている時に変わりは無い。
話を聞いた時は良く精神が持ったモノだと感心させられた。
そしてシオン同様に聖戦を経験しながらも、その時敵対していた相手であるハーデス達を受け入れられる懐の広さも持っている。
シオンの年齢を考えれば、早めに教皇の座を継がせたいところなんだが・・・如何せん、サンクチュアリの現状に関して疎すぎるのが問題となり、任務をさせつつ教皇として必要な知識を詰め込んでいるのが現状だったりする。
「もう1つ言えば、セイントとしての自覚の無さじゃオレの右に出るヤツなんざ居ないと思うんだが・・・」
オレがサンクチュアリにいるのはアプスのセイントだからではない。
悪辣な環境にいる子供達の環境改善と、見送らなければならない孤独に耐えてきたシオンに付き合ってやっているだけに過ぎない。
「シャカの考えからすればオレは必要ない事になるな」
などと呟けば、あのシャカの顔色が悪くなるという珍しいモノを見ることが出来た。
安心しろ。
サンクチュアリの情勢が落ち着いたとしても、お前達が育つまではお前達の許に、サンクチュアリにいてやるさ。
その後の事は・・・その時になってみなければ解らないがな。