〜言の葉の部屋〜

仮初の聖闘士 22



「師が居ない、という理由ならば私達は引き受けても構わない。今までと何ら変わりは無いからな。だが・・・老師が出てきた場合は」
「全力で阻止しろ。良いな、一輝以外の鍛錬に関してもだ」
 基本、武器を持たないゴールドクロスだがライブラだけはその役目上、唯一複数の武器が備え付けられている。
 ライブラの主となるモノはそれらの武器を全て扱えなければならない訳なんだが・・・ドウコの「身体慣らしの鍛錬に付き合って欲しい」という要望を素直に聞いてしまったシャカ以外のゴールドセイント下5人+カーサとクリシュナは結果として死にかけた。
 子供達の怪我に関してはオレが対処したが、あの時ばかりはシオンも激高していたな。
 シオン曰く「先の聖戦の折に弟子の様な弟分を持った時にはこれ程の加減知らずでは無かった」と言う事だが、シオンの記憶違いではないかと思わずにはいられない。
 そんなドウコの実年齢はシオンと同じだが【ミソペサメノス】とか言う秘術を前アテナに施され肉体年齢は此処に来た当初は18歳   アテナの秘術を解除してからは普通に年を重ね21歳にはなったが、もはや人間を辞めていると言っても過言では無いだろう。
 実年齢だけでなく肉体年齢も現ゴールドセイントの中で最年長であり、その強さからもオレとシオンがドウコを次期教皇候補に位置付け、現ゴールドセイント筆頭としたのはドウコが若い身体でサンクチュアリへと戻って来た翌日の話なんだが・・・今はそれを再考した方が良いのかと頭を悩ませている。
「全く・・・年寄りは敬うものじゃろう」
「アンタの何処が年寄りだ。兎に角、アンタは完全な手加減が出来る様になるまでコイツ等に手を出すな。鍛錬の相手ならシオンにでも付き合って貰え」
「・・・シオンも忙しいからと相手をしてくれんのじゃよ・・・何かと言えばお主は蹴りつけてきおるし・・・どうせ、年寄りの相手は面倒なんじゃろ」
「あぁ、はっきり言って面倒だ」
 特に年寄りに見えない癖に子供達の同情を引こうと年寄り臭さを出す年寄りはな。
 コイツと比べるとシオンの方が大分マシに見えるのだから、不思議なモノだ。
「「ただいま〜!」」
 オレの返答にいじけたドウコをそのまま放置する事にし、子供達にも相手にするなと言い聞かせていると元気な声が帰宅を告げてきた。
「あの・・・」
「お邪魔します・・・」
「あぁ、やっと来たか・・・シオン、何故アンタまで居る」
「お前に渡す手紙があったのを忘れていてな。ついでに持ってきてやったまでよ」
 ついで、か。
 どうせサーシャや瞬と遊びたいが為に、わざと忘れたんだろう。
「ふむ、やっと鳳凰星座の聖衣を呼んだのか」
「自分から言い出したからな。コイツ等の気持ちも解る分、駄目だと言う事は出来なかったんだ」
「一輝よ。聖衣を持てどお前はまだ未熟。鍛錬を怠らぬようにな・・・何なら私が」
「アンタにはムウっていう弟子がもういるだろうが」
 セイントやセイントとしての役目を返上したモノの中には自分が受け継いだ技を後世に伝えてゆくために弟子を採るモノが多い。
 クロスが次の主に出会う為に必要な事でもあるが、中には弟子が多すぎ、その弟子の中からブラックセイントの様な輩を輩出してしまうモノも居る。
 オレから言わせて貰えば、弟子採りは慎重に行って欲しい所だ。
「教皇様は一輝が鳳凰星座の聖闘士になるとご存知だったのですか?」
 サガの言葉にシオンがまだ言っていなかったのかと視線を向けてくる。
 必死に一輝をセイントにしない様にとしていたコイツ等に言える訳がないだろうが。
 そう視線で訴えれば、シオンは呆れた顔をして肩を竦めていた。
「お前達・・・魔鈴とシャイナも入ってきなさい」
 シオンは玄関口で入ってくる事に躊躇いを見せていた2人を無理矢理室内に入れ席に付かせた所で、真面目な面持ちで口を開いた。
「サガよ。お前はコヤツが聖衣の声を聴ける事を知っているであろう。コヤツには聖闘士候補生として子供達がサンクチュアリに来たその日の内に・・・聖衣が己の聖闘士になれる可能性のある子供を呼ぶ声が聞こえている」
「!?では、では何故、聖闘士になれる可能性がある者が解っているならその者だけを育てないのですか!」
「コヤツの考えよ。此処に来る子供はお前達を含め皆、自分で聖闘士になりたいと思って来ている訳では無い。中にはアイオロスの様に無理矢理親元から引き離された子供もいる。連れて来たその日に聖闘士に成れる可能性のある者と無い者が解ってしまっては・・・心無い者達は可能性の無い子供は必要ないと追い出すであろう。そうなれば無理やり連れて来られたと言うのに子供達は行き場を無くす・・・特に、親の居ない子供はな」
 これでも親の居る子供でセイントになる可能性が無く、スケイルも反応を見せなかった子供に関してはオレとシオンが裏で親元に帰している。
 が、中には周囲の目を気にしたり、金に目が眩んでそれを望まない親も居た。
 実の親に拒絶された子供は・・・結局、サンクチュアリで暮らすしか生きる道がない。
 今はオレとシオンだけで行っている為に先に親元に確認をして戻せる子供だけを連れ出しているが、馬鹿共がそれを知れば追い出すだけ追い出して子供達はそのまま放置されてしまう事だろう。
「聖域に居る限りは衣食住の保障がされ、生きる術を学ぶ事も出来る。今はコヤツやコヤツの考えを引き継いだお前達が居るが故に幼い子供が死ぬ事も無くなっておる。これが、聖闘士になれる可能性のある者だけを育てない理由よ。尤も、私もコヤツに説かれるまではサガ、お前と同じ事を考えたがな」
 シオンも、シオンと同じ事を考えたサガも、子供の事を考えていない訳じゃない。
 一輝に対するサガの態度からも、その想いが汲み取れる。
 セイントになる為の過酷な修行で傷付く子供は少ない方が良いと考えているに過ぎない。
「サガ、まだオレにもシオンにも馬鹿共を一掃するだけの力が無い。悔しい事に、今は解っていても出来ない事の方が多いんだ。だが・・・」
「解っている。まだ、と言う事は一掃するつもりなんだろう」
「当たり前だ。協力してくれるヤツ等も増えているからな。それに徐々にではあるが進めている事もある」
 此処を出ても子供達が生きていける様にと、シオンと共に進めている事が。
 まだ人手も足りなければ場所も確保しきれていない。
 オレが此処を離れるその日までに、遣り遂げられるか怪しいモノだが・・・まぁ、オレが居なくなった後はシオンに任せるしかないな。
「だが、それはオレとシオンとドウコの仕事だ。お前達は今まで通りの生活をしていろ」
「なぬ?ワシもじゃと?」
「当たり前だ。前のアテナの命令だか何だか知らんが、封印が殆ど解けていたのも気付かずに滝の前で座っていたのだから、その分も働いてもらうに決まっているだろう」
「・・・年寄りをこき使いよる・・・」
「案ずるな童虎。私もお前と同い年だ」
 強いて言えば、オレはアンタ達より更に年上なんだがな。
「一輝と候補生達に関する話は分かった。それで、彼女達は?」
「・・・シルバーセイントのマリンとシャイナだ」
「あのね、サーシャ達のお姉ちゃんなの!」
「これから一緒なんだって!」
 ねーっ♪、と仲良く笑顔を見せる2人は先程までシオンの膝の上でつまらなそうにしていたが、やっと自分達の解る話になってご機嫌になった。
 が、反してサガの顔は不機嫌に、カノンはまたかと呆れ、アイオロスは苦笑いを浮かべている。
 他のヤツ等も各々が3人と似たような反応を見せていた。
「あ、あの、皆さんの足を引っ張らない様に頑張ります」
「不束者ですが、よろしくお願いします」
 ・・・シャイナ・・・その言葉は間違ってはいないのだろうが、使い所が違う気がするのはオレだけか・・・?
「ちなみに、住処に居る時は仮面を外してもらう事になっている」
「・・・マジ?」
「女聖闘士の掟は如何するんだ」
「まさか、何か抜け道があった、とかじゃないよね?」
「ディーテの言うような抜け道と言うわけじゃないが、オレなりの解釈で外しても問題無いと判断した」
 教皇の間でシオンにしたのと同じ説明をしてやれば、付き合いの長いゴールドセイント達はあっさりと受け入れ、付き合いがまだ1〜2年のシルバーセイント達は困惑の色を見せ、ジェネラルとスペクター達は仮面をつけている方がおかしいと言う反応をしていた。
 勿論、当のマリンとシャイナも中々外す決心はつかない様だ。
 こういう時は・・・子供に任せるのが一番だろう。
 それも一番小さな子供に、な。
 サーシャと瞬をシオンの膝から下して耳打ちしマリンとシャイナの元へ促せば「はーい!」と元気な返事をして小走りで近寄って行った。
「「お姉ちゃん、お面外してくれないの?」」
 下から見上げ、小首を傾げながら言われれば・・・サガですら駄目だと突っぱねる事が出来ない、この2人だけの必殺技だ。
 下手なセイントの技よりも効果はある。
 最近は更に涙目になったりと、技の威力が増していたりもする。
 マリンとシャイナが陥落するもの時間の問題だろうな。




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