Sideシュラ 〜意執〜
「カノン、すまないが」
「解ってっから、さっさと行けよ」
「悪いな。後は任せた」
此処に来てから疑問が尽きない。
修行地では聖域で正式に黄金聖闘士として教皇様に認められたならば、その任を果たす事になると教えられてきた。
今までの修行の様に生易しい命のやり取りでは済まないのだと言われてきた。
俺もその覚悟を決めて、此処に来た。
「カノン、今のは?」
「っ・・・ってシュラかよ。今のは、まぁ、アイツに来た指令だ」
「そうか。風鳥星座には聖闘士の任が来るのだな」
聖闘士としての任を誰も行っていない、と言う事は無いだろうと思っていた。
だが何故だろう。
白銀聖闘士で済むような任しかないと言う事なのか?
「ま、取り敢えず家の中に戻るぞ」
「・・・カノン、サガやアイオロスはもう黄金聖闘士としての役割をはたしているのか?」
振り向いたカノンは何故か呆れた顔をしていた。
「果たしてるって言えば、果たしてるだろうな。候補生や青銅、白銀の手本になる様な聖闘士である事が黄金聖闘士の最初の役割なんだとよ」
サガが言っていた事で自分には関係ないが、とカノンは言うが・・・ならば何故、手本になるべき俺達が鍛錬しかせず、白銀聖闘士のあの男だけが動いているのだろうか。
「アイツの事が知りたかったら、アイツの事を良く見ろ」
「えっ・・・」
「お前さ、シンの事が気になって気になって仕方が無い、って顔に書いてあるぞ」
「気にしているんじゃない。だた・・・」
「ただ?」
「・・・何でもない」
気にならない、と言えば嘘になる。
誰よりも聖闘士らしくない聖闘士。
教皇様を呼び捨てにし。
候補生達の居る前で女神に仕える神官と口論をする。
それでいて、誰よりも聖闘士らしい聖闘士。
朝から昼、昼から夜と家を空け、任をこなし。
同じ黄金聖闘士のサガやアイオロスが敬意を向け。
【聖衣の声】が聞こえる聖闘士。
風鳥星座の聖衣
アプスの行動を見せられなければとても信じる事は出来なかった。
風鳥星座の聖闘士が語り掛けると、アプスだけじゃない。
双子座と射手座の黄金聖衣。
それに俺達と一緒に此処に来た蟹座と魚座と
山羊座の黄金聖衣も返事をするように淡く光る。
「んなに気になるなら、爺さんとこでも行くか?」
「爺さん?」
「そ、爺さん」
誰の事だか解らないまま、少しでも何かを知る事が出来るならと付いて行けば・・・
「此処に爺さんがいるのか?」
「当たり前だろ。教皇が教皇宮に居なくてどうすんだよって・・・まぁ、時々居なくなるけどな」
此処に来るまでに
十二宮を通り過ぎる毎にまさかとは思った。
風鳥星座の聖闘士は教皇様を呼び捨てにしているが・・・聖闘士でもないカノンが爺さん呼ばわりしても問題が無いのか・・・?
「爺さん、ちょっといいか」
教皇宮に入ったカノンは他の人達には一切の視線を向けずに、遠慮も無しに教皇の間に続く扉を開いていた。
カノンに向けられている視線に好意的なものはない。
「カノン、お前が自分から此処に来るとは珍しいことよ。何か新しい悪戯でも思いついたか?」
そんな中で教皇様だけがカノンに好意的だった。
それにしても・・・悪戯とは何のことだろうか。
「悪戯っつうか、アイツを驚かせて遣りたいだけなんだけどな。アイツに変な突っ込み受けねぇ様なのが思いつかなくてさ」
「驚かせるだけなら、1つ案があるが」
「オレが聖闘士になるっつう案なら却下。誰が聖闘士なんざなるものか」
「後はお前の意思一つだと言うのに・・・お前も段々とアヤツに似てきたな・・・」
カノンが聖闘士に?
それも教皇様は直ぐにでもカノンが聖闘士になれるような事を言っている。
黄金聖闘士になり得る資格は持っているとサガも言っていたが・・・本当だったのか。
「って、今日はシュラが爺さんに訊きたい事があるって言うから連れて来てやったんだよ」
「えっ・・・?」
オレは教皇様に訊きたい事があるなんて一言も言っていない。
風鳥星座の聖闘士の事は知りたかった。
それを教えてくれる人が居るからと、カノンに付いてきた。
けど・・・相手が教皇様だなんて知らなかった・・・知っていたら、ついて来たりしなかった。
「ふむ、シュラよ。何が知りたいのだ?」
「あ、え・・・」
教皇様が手を払うと、教皇の間に居た人達が一人一人俺達が入ってきた扉から出ていく。
「これで話しやすかろう。遠慮せずに申してみよ」
教皇様の言葉で俺が訊きやすいように人払いをしてくれたのだと解った。
「き、教皇様に直接お伺いするなど失礼な事は重々承知していますが」
「・・・カノン、これは・・・」
「アイツがその内、何とかすんだろ。まだオレ等のトコに来て半月程度だし?仕方ねぇんじゃね?」
「顔合わせの時は突然の事で固くなったのかと思っていたのだがな・・・シュラよ。そう畏まらずともよい。用件のみを述べよ」
何か俺は失礼な事をしたのだろうか?
教皇様はカノンと話している時と違って、困った様な顔をしている。
俺の何が悪かったんだ・・・?
「は、はい。教皇様は・・・その・・・聖衣に意思があると言うのは、事実だと思われているのでしょうか」
「聖衣の意思、か・・・」
俺の問い掛けに教皇様はそうつぶやいたまま、何も言わなくなってしまった。
やはり、あの風鳥星座の聖闘士が言っているだけで教皇様も信じては居ないと言う事だろうか。
「シュラよ。私にもアヤツ程ではないが、特異な能力が備わっている」
「特異な、ですか?」
「私は聖衣に宿った聖闘士達の記憶を垣間見ることが出来るのだよ。ある時を切っ掛けに、悪戯に見ることはせぬ様になったが・・・若い頃
その切っ掛けとなる出来事が起こるまでは連日、観劇するかのように戦いの記憶を覗き見、それに浸っていた」
「へぇ・・・爺さんにもそんな頃があったのか」
「カノン、私をなんだと思っておる」
「生まれた頃から爺さんは爺さんだったのかな、って」
カノンの疑問は俺の疑問でもあった。
教皇になる様な方なのだから、聖闘士だった頃から志の高い方だったのだろうと。
「買い被るな。その切っ掛けさえなければ私は変わる事は出来ず、黄金聖闘士になる事すら叶わなかったであろうよ」
「で、その切っ掛けってのは?」
「冥王軍の輩に勧誘されてな」
「「・・・は?」」
声を上げてから失礼だとは思ったが、カノンの方が声が大きかったから大丈夫だろう。
「聖衣に宿った聖闘士の歴史だけでなく、人の生命の歴史を永遠に眺め続ける。私はその甘言にのり・・・修復を待つ傷付いた聖衣達を破壊した。それを止めてくれたのが我が師の聖衣であり、迷いの生じた私は冥王軍の輩に背後から切り捨てられた。そんな私の命をこの世に繋ぎとめてくれたのが私が拳を振るった聖衣達だった」
敵の甘言に乗る。
聖闘士としてはあるまじき行為。
聖衣まで破壊したのに・・・教皇様は黄金聖闘士になり、教皇にもなった・・・?
「我が師はその折にこういったのだ。お前にこの先の歴史を継いで欲しいと聖衣が語っている、とな」
「では・・・教皇様の師も風鳥星座の聖闘士の様に聖衣の声が聞こえたのですか!?」
風鳥星座の聖闘士以外にも同じ事が出来た聖闘士が居た。
それならば、風鳥星座の言葉が真実なのだと証明する事になる。
だが、教皇様は首を左右に振って俺の言葉を否定した。
「いや、師は自分にとっては懐かしい声だとも言っていた。あの方が聞いた聖衣の声は私が見た聖闘士の記憶と同じだったのだろう。私は映像として見る事が出来、師は声として聴いていた。故に正確な事を言えばアヤツが聞いている聖衣自身の声とは違うものだ」
「聖衣に宿った記憶、ねぇ・・・なら、爺さんは双子座の聖闘士に関する記憶も知ってたってことか」
教皇様の話を聞いていたカノンの気配が、俺にも解るくらい変わった。
いつもとは違う、暗い小宇宙。
カノンと行動を共にするようになってからは一度も感じた事の無い、小宇宙。
「お前の言いたい事は解る。だが、あえて弁明するならば私は黄金聖衣の修復に携わった事が無い。破壊の頻度は黄金、白銀、青銅の順に酷くなり、聖衣の自動修復の能力は黄金聖衣が一番高い故にな。先の聖戦での仲間達の最後を知りたいと思った事もあったが・・・悪戯に戦いの記憶を覗かぬと決めた以上、自動的に流れ込んでしまう記憶以外は見た事が無い。尤もお前の事を思えば、聖衣に宿った記憶を見ておけば良かったと悔やみもしたがな」
「・・・そっか。なら、良い」
カノンの様子がいつものものに戻る。
双子座の聖闘士には何か秘密があるのだろう。
それがカノンが聖闘士になりたがらない原因なのかもしれない。
「すまぬな。シュラよ、私が聖衣自身の意思があると判断したのはアヤツのその言葉を聞いて当時の事を思い出したからでもあるのだよ」
「当時・・・教皇様が聖闘士の記憶を見ていた頃の、ですか?」
「あぁ。先も話したが聖衣は私から流れ出る血を押し留め、この世にこの命を繋ぎとめてくれた。聖衣に聖闘士の記憶だけでなく魂までもが宿っていたとしたならば、何も不思議な事では無いのだが・・・私は冥界の氷結地獄にて冥王軍に封じられた幾多もの聖闘士達の魂をこの目で見た。魂は氷結地獄にあり、聖衣には記憶のみ。ならばその記憶が私を助けようとすると思うか?」
「記憶は過去のもの。教皇様を助ける事は出来ない、と言う事ですか」
「然様。教皇などと呼ばれているが、幾多もの聖闘士と共にあり続けた聖衣自身の意思が私を助けてくれたのだと、アヤツの話を聞いた時に初めて知ったのだよ。もしや我が師の聞いた声もまた、聖衣が師の仲間であった聖闘士の声を模して聞かせていたのではないかとも考えた」
「真実を知ろうとは思われないのですか?」
「真実と言えど、アヤツを経由して聞くしか方法は無い。私自身が聖衣の声を聞こえる様になれば良いのであろうが・・・私は老いすぎた。アヤツの考えを解してやる事は出来ても、アヤツの域まで辿り着く事は不可能であろうよ。お前達と違ってな」
教皇様は俺達ならば、それが出来る可能性があると言った。
ピレネー山脈での修業を終えて、聖域にきて、カノン達と暮らし始めてから半月。
俺は毎日、山羊座の聖衣に話しかけてみている。
なのに一度も、山羊座の黄金聖衣の声を聞いた事も無ければ、聖衣が光を放った事も無い。
任も無い。
聖衣も応えない。
俺は・・・黄金聖闘士失格なのだろうか。
「如何した、シュラ?」
頭に何かが乗ると同時に掛けられた声。
その声がした方を向けば・・・風鳥星座の聖闘士が居た。
「カプリコーンが心配しているぞ。もう2時間も動かないってな」
2時間。
そうか、教皇宮から戻ってから、もうそんなに時間が経ってたのか・・・
本当にこの男には聖衣の声が聞こえているのだと、改めて実感させられる。
「どうして・・・」
「ん?」
「どうして、俺には聞こえないんだ」
何か黄金聖闘士として足りないものがあるのか。
だが、何が足りないのかが解らない。
師匠は認めてくれた。
聖衣も纏えた。
教皇様も認めてくれた。
それでも・・・声が聞こえない。
「まぁ、シオンも聞こえないモノをたった半月程度で聞こえる様になったら、ある意味天才だな。それにカノンもサガもロスも5年近く頑張っているが、聖衣の声はまだ一度も聞こえちゃいない。言葉を交わせなくても、いつか意思だけでも解る様になるのだと頑張り過ぎた事はあったが、クロス達の其処までの高望みはしないという思いを伝えてからは無理はしなくなったな」
「なら・・・」
何故、この男は初めて会った日に言ったのだろう
風鳥星座の聖衣が自分で此処へと戻る様子を見せながら。
これくらいの事は出来る様になって欲しい、と。
「シュラ、訊きたい事があるなら悩まずに訊きに来い。オレで答えらえる事ならば答えてやる」
「・・・どんな事でも?」
「オレが答えらる事なら、な」
本当に訊いても良いのか、と悩む事も無く、俺は矢継ぎ早に今まで疑問に思っていた事を目の前の男に訊いていた。
如何して。
何故。
如何したら。
サガが言った通り、風鳥星座の聖闘士はどんな小さな事にも答えてくれた。
それと。
「今日の伝令兵は初めて見る顔だった」
「・・・そう言えば、お前もあの場所に居たな」
気付かれていたのか。
カノンは気付いていなかったのに。
「あの伝令兵が来た時、カノンの表情が曇った。何故だ?」
「・・・アレがゴールドセイントが対応する任を伝えに来る伝令兵だからだ」
黄金聖闘士が・・・対応する任?
なら。
ならば、あれは。
「貴方では無く、俺達が遣るべき任を伝えに来たのか?」
「正確に言えばそうだが、今は違う」
「どういう意味だ」
「オレとシオンとの取り決めだ。ブロンズ、シルバー、ゴールド。階級に関係なく、全てのセイントは20歳になるまで任を受けさせない、ってな」
・・・そんな決まりは知らない。
教皇様も、サガもカノンもアイオロスも、そんな事は教えてくれなかった。
「あの伝令兵は誰に任を伝えに来た?」
「この家に、オレ以外で20歳を超えたヤツがいるか?」
有り得ない。
黄金聖闘士の任を白銀聖闘士のこの男が?
「今の所、この事を知っているのは伝令兵以外ではシオンとカノン、それとシュラ。お前だけだ」
「サガとアイオロスには?」
「訊いてきたら、教えてやるさ」
だから黙っていろ。
そう、言われた気がした。
「子供の内は、大人に甘えておけば良いんだ」
何故、と聞く前に頭に触れた温かい手。
甘える?
甘えるって何だ?
如何すれば良い?
「シュラ、お前は今、何をしたい」
「聖闘士としての役目を・・・」
「違う。セイントとしてじゃない。お前自身として何をしたい」
聖闘士としてじゃなく?
俺自身として?
そんな事、考えた事も無い。
俺は
聖闘士だから。
「サガやアイオロスは神官に教えられたことだけじゃなく、自分の目で真実を知りたいと言っている。セイントとしてでは無く、一人の人間としてな。カノンは・・・まぁ、興味をひかれた事に手当り次第に手を出しているな。デスとディーテにはまだ聞いていないが、お前は何をしたい」
「聖闘士、として・・・」
「違う」
「俺、は・・・」
聖闘士には個の意思は必要ない。
聖闘士はアテナの剣となり、盾となる存在。
聖闘士は・・・
「シュラ、俺の目を見ろ」
「っ!」
怖い。
「大丈夫だ」
怖い怖い。
「お前に危害を加える訳じゃない」
怖い怖い怖い。
「だから・・・そんなに怖がるな」
怖い怖い怖い怖い。
「シュラ」
・・・怖い・・・?
俺よりも大きな体で。
黄金聖闘士の任を任される強さを持っていているから?
違う。
今、真っ直ぐ見つめられるまで風鳥星座の聖闘士を怖いなんて思った事は無かった。
なら、何故?
「シュラ。お前はまだ5歳なんだ。こんな所に居なければ、普通の子供として誰に甘えても良い歳なんだ」
頭に触れている手だけじゃない。
風鳥星座の聖闘士の声も、優しくて暖かい。
「聖闘士として?そんな事は今は考えなくて良い。お前達が育つまでは、お前達の任は全てオレが遣ってやる。だから
」
あれだけ怖いと思っていた風鳥星座の聖闘士が、もう怖くは無かった。
如何して、俺はこの目を怖いと思ったんだろう。
「子供の内は、オレやシオンに甘えろ」
何かが、消えた感じがした。
頭の中にあった何かが、風鳥星座の聖闘士の
シンの声で消えた気がした。
「お前がお前として興味を持った事を、遣りたい事をやって良いんだ。カプリコーンも、それを望んでいる」
抱き寄せられて、後頭部を軽く数度叩かれる。
・・・同じ事を見た事があった。
聖域に来るまでに通った村や町で。
泣いた子供にそうしている大人が居た。
俺は子供じゃない。
泣いてもいない。
聖闘士だから、子供扱いするな。
今までの俺ならそう言って、手を払ったと思う。
「何をすればいいのか・・・解らない」
「そうだろうな」
「聖闘士じゃない俺に何が出来る?」
「さぁな。それはオレにも解らん。何が出来るかなんて、やってみてから考えれば良いんだ」
「何をやれば良い?」
「そうだな。先ずはカノンに付いて回れば、新しい発見は出来るだろうな」
「・・・カノンに・・・それは俺に黄金聖闘士の資格が無いからか?」
教皇様はカノンも聖闘士になれると言っていた。
それでも双子座の黄金聖闘士がサガなのだから、カノンは黄金聖闘士にはなれない。
デスマスクはサガに。
アフロディーテはアイオロスに。
他の2人には黄金聖闘士に付いているのに、俺だけが違う。
「馬鹿を言うな」
溜め息を吐きながら、シンは俺の頭を撫でていた。
「ジェミニはカノンにも自分のセイントになって欲しいと願っているが、カノンが嫌がっているだけの話だ。お前がそんな事を言うから、カプリコーンが落ち込んでいるぞ?」
ジェミニ・・・双子座の聖衣はサガだけじゃなくてカノンも自分の聖闘士にと望んでいる?
1つの守護星座に2人の聖闘士なんて聞いた事が無い。
それに・・・そんな事を言われても、聖衣の意思なんて解らない。
「・・・他のヤツ等には黙っていろよ」
何をするのか訊く前にシンの小宇宙が俺を覆って、山羊座の黄金聖衣に
カプリコーンに訊きたい事を聞いてみろと言われた。
「俺は・・・お前の聖闘士で良いのか?」
「
」
「・・・今の・・・」
声が聞こえた。
小宇宙で話す時の様に、直接頭の中に。
聖衣はシンが問いかけた時と違って光らなかったけど・・・
確かめたくて振り向けば、シンは頷いてくれた。
「それがクロスの答えだ。良いか、今のはカノンやサガどころか、シオンにすらやってやった事は無いんだ。アイツ等に知れたら煩いから黙ってろよ?」
シンがそういうと、他の聖衣達が狡いとシンに文句を言っている声も聞こえてきた。
それにカプリコーンが他の聖衣達に自慢するような声も。
シンの小宇宙が消えるまで、俺の頭の中に聖衣の声が響き続けた。
あの時の彼が俺の中にあった【刷り込み】と言う名の【暗示】を、俺に気付かれぬように解いてくれたのだと、後から来た自分より幼い黄金聖闘士達と出会った時に初めて知った。
暗示を解く。
その為だけに、サガやカノンにすら秘していた力を使ってくれたのだと言う事を。
尤も、彼やシオン様に固いと言われた性格までは治らず、彼を悩ませたらしいが。
それだけの事をしなければ解けない程に強い暗示だったのだと知ったのは、随分と後の事だった。