海渡の聖闘士 第04話
山賊事件の後、少し長い滞在をした後にシャンクス達は出港していった。
フーシャ村を拠点にしての航海は終わりにし、更に先の海へと船を進めるのだと言う。
連れて行って貰えないルフィが大泣きするかと思いきや、山賊事件以降考え方を変えたらしく将来自分の海賊団を立ち上げて海賊王とやらを目指すらしい。
だれかルフィの海賊に対する認識を改めてくれるモノは居ないものかと考えながら過ごしていれば、ルフィの祖父だと言う男が村を訪れた。
多少、問題のある祖父のようだが嫌な男では無い・・・いや、多少どころでは無かったな・・・あの非常識ぶりは。
【拳骨】のガーブと呼ばれている海軍の中将であり、将来ルフィを立派な海兵にするのだと語っていた。
海賊になる事を諦めさせようとする姿にはオレも同意出来るが、未来を決めてしまうのは問題だろう。
その上・・・ルフィを鍛えるのだと何処ぞへ連れ出し、そのまま預けてきてしまった。
気配を探ればコルボ山中に確認出来る。
大勢の気配が周囲にあった為、ガープに確認してみれば知り合いの山賊に預けてきたとお気軽に言ってくれた。
ルフィは山賊相手に大変な目にあったばかりなんだが・・・血の繋がった家族が決めた事においそれと口を挟む事は出来ず、ガープが信じている相手を信じるしかない。
山にルフィを置いてきたガープの次の標的はシュラだった。
二つ名を付けられる程の活躍しているシュラに対して海軍に入らないかと誘っていたが、強くなれる可能性の無い場所に興味は無い、とシュラは一蹴した。
一蹴したんだが、諦める様子は全くない。
余りにもしつこい為、オレ達もまた海に出る相談をし始めた。
資金は十二分に溜まっている。
オレが調べた結果、この近辺でサンクチュアリに繋がる次元の歪みが見つかる可能性は低く、遠方を調べようにもオレから距離が離れれば離れる程に正確性は落ちてしまう。
この世界はかなり広い様で全域を調べる為にはどうしても移動が必要となった。
「船の改修は終わってるけどよ、直ぐに離れるってのはなぁ・・・」
「留まる期間が長引けば長引くほどに離れがたくなる。もう少し、もう少しだけなら、と思っている合間にな」
それでオレは教皇なんて面倒な役職を未だに遣っているんだ。
帰る世界の無いオレは別にそれでも構わないが、帰る世界のあるお前達はどうやっても此処に留まる訳にはいかない。
「情ほど厄介なモノは無い。積み荷の準備もあるだろうから、出発は1週間後と言ったところか。その間に挨拶など必要な事は済ませておけ」
その日の内にマキノに村を出る旨を伝え、翌日には村長に話をしてきた。
ガープが付近をウロウロとしていたが、この際それは無視する。
下手に構えばシュラの勧誘が再開されるが目に見えているからな。
船の操舵に関しては3人にも覚えて貰うが基本オレが見ていれば問題ないだろう。
ある程度の食料と日用品さえ積み込めば問題ないかと思いきや、デスマスクとアフロディーテだけでなくシュラまでもが嗜好品の類をこれでもかと船室に詰め込んでいた。
目的地の無い船旅など初めてだろうから仕方が無いのかも知れないが・・・日持ちのするモノばかりを選んでいる点は良いが量はもう少し抑えろ、お前等。
兎にも角にも、準備やら挨拶やらをしていればあっという間に1週間が経ってしまった。
一番世話になったマキノに最後の頼み事としてルフィへの伝言を依頼し、舫い綱を解き錨を上げれば帆に風を受けた船は徐々に港から離れ始める。
人の影が小さくなった頃になると、雲一つない空だと言うのに船に影がさした。
「お前は・・・」
「グルルルルルル」
「見送りに来てくれたのか。ならば、お前にも頼みたいことがある。オレが居なくなった後もお前にはこの村を守って欲しい。村から出るモノは襲わず、村を襲うモノは滅ぼす。この村の守神となってくれないか」
今ではコイツも餌が取れずに腹が減った時には村人から食料を貰ったりもしている。
ガープの船が来た時に排除されそうにもなったが、それを真っ先に止めてくれたのも村人達だった。
「グォォォォォォォォォォン!」
一啼きしオレを一瞥すると海の中へと姿を消す。
「ツラは凶暴だけどよ、結構良い奴だったな」
「貴様ほど凶悪では無いと思うがね」
「・・・なんか言ったか?魚?」
「真実を言ったまでだよ、蟹」
いつもの揉め事をはじめそうな二人を余所に、船尾にいるシュラはある一点を見つめていた。
気にしても仕方が無いのでオレは無視していたんだが・・・
「ガープは付いてくるか」
訊けば嫌そうに頷く。
この1週間も嫌と言うほどに付きまとわれてたからな。
そのままガープの船はオレ達と付かず離れず一定の距離を保ったまま後を付いて来ていた。
オレ達は目的地も無く動いている。
丁度フーシャ村から南東を目指して進めているんだが、幾日か経つと何やらガープの船の上に集まっていた気配が慌ただしく蠢き始めた。
何かあったのかと様子を見ていれば船から黒い何かが宙へと飛び出し、その黒い物体はこちらの船に向かって来ている。
最初は黒い点にしか見えなかったモノは・・・
「・・・鉄球、か?」
「その様だな」
返事をするや否やの内にシュラのエクスカリバーによって鉄球は真っ二つにされ、船の左右へと着水した。
切り裂かれる瞬間、鉄球に文字が書いてあるのが見えたが・・・次々と飛ばしてくるな。
降り注ぐ鉄球はシュラが切り裂いているが、鉄球を手紙代わりにするのは止めて貰いたい。
「シュラはそのまま鉄球の排除、デスは舵を頼む。ディーテは周辺警戒をしてくれ。オレはガープに文句を言ってくる」
「・・・アンタ1人で大丈夫か?」
大丈夫か、とは失敬な。
「問題無いだろうさ。どうやら、これはガープなりの注意勧告の様だからな」
投げられてくる鉄球に書かれている文字を繋げて読めば【危険。直ぐに船を止めろ】と書かれており、こちらが停船しない為に繰り返しこの文章が投げ込まれているのが現状だ。
「取り敢えず、周囲を警戒しつつ船は進ませろ。せめて理由も書いてくれればこんな面倒は必要なかったんだがな」
「あの爺さんじゃそりゃ無理だろ」
「考えるより先に手が出る・・・まさに蟹タイプの人間だからな」
「んだと?」
「やるか?」
暇なのは解っているから、その小競り合いはそろそろ止めておけ。
ガープの船との距離を測り、跳躍1つで着地すれば甲板にいた海兵達の多くが腰を抜かしている。
サンクチュアリでは夜な夜な火時計に跳躍していたせいで亡霊扱いされたんだったな・・・オレは。
「ガープよ。其方はもう少し他の方法を考えられんのか?アレでは何を伝えたいのかが一向に解らん」
「ム?ちゃんと書いた筈なんじゃが」
「何が危険なのかが一切解らぬであろうが」
言えば、何故かデンデン虫とやらを持っていないオレ達の方が悪いのだろうと責められた・・・蝸牛など持っているモノの方が少ないだろうが・・・
「中将!」
「ウム。ほれ、お前さんの船のある辺りから凪の帯に入るんで危険じゃと教えてやろうとしたんじゃ」
「カームベルト?」
「大型の海王類が・・・あのように生息しておるんじゃよ」
ガープが指差した先
オレ以外の3人が残されている船が超巨大生物達に囲まれていた。
「あの程度のならば問題無かろう。其方等もカプリコーンの実力は知っているであろう?」
それ以前に、巨大生物達は船を襲う姿勢を最初は見せていたモノの、今は好奇心に駆られている。
大方、オレと言語野が繋がったままの3人がアイツ等の言葉を理解して話でもしているのだろう。
オレとしては【海皇】という響きが気に入らないが・・・
「忠告には感謝するが、次からはもう少し穏便な手段で願いたいものだ」
「ならば、これをやるから持って行け」
渡されたのは・・・蝸牛だった。
だが、オレの知っている蝸牛と違い電話の受話器とダイヤルの様なモノが付属している。
「・・・これは?」
「電伝虫を知らんのか?ほれ、こうすると・・・」
ガープが操作すると船内から「プルプルプルプル」と変な声が聞こえてくる。
相手側と繋がったのかガープがデンデン虫の受話器に話しかけ、向こうからの声はデンデン虫の口から聞こえてきた。
・・・生物型の電話なぞ初めてだな。
「これがワシの番号じゃ。何かあったら連絡せい」
「使う事など、無かろうがな」
デンデン虫を懐にしまい跳躍して船へと戻れば案の定、3人は好奇心旺盛な巨大生物達から質問攻めにあっていた。
内容の大半は「何故、言葉が解るのか」というものだったが。
「やっと戻ってきやがったか」
「コイツ等はなんなんだ」
「早い所、船を進めたいんだけどね」
そのままゆっくりと船を進めつつ、海皇類達の疑問に答えてやっていた所、1匹がカームベルトを抜けるまで船を引っ張ってくれることになった。
が、早速ガープから電話が入り、根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。
・・・尤も、答えらしい答えはしてやらなかったが。