〜言の葉の部屋〜

一期一会 04




「小松君・・・これは一体・・・」
「松の家にちっさいオレ?んで?」
 はぁ、と小松からは自然と溜め息が零れた。
「何でってボクも思いましたけどね・・・」



 話は半年以上前に遡る。
 IGOの研究所ではいつも通り、保管しているトリコ達の検体を用いて様々な遺伝子実験を行っていた。
 目的は勿論、人間がグルメ細胞に適応できる可能性を1%でも上げる為である。
 事の起こりはその実験の過程でとある研究者が放置してしまった細胞が勝手に分裂を始めた事だった。
 それらは分裂・増殖・結合を何度も繰り返し段々と大きな細胞の塊へと変容していく。
 当初は何の興味も示さなかった研究員達もその成長スピードに興味を懐き、栄養を与えてそれの変容を促した。
 そして3か月前。
 培養液の中で十分に栄養を取っていた細胞達は、人の胎児に似た姿へと変貌する。
 細胞レベルでの自己再生。
 研究者達は細胞の持ち主の面影を持ち始める胎児を目にすると大いに喜んだ。
 再生能力の高いグルメ細胞であるが、目に見えないレベルの細胞から肉体が再生された前例は無い。
 ある程度まで育ったそれらを研究者達は育て上げる為のプロジェクトを発足させた。
 細胞の持ち主である四天王と同じ環境を与え、同じプログラムで肉体を強化し「第二の四天王」を育て上げようとしたのだった。
 だが、それらは研究者達の期待に応える事は無かった。
 培養液で育てられる限界まで育て外に出すが、1週間も経たぬ内に活動を停止し、細胞が死滅してしまう。
 幾度繰り返しても同じ結果しか得られず、それならばとマンサムの発案で「四天王と全く違う環境」で育てる事になった。
 四天王が育った環境に適応出来ないのならば、逆に四天王と無縁であった環境で育ててみてはどうか、と。
 しかし、研究所の人間が関わってしまっては結局の所「違う環境」にする事は出来ない。
 そこで白羽の矢が立ったのが小松だった。
 四天王と近しい存在でありながら、その感覚は一般人そのもの。
 研究所やグルメ細胞の存在を知っても一切口外しない口の堅さ。
 そして研究所の人間では有り得ない「四天王を人として見る」その感性。
 グルメ細胞の成長に欠かせない食に関しても、IGO直営レストランの料理長という実績を持っている。
 マンサムにはこれ以上の好物件は他に思い当らなかった。



「マンサム所長が突然来られて『こいつ等の面倒を見てくれ!』って置いて行った時には何が何だか解りませんでしたよ。1歳位の子供をポンっと3人も置いていくんですから。お蔭で2週間ばかり店を休む事にもなりましたし」
 流石の小松も仕事をしながら3人の子供の面倒を見る事は出来なかった。
 子育ては毎日が格闘である、という誰かの言葉は本当だったんだと実感した日々でもある。
「でも、その2週間で5歳児くらいまで成長してくれたから仕事にも行けるようになりましたけどね」
 今でこそ、落ち着いて話せるが急な成長を目の当たりにした小松は慌てに慌てた。
 結局はマンサムの「問題ない!」の一言で片付けられてしまったが、マンサムはマンサムで2週間以上生きて成長している事に電話の向こうで慌てに慌てていた。
「ん?2週間でそれだけデカくなったなら、何でまだこのサイズなんだ?」
 小松が預かったのは2か月前。
 当初の成長速度ならば既に少年期から青年期へと変わる歳になっている筈である。
「・・・ずっと1人暮らしだったからお帰りって行ってもらえる生活が楽しくて、つい・・・」
 口から出てしまった言葉があった。
「こまつが『そんなにいそいでおおきくなるとさみしい』っていったからさ」
 ポフン、と青い髪の子供   小さなトリコが小松の背後からおぶさる様に抱き着く。
「・・・こまつさんがさみしいのはいやです・・・」
 ギュッ、と黒い髪の子供   小さなココが小松の袖を掴む。
「れも、っきくなりたくねーし」
 トスン、と白い髪の子供   小さなサニーは定位置であるかのように小松の膝の上に座る。
「この子達はボクの気持ちを優先してくれたんです。マンサム所長もこの子達の好きにさせて良いと言ってくれたので、この子達に保護者が必要なくなるまでは一緒に暮らす事に決めたんです」
 小さな幸せをくれた小さな存在。
 小松は3人から自分が貰った以上の幸せをプレゼントするのだと心に決めていた。




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