〜言の葉の部屋〜

永劫回帰 01




 不思議な生活が、奇妙な生活へと変わった。
 人々の憧れの存在でありながら、人から離れた場所で独り暮らしをしていた四天王の3人が同じ場所に集まり、共に生活をしている。
 それだけでも奇妙だというのに、3人の中心にいる人物は更に不思議な3人を中心に生活を送っていた。
 奇妙だが、幸せを実感出来る日々だった。


「なんだ、また熱だしてんのか?」
 小松を探していたトリコは部屋の中を覗くと、ベッドの傍らで子供の看病をしている姿を見つけた。
「えぇ・・・マンサム所長は以前、筋力の成長の反動で熱が出ているだけだから心配しなくて良いと言ってはいたんですけど・・・今日は前より熱が高くて・・・」
 最初はマンサムから症状が出ると言う話を聞かされるまで気付かない程度だった。
 それが熱を出す度に容体が悪化している気がしてならない。
「やっぱり・・・あれが悪かったか・・・?」
「あれって何ですか?」
「いやな、まだ早いとは思ったんだけどよ・・・釘パンチの撃ち方を少々・・・」
「教えたんですか!?」
 トリコですら場合によっては筋肉痛に悩まされる釘パンチ。
 それを本当にこんな子供に教えてしまったのか、と小松の目が訴えている。
「ほら、この間こいつがどうしてもって言うからハントに連れて行ってやっただろ?その時見せてやったらしつこくてつい」
「つい、じゃないですよ!今度からはちゃんと考えて、駄目なものは駄目って言ってあげないと!・・・もう・・・それじゃあトリコさん。ちょっとの間お願いしても良いですよね?そろそろ食事の支度をしないとならないですから」
「あぁ。責任持って見ててやるから任せろ」
 折角寝ているのだから起こさない様に、とトリコに言い置き小松が部屋を出る。
 その足音が完全に遠ざかると、先程まで眠っていた筈の子供が目を開いた。
「・・・ありがとな。うそついてくれて」
 トリコはこの子供から礼の言葉が出てくるとは思っていなかった。
「オレもこれ以上小松を心配させたくなかったからな。で、自分でどうなっているのか解っているのか?」
「ぜんぜん。でもココならしってるかも」
 何故、こんなにも発熱を繰り返すのか。
 自分でも解らない小さなトリコであったが、オリジナルの存在を知っていた小さなココならば何か知っているかもしれないと考えていた。
「あー、あいつな。オレ苦手なんだよなぁ・・・ココのくせに扱い難い」
「ココはおれのしらないこともたくさんしってえる。なかにいたときのこととか、ココがたくさんいたとか」
 小さなトリコの記憶は小松と出逢った頃からしかない。
 それ以前にも人の声は聞こえていた気はするが、会話の内容や誰の声だったのかは解らない。
 小さなサニーもそれは同じだったが、唯一、小さなココだけは違っていた。
「はげおやじがきたときも、いろいろはなしてたしさ」
「はげ親父?」
「はげたすっげーききまちがいするきんにくおやじ」
「・・・所長か・・・」
 小さな3人の存在を知ってからトリコ達が取り寄せた資料の中には、特にこれと言った情報は書かれていなかった。
 自分達の細胞から偶然生まれた存在である事。
 途轍もないスピードで細胞が成長している事。
 その中で知っておいて良かったと思えたのは研究所の人間達が最も長生きしているこの3人を貴重な【実験体】として研究したがっている事を事前に知ることが出来た事だった。
 マンサムが今回の同居を許可したのも、その辺りが理由である。
「あれで所長は口が堅いからな・・・けど・・・なぁ・・・」
 トリコは小さなココに自分が嫌われている、と言うより敵視されている確信があった。
 自分を嫌っている相手の所へ進んで話を聞きに行く気には中々なれない。
「こまつがしんぱいしてるっていえばおしえてくれるって」
「あ〜お前が相手だったらそうだろうけどな。あいつの場合『貴方には関係ありません』って感じでオレには教えてくれねぇんじゃねぇか?」
 これはココにも言える事だが、自分で解決できると踏んだり、余りにも分が悪い時には黙って1人で事を成そうとする。
 小松と出逢ってからは【無理】な方はちゃんとトリコ達にも言うようにはなって来ているが、根本は変わっていない。
「でも、ココがなんとかできるならとっくにしてるって」
「・・・あいつじゃどうにもならない状態ってことかよ・・・」
 話しながらも小さいトリコの額に乗せられていたタオルを換えてやると、気持ちよさそうに目を瞑る幼い自分の姿があった。
 普通の子供ならば話す事も出来ない程の熱が出ているというのに意識を保っていられるのもグルメ細胞のなせる業なのだろうか。
 そこでトリコの思考に何かが引っ掛かった。
 グルメ細胞に適合出来なければ逆にグルメ細胞に食われてしまう。
 だがこの子供達は自分達のいうなればクローンであり、生まれながらにしてグルメ細胞を持っているのだからそれは有り得ない。
 ならばグルメ細胞はこの子供を生かそうとするだろう。
 それにも拘わらず、動けない程の熱を発する原因は何なのか。
「ったく・・・邪魔なガキって思ってたんだけどな・・・」
 小さな自分に聞こえない様に独りごちる。
 こんな風にその身を心配してしまう程、情が湧くとはトリコ自身も思っていなかった。





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