〜言の葉の部屋〜

永劫回帰 02




 白いモコモコした物体が家の中を走り回る。
「待てって、ってんだろ!」
 その後をサニーが触覚を伸ばしながら追いかけているが中々捕える事が出来ずにいた。
 白いモコモコした物体は目標を見つけるとパッと飛びつく。
「まつ!」
「うわっ、あ、危ないじゃないですか」
 料理をしていた手を止めてぶつかってきた物体に目を向けると、ぼさぼさの髪とニコニコした笑顔が飛び込んでくる。
 が、その髪からは雫が垂れていた。
「わり、洗ってやったら松に乾かしてもらうって走ってっちまった」
「まえや!まつがい!」
「我儘言うんじゃねーの」
 サニーが触覚を使って小松から引き剥がそうとするが、小さなサニーもまた触覚で応戦していた。
 小松の目には見えないがサニーが掴めないとなると小さなサニーの触覚の扱い方は確実に上手くなっているのだろう。
「たまいたいからまつがいーの!」
「まだ頭が痛いんですか?」
 小さなサニーの頭痛の原因は触覚の内、一番量が多い痛点が原因であった。
 その感覚を抑える術をサニーから教わっている筈なのだが、上手くいかないのか度々痛みを訴えているのである。
「つも言ってんだろ!慣れろ!」
「ま〜つ〜」
 ここで甘やかしてはいけない。
 言葉が拙い事からつい甘やかしてしまっていたが、精神年齢は別として実年齢は小さなトリコやココと同じなのだ。
 小松は自分にそう言い聞かせると小さなサニーと視線を合わせた。
「サニーさん、今日は自分で乾かしてみましょうか?もし、きちんと乾かせたらおやつにピスメチオとメチオンベリーのケーキを作ってあげますから、ね?」
「・・・たまいたい〜」
 これが小さなトリコならば食べ物で釣られてくれるのだが、小さなサニーには通用しなかった。
「・・・サニーさん・・・焦げ付かない様に混ぜて頂けるだけで良いのでお願いして良いですか?」
 結局、小松が折れる事になった。
「前、こいつに甘すぎ」
「自分でも解っているんですけどね。こうなると頑として譲らないんですよ」
 多分、いやきっと。
 小さなサニーは小松が乾かしてくれるまで濡れた髪のまま小松に引っ付いているに違いない。
 困った顔をする小松とは逆に、小松が乾かしてくれると解った小さなサニーの顔には満面の笑顔が浮かんでいる。
「じゃ、礼はさっきのケーキで」
「良いですよ。きっとサニーさんも食べると思っていましたから」
 ピスメチオとメチオンベリー。
 どちらの食材も髪の元となるメチオニンを大量に含んだ食材である。
 サニーは材料を聞いただけで、小松が小さなサニーの髪を気にしている事がはっきりと解っていた。
「にしても・・・」
 小松と小さな自分の後姿を見送りながら、サニーには気になる事があった。
 自分の経験では痛点が痛みを感じるのはそれ程長い期間では無い。
 外気に触れ、触覚で物に触れている内に段々と痛みの感覚が鈍くなり、終いには殆ど感じなくなる。
 いくらコントロールが出来ないからと、頭を洗った程度で痛みを感じる時期は既に終わっている筈だった。
「っても、待つには言えねぇからな・・・りあえず、トリコとココに言っとくか」
 あれが小松の気を引きたいが為の嘘ならば良いのに、と思わずにはいられなかった。




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