〜言の葉の部屋〜

永劫回帰 03




「それで、いつまで小松君に黙っているつもりなんだい?」
 ココの視線の先には小さなココがいた。
「あなたにはかんけいありません」
 その姿は小松の前に居る時と違い、全身が毒に覆われてしまっている。
「君の身体の事を最も詳しく知っているのはボクだ。そしてアドバイスをしてあげられるのもね」
「・・・むりです。あなたとぼくはちがいますから」
「違うって・・・君はボクだろ?」
「ぼくたちはうまれたときから、ぐるめさいぼうをもっていた。あなたたちはあとからぐるめさいぼうにてきごうした。そこでもうちがいます」
 グルメ細胞を持った細胞から生まれた小さな存在達。
 クローンの様に母体があった訳でもない。
 細胞から単体で育ち、その持ち主と同じ姿になった。
 それが不自然な存在である事を小さなココは理解している。
「確かに、その点は違うかもしれない。でも今の君の状況は解るよ・・・毒が制御出来ないって事はね」
「・・・」
「ボクも未だに感情の揺れで無意識に出てしまう事がある。生後数か月の君が完全に制御が出来る訳が無いんだ。君が放って置いて欲しいと言うから様子を見ていたけど、段々と制御出来ない毒の量が増えているよね?」
 図星だった。
 初めは指先だけだった。
 それが手、腕と範囲が広がり・・・今では全身に至っている。
 小松は優しい力だと言ってくれた。
 だが、此処まで広がってしまうと誰にも、小松にも触れる事が出来ない。
 今はまだ、小松の前でだけは押さえこめている。
 が、それもいつまで出来るか解らない。
「・・・やっぱり・・・だめなんです・・こまつさんはきっとだいじょうぶっていってくれるけど・・・」
「駄目?」
「しっているんでしょ?ぼくとココとサニーしかもういないって。けんきゅうじょのぼくたちはみんなしんじゃったって」
「・・・いや、それは初耳だな」
 小松から小さな自分が小さなトリコやサニーと違って研究所内部での記憶を持ち、そこで自分以外の自分の死を見てきた事は聞いていた。
 マンサムから渡された資料にはこの子供達が「一番長生きしている」との記載はあったが、研究所にいる筈の他の子供達については一切書かれていなかった。
「・・・しらなかったんですか?」
「所長からは聞いていない。君は何処まで知っているんだい?」
「マンサムしょちょうは・・・あなたたちにもはなしてなかった?ぼくにはおしえてくれたのに・・・?」
 確かに小さなココは自分達以外の者には内緒にして欲しいとマンサムに頼んでいた。
 それでもマンサムならば自分達のオリジナルである者達には真実を告げているだろうと勝手に思い込んでいた。
 自分達の様な者との約束を守ってくれる存在など、小松以外には居ないと思っていた。
「それだけ、君達は大切にされているって事だろうね。けれど、聞いてしまったからには全部話してもらうよ。君達の為だけじゃない。小松君の為にもね」
「・・・わかりました・・・」
「ならトリコとサニーを呼んでくるよ。君の話は皆で聞いた方が良さそうだ」
「あの・・・こまつさんは・・・」
「呼ばないよ。余計な心配を掛けたくないのは君だけじゃない。それに君の兄弟達もね」
 小さい自分が口にした【駄目】の意味。
 自分の目で見て死相が見えない以上、自分が思っているような意味ではない。
 だから小松を悲しませる様な事にはならない筈だと、ココは祈るしかなかった。




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