〜言の葉の部屋〜

永劫回帰 05




「気は進まないけど・・・行くしかないね」
「だな。んか隠してるだろーし」
「いくって・・・」
「研究所に決まってんだろうが。あそこの連中が何のデータも取ってねぇ訳がねぇんだよ。所長にも文句の1つや2つ言ってやりてぇからな」
 自分達の知る研究所の人間ならば、失敗した研究結果も必ずデータとして残している筈である。
 小さな変化から   死体に至るまで。
 実験に関わる全てのものを保管できるだけの場所があそこにはある。
「だれがいくんですか?それにいっても・・・」
 研究所に行く事で必ずしも成果が上がるとは限らず、逆に今以上の絶望を目の当たりにする可能性すらある。
 それに研究所で起こった事はマンサムが教えてくれている。
「全員で行くしかねぇだろ」
「本来なら君達と小松君は置いて行くべきなんだろうけど・・・君の話を聞く限りではあまり悠長にはしていられないみたいだ。それに君達が一緒に行けば、今の君達の状態も検査出来るからね」
 小松に聞く限りでは3人の様子を電話で時折マンサムに話す程度で、細胞や血液などの検体検査を行っていると言う話しは無い。
 IGOの研究所ならば設備も整っており、研究者が居なくてもある程度の知識があれば検査は行える。
 方法が見つからないにしても小さな自分達の今の状態を調べておくに越した事は無いとココは考えていた。
「前らだけ連れて行っても良いんだけどな、松を置いて行ったら・・・」
 帰って来た時にどれだけの文句を言われる事だろうか。
 これが小松に全く関係のない、トリコ達だけの問題ならば迷わずに小松は置いて行くし、小松も置いて行かれた事に関して何も言わないだろう。
 それは小松が他人の領域に無暗に不用意に踏み込んだりしないからなのだが、今回の状況はどう考えても小松の領域での話だ。
「だめです!こまつさんには   
「いつまでも隠せる事じゃねぇだろ。小松に心配させたく無いって気持ちは解るけどな、心配させる事になっても伝えなきゃならない真実ってものもある」
「つたえないといけないしんじつ・・・」
 伝えられない真実を隠す優しい嘘。
 小松を心配させない為には、自分達の変化は全て嘘で隠すと決めた。
「小松の気持ちも考えろ。自分の知らない所でお前等に何かあったら、アイツはきっとアイツ自信を責める」
「こまつさんの・・・きもち・・・」
 心配させたくない。
 困らせたくない。
 悲しませたくない。
 これは全部、自分達の想いであり、願っている事。
 決して、小松がそうしたくないと望んだものではない。
「お前は小松に後悔させる気か?オレ達はどうしたら小松が後悔しないか、それを真っ先に考える事にしている。その結果が小松を悲しませる事になってもな」
「こうかいさせない・・・」
「例えどんな結果になったとしても、行動を起こしたか起こさなかったで後悔するかしないかが決まる。君だって小松君に自分達の事で後悔なんてして欲しくないだろう?」
「松は前が考えるほど弱くはない。いや・・・松はオレ等よりも強い。心はな」
 サニーの言葉に、トリコもココも無言で同意する。
「それとも何もしないで症状が悪化するのをだた遣り過ごすのか?それで最悪の結果が来た時、小松がどんな想いをするか想像してみろ」
 悲しんでくれる事は解る。
 マンサムから研究所に残っている自分達の話を聞いている筈なのに『死ぬ訳が無い』『諦めたら駄目だ』と言い続けてくれた人なのだ。
 だが、小松の傍には自分達のオリジナルがいる。
 きっと自分達が与えてしまう悲しみも、彼等が一緒に居ればそう長くは続かないだろう、と小さなココには思えた。
「・・・あなたたちがいればだいじょうぶです。ぼくたちは・・・ほんとうはいないそんざいですから・・・」
 自分達をずっと覚えていて欲しいとは思う。
 それでも、悲しませるだけならば、少しでも早く忘れて欲しいとも思ってしまう。
「おれはやだぞ!」
 バタン、と扉が勢い良く開くと小さなトリコとサニーがそこには居た。
「お前等・・・立ち聞きしてたのか!?」
「こまつがめしできたからよんでこいって。で、きたらきこえた」
 家の中だからと気配を探るような真似をしていなかったのが裏目に出た。
 何より小松が近付いて来れば足音で直ぐに解る上に、この2人がこの部屋に近付く事は無いだろうと考えていたのだ。
「れもやだ!ずっといっしょにいるってやくそくしたし!きらめたらまつがなく!」
「だよな。ココ、おまえこまつにあきらめるっていえるのかよ」
 生きる事を諦めたら駄目だと、一番最初に言われたのはココ。
 そしてその言葉を信じて諦めずに生きる道を探していたのもココ。
 だからこそ、自分達には無理でもココならマンサムの話しから自分達が生きられる道を見つけてくれると思っていた。
 勿論、自分達でも考えてはみたのだが・・・マンサムやココの話は難しく、どうしても全てを理解する事が出来なかった。
「おまえ、わすれたのかよ。こまつのうそをほんとうにしようってきめただろ!」
 優しい嘘を真実に変える事が出来るのは、嘘の対象である自分達のみ。
 だから3人で決めたのだ。
 二度と悪い事は口にしないと。
 諦めるという言葉を口にはしないと。




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