〜言の葉の部屋〜

海誓山盟 03




 ぼくはもしかしたら、ぼくのきょうだいとちがうのかもしれない。
「いいですか、コ・マ・ツです」
「まつ!」
「だから、松じゃなくて小松なんですってば・・・」
 いちばんからだのちいさいサニーはトリコよりことばをしらない。
 でもトリコはぼくみたいになかにいたときのことはおぼえてない。
 だからトリコもサニーもじぶんがしんじゃうってきっとしらない。



 ぼくのからだはここにきたときより、すこしだけおおきくなった。
 けんきゅうじょだとふつうなのに、こまつさんはおどろいてた。
 ぼくは、もうすこしおおきくなったらしんじゃう。
 けんきゅじょでしんじゃったぼくまであとちょっと。
 おおきくなっただけでおどろいてたから、こまつさんはぼくがしんじゃったらどうするのかな?
「こまつさん、ぼくがしんじゃったらどうするの?」
「どうして・・・そんな事を聞くんですか」
 ぼくはしりたかっただけなのに。
 ずっとやさしかったこまつさんのかおがこわい。
 どうして?
「だって、ぼくはもうすぐしんじゃうから」
「誰がココさんにそんな事を言ったんですか?」
「なかからでたぼくたちは、みんなしんじゃった」
 けんきゅうじょのひともいってた。
 どうしたらぼくがもっとおおきくなれるのかなって。
 けんきゅうじょのひとはしらないけど、ぼくはぼくたちといっしょになったらおおきくなれるってしってる。
 でもここにはぼくしかいない。
「こんなに元気なココさんが死ぬわけないでしょう!」
「でも・・・みんないまのぼくよりおおきくなったらしんじゃったよ?」
 こまつさんのかお。
 こわいっておもったのに、ちょっとちがうかんじ。
「こまつ、しんじゃうってなんだ?」
 やっぱりトリコはしんじゃうってしらなかったんだ。
「しんじゃうって言うのは・・・皆さんと話す事も、美味しい料理を食べる事も、面白い物を見る事も、好きな人と会う事も何も出来なくなるって事ですよ」
「やだ!まつ、しんじゃうだめ!」
 え?
 しんじゃうとなにもできないの?
 しんじゃったぼくたちにまたあえるんじゃないの?
「ボクもハントに行って死にそうな目には良く会いますし、もしもの時の為に遺書を書いとけって言われたから行く度に書いてますけどね。でもどんなに危ない時も生きるって事を諦めたりはしませんよ」
「あきらめなかったら・・・しんじゃわない?」
「えぇ。諦めなかったら、こんなに元気で食欲がある皆さんが死ぬなんてありえないです」
 ほんとうに?
 おおきくなってもぼくはしんじゃわないの?
「言霊といって言葉は口に出したら力が生まれるんです。悪い事を言ったら悪いことが起きてしまうんですよ。だから、そういう事は言葉にしたら駄目なんです」
 でも。
 これはしんじゃうしるしじゃないの?
「・・・何かあったんですか?」
 いっていいのかな?
 きもちわるいっておもわれないかな。
「・・・あかくなるのはしんじゃうからじゃないの?」
「赤く・・・?」
 ぼくのてはときどきあかくなる。
 さいしょはゆびだけだったのに。
 どんどんどんどんあかくなる。
「はぁ・・・マンサム所長・・・説明が少なすぎですよ・・・ちょっと電話してきますから、待っててくださいね。あの人は・・・何も言ってこないって事は何も知らないんだろうなぁ・・・やっぱり事務局長にマンサム所長の連絡先聞くしかないか・・・」


 ぼくはしらなかったんだ。
 しんじゃったらなにもできないって。
 しんじゃったぼくたちにもあえないって。
 じゃあ、どうしてしんじゃったぼくたちはおなじとろこにいたの?
 ぼくはぼくたちがしらなかったことを、ぼくたちにおしえてあげたいのに・・・




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